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疲労をわかりやすく"分解"してみた。

「疲れてます?」

しっかり寝れてスッキリと思いきや疲労感が拭えない。取り敢えず休むのが無難ですが、的確に取り除きたいものです。疲労は記録向上を目指すランナーだけでなく、誰もが悩みを抱える問題でもあります。

疲労の形も様々なので、闇雲に対策を講じていては "モグラたたき" の様相を呈してしまします。そんな疲労の急所を打つためには疲労を "見える化" すると、対策がしやすくなりそうですよね。そのために疲労を4つに分解してみました。

【場所】【程度】【様式】【原因】

以下これらついて、文献情報を参考にした「疲労の見方」をご紹介してきます。


【場所】どこが 疲労しているか?

まずは身体のどこが疲労をしているのか?大きく2つ場所に分けることができます。

1つが「フィジカル」。
主に筋肉(骨格筋・内臓)が該当します。これらの部位の疲労の多くは溜まり方・抜け方が比較的早い傾向にあります。

もう1つが「メンタル」。
脳や神経そのものが該当します。フィジカルとは対称的に疲労の溜まり方・抜け方が遅い傾向にあります。ですので、メンタルの疲労が顕在化してくる頃には手強い状態になっていることが多いと思います。

筋肉は脳から伸びる運動神経からの電気信号を受けることで収縮します。ですので、これらの主従関係は「メンタル」→「フィジカル」になります。フィジカルの疲労の有無に関わらず、メンタルが疲労していれば疲労感が生まれます。多少筋肉痛があっても、気合があれば何とかなるものですよね。身体に効きそうなサプリメントに手を出す前に、心が休まる方法(入浴・ストレッチ・ウォーキングなど)に目を向けてみるのが最短経路かもしれません。


【程度】どれくらい 疲労しているか?

次にどれくらい疲労をしているのか? 疲労の【程度】という視点で見ていきます。疲労の程度が大きくなるほど、回復に要するコスト(時間・労力)も大きくなってきます。

疲労の程度は何段階かに分けられます。
日常的な活動で溜まるような "軽度" の疲労もあれば、マラソンのように激しい運動による "困憊" 状態の疲労もあります。前者は状態によっては数分~日単位で回復できるものです。しかし、後者は早くても数日、長い時は月単位で回復期間がかかる時もあります。
度を超えた疲労状態になると、身体が持つ機能では補えない "回復不能" 状態にもなります。 

疲労が小さい時ほど回復にかかるコストは低く抑えられます。毎日のちょっとしたケアを大切にし、日頃から "正常" 状態に近づけておくのが理想形でしょう。


【様式】どのように 疲労しているのか?

ここからは疲労がどのように溜まっていくのか?その【様式】を科学的に見ていこうと思います。

多くの疲労は何かが "減る" ことにより生まれます。栄養不足が生じれば倦怠感から始まり、病的な貧血や低血糖が起こり得ます。激しい長時間運動では身体に蓄えられていた糖(グリコーゲン)が不足することで、疲労感が増大していきます。また、その他にも脱水やナトリウム不足などによっても疲労が生じてきます。

 "減る" とは逆に何かが "増える" ことでも疲労は生じます。運動をすれば体が温まるように、身体を動かす際にエネルギーを作り出すのと同時に熱も生まれます。この熱をコントロールする体温調節システムがうまくいかないと、熱中症のような状態になります。100m走のようなダッシュでは、筋中にエネルギー分解産物(リン酸)などが溜まることで筋肉の収縮が阻害されると言われています。

これらの増減は細胞などの "箱" の中での動態になります。もう1つある様式は激しいストレスを受けて "箱" そのものが壊れてしまうことです。筋肉痛のような状態がわかりやすい例でしょう。"箱" が壊れることで箱の中身が血中に流れ出てきます。肝臓で起これば肝機能指標のALTやLDH、筋肉で起これば筋損傷指標となるCKが血中に流れ出てきます。
より大きなレベルで壊れるものとして、骨折や肉離れなどもこれに当たります。

このように "減る" "増える" "壊れる" の3つの様式によって疲労が生まれます。これらをイメージしてその時々に分析できると、より急所をつく対策がしやすくなります。


【原因】何で 疲労するのか?

では、疲労の正体が見えてきたところで「どうして疲労が溜まるのか?」、引き金となる【原因】を捉えてみたいと思います。

前述までの見方では、根本的な原因まで辿り着いたとは言えません。疲労を生む原因は外部からの『刺激・ストレッサー』になります。原因となる様々な刺激を "どのように" 受けるかで、疲労の形(どの場所の、どんな様式が、どれくらいの程度)が決定されます。その刺激は「自分」でコントロールしやすい刺激と、コントロールしにくい「環境」からの刺激に分けられます。

「自分」でコントロールしやすい刺激としては、『生活活動・運動』『食事』『睡眠』があります。刺激を適切に運動の負荷(強度×量×頻度)が多過ぎだったり、食事からの栄養が不足していたり、回復のための睡眠が不足していたりすることで起こります。

「環境」から生じる疲労は私たち自身ではコントロールしにくくなります。対策を講じることもできますが、天候のように限界があるものもあります。環境ストレスに対しては対策を講じつつも、ある程度は許容、慣れることもが最善の時もあります。

刺激はどうコントロールするかによって、プラスにもマイナスにもなり得ます。まずは自分で対策が講じやすい『生活活動・運動』『食事』『睡眠』のを見つめ直してみましょう。


疲労を味方につけよう 

ヒトは運動などの疲労から回復することで適応する「過負荷の法則」があります。それ故、疲労は頑張った証でもあり、成長する助走段階でもあります。適切なケアが講じられれば、レベルアップできることは間違いありません。

Q. 今、どんな疲労状態なのか?
Q. なぜ、この疲労があるのか?
Q. 今後、どんな疲労が起こり得るのか?

自分の「今」「過去」を見つめ直し、未来のよりより選択ができ、自分の理想の状態に近づけるうようになれば幸いです。


■ 参考文献 ■
・目崎登(2010)『スポーツ医学入門』文光堂
・八田秀雄(2017)『乳酸サイエンスーエネルギー代謝と運動生理学ー』市村出版
・Radak Z(2018)『トレーニングのための生理学的知識』樋口満訳,市村出版
・Owens D J et al., Eur J Sport Sci. 2019
・Bonilla D A et al., Int J Environ Res Public Health. 2020

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