見出し画像

実話怪談 第十九話 「拐う者」

突然ですが、自分は5歳の頃にお化けに拐われかけたことがある。
母方の祖父の家がある田舎で。
今回はその数少ない「自分自身が体験した」霊体験のことを書いていこうと思う。

自分が幼い頃、毎年盆と正月は母方の祖父の家に泊まりに行くのが恒例だった。
だが、田舎ということもあり遊び相手になってくれる同年代の子がいないうえに遊ぶ場所も何もない。
祖父は畑仕事、父親も母親も休みなのをいいことに、昼から飲み潰れているので遊んでくれる大人もいない。
だいたい一日か二日遊ぶと飽きてしまい「つまんない!帰りたい!」と駄々をこねることがいつものことだった。
ちょうど5歳のお盆、それを見かねた祖父が「じいちゃんの友達の家に一緒に行くか」と、友人宅へ連れて行ってくれることになった。
そこは歩いて10分ぐらいの距離にあった。

言ってはなんだが、祖父の家よりも数倍は広い敷地だった。
広い庭にはガレージがあったり、池には色鮮やかな鯉がたくさん泳いでおり餌をあげることもできた。
もちろん家の中もものすごく広く、子供の気を引くものがいろいろと置いてあったりする。

祖父は友人と話してるから、結局のところ子どもである自分は退屈なままだったが、その家では退屈はしなかった。
家の中を探検した。
一階を走り回って「あ、ここトイレだ!」「ここお風呂場だ!」といろんなところを騒ぎながらあちこち見て回る。
しかしすぐに一階を全部見終わってしまったので、今度は二階に上がっていこうと思った。
階段自体は玄関はいってすぐのところと家の裏手にあったので、最初のうちは玄関側を上ったり下りたりをして遊んでいた。
その家のおばさんが「上は家の人の個室があるから入っちゃだめよ」なんて言われるんですが、探検ですし入ってみようと思いながら二階を上りきった。

廊下をつきった先にもう一つ階段がある。
「すごい。こんな風につながってたんだ!!」
子ども心に家の中にもう一つ階段があることに興奮しました。
それでほかの部屋なんて見向きもせずにその階段を上ったり下りたりした。
もちろん先ほど何度も行ったり来たりして探検した廊下に出る。普通にさっきも見た家の中のはず。
ですが、何か雰囲気が違うというか、「あれ、なんだかおかしいなあ」と違和感を感じた。
でも、居間の方からは祖父たが楽しそうに談笑する声も聞こえてくるし、ちゃんとさっきと同じ家の中であることはたしかだ。
廊下には外に出られる大きな窓がある。何故かわからないか、その窓が異様に気になった。
「なんでこんなに気になるんだろう?」
と思いながら首を傾げてその窓を見てると、黒い人影が見えて窓の向こうから近づいてくるのがわかった。

「あ、誰かが裏口から家の中に入ろうとしてるんだ」て思ったが様子がおかしい。

窓にぶつかりそうなところまで近づいているはずのそれは止まることなく自分の方に近づいてきた。
窓をすり抜け、薄いレースのカーテンを押し上げながら。
レース越しに見えた「それ」は人間ではなかった。

人の形をした目も鼻もない真っ黒い何か。
今思えば多分焼死体ってあんな感じなんだろうという姿をしていた。
それが両腕を大きく広げて窓を見つめている自分に覆いかぶさろうとしていた。

「こいつに捕まったらまずい」と怖くなって、叫びながら祖父の声がする居間の方に逃げた。

「おじいちゃん!おばけ!お化けが出た!!」

泣きながら抱き着いたが、祖父は信じてくれなかった。
「お化けなんているわけないだろ」
周りの大人にも笑われてた。
実際さっきの窓のところに行っても誰が開けたのか窓は開け放たれていたものの、先程見た「黒い人」もいないので「ほら、何もいないじゃないか」とまた笑われた。
祖父の家に戻って酔った両親に話しても誰も信じてくれなかったので、結局この話は誰にも話さなくなってしまった。

数年後小学校三年になった頃にその家をまた訪れることがあった。
「黒い人」がいた廊下に行ってみたもののやはり何か違う雰囲気を感じた。
「あれこんな場所だったかな」と思うものの、やはり記憶の中の家のあの場所。
リフォームをして何かが変わっているというわけでもない。
あの「黒い人」が現れたときは、その場所だけ切り離された「別の場所」というような感じだった。

それから二階にも上がって確認してみたが、廊下を突っ切ったところは突き当り壁になっており、あったはずの階段がなく、別の部屋を経由しないと件の階段にはでられない構造になってた。

いや、あの「黒い人」が出た窓のところに階段自体はちゃんとある。

そこから階段上って確認してみても、二階の廊下に直接一直線につながっているのではなく、

ドアを隔ててまた別の廊下がある。
つまり別の部屋経由でないとその階段を下りて件の窓の前に辿り着けない家の構造になっている。

ではあの時突き当りにあった階段はなんだったのか?

もしかしたらあのときの「黒い人」が仕込んだ罠だったのか。
自分をどこかに連れ去るために。

もしあの時あの「黒い人」に捕まっていたらどうなっていたのか。
そして祖父のいる居間の方に逃げずに、逆方向や元来た階段を上っていたら自分はどこか別の場所に行かれてしまったのか。

もしそうだったら、自分はこうしてここで怪談を書いているなんてこともなかったかもしれない。

結局「黒い人」の正体もわからなかったが、今思い出しても背筋が寒くなる。
そんなお話。

ところでこのお話を読んでいる皆さん、今どちらにいますか?
田舎でも街中でも、行ったことがない場所や見知らぬ場所があるかもしれません。
もし「あ、ここ気味悪いな」とか「なんか嫌な感じがするな」って場所があったら絶対に近づかないでください。
それから「ここなんか面白そう」とか何故か異様に興味を惹かれる場所、そこにも絶対に近づかないでください。
もしかしたら、この世の者でない「何か」が呼んでいいて別の場所へ引きずり込もうとしているのかもしれません。

だから決して近づかないでください。
もし不用意に近づいて「引きずり込まれてしまったなら」ちゃんと帰ってこれる保証なんてないんですから。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?