小話エッセイ/黑人魚(ブラックマーメイド)②
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その日も、常と変わらぬ平凡な日曜として夕暮れを迎えるはずであった。
いつものイオン、いつものスタバ、そしていつものエッセイ書き。
恋愛エッセイは中止した。
読み手の冷笑がこちらに伝わってくるようで居たたまれなかった。
これまで書き溜めた長編小説も、きっと全部ダメなのだ。おしまいなのだ。ああ!
・・そんなネガティブな思考の流れさえ、いつも通りといえばそうであった。
「さて、と」
ノートパソコンを仕舞って立ち上がる。
夕方とはいえ外はまだまだ暑いだろう。
けれど腹が減って死にそうだ。
ケンタッキーでチキンを買って、持って帰って食べようか。
うん、それがいいな。そうしよう。
私はお気に入りの黒いロングスカートのひだをちょっと整えてから、スタバのトレイを持ち上げた。
チキンの入った袋を下げて、自転車を軽快に走らせる。
帰りはゆるやかな下り坂。
風をはらんだ薄萌木色のブラウスが、肌にさらさらと心地いい。
右手にいつもの激安スーパーが見えてきた。
野菜だけ買っておこうかな。
体を少し傾けて、私は自転車のハンドルを右に切った。
==数十分後==
~とあるマンションのクローゼットにて~
「モエモエ、それで?」
お冬は先を促した。
「自転車のタイヤにスカートの長い裾が絡まってね。スピード出してたもんだから、ホイールに一気に巻き取られちゃって・・」
と、クローゼット前でハンガーにかけられたブラウスが答えて寄こす。
「まぁ」
青い顔をもっと青くして、お冬は声を上げた。
「ゴムのスカートがずり下がった御主人、見てられなかったわぁ。汗みずくで黒人魚を引っ張るんだけど、全然取れないわけ」
スカートのガッチリ絡まった車輪はびくとも動かず、結局通りがかった見知らぬご夫婦が助けてくれたのだという。
「それで彼女は・・?」
可哀そうな黒人魚、オイル臭いタイヤに巻かれて裾がズタズタ、10センチほどの大きな破れと、数えきれないほどの小さな穴で、見るも無残な姿になったらしい。
「おお・・」
クローゼット中の洋服たちが、一斉に絶望の声を上げる。
風呂場からは、御主人の洟をすする音が聞こえてきた。
スカートがおじゃんになった哀しさか。
転倒しかけた際ペダルでしたたかに打った脛の痛みか。
助けてくれたご夫婦に気の利いた礼も言えず、ただ頭を下げるばかりでロクに顔も覚えていない情けなさか。
おそらく、それを全部をない混ぜにした惨めさに浸っているのだろう。
「黒人魚さん、どうなるのかしら・・」
「さすがにもう穿けないんじゃない?」
「えっ、捨てられちゃうの?」
どうなる、黒人魚。
(つづく)
まとめる力がなく、だらだら続いてお恥ずかしい限りです。。
次回(8/12(土))必ず完結します。
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