親父の話~できない人編~

うちの親父は結構パンチが効いている。

若い頃はヤンチャだったらしく、色々と悪さをして、県内最底辺のバカ工業高校を中退した。

根が悪人というわけではない。

単に、あまり(というかかなり)勉強が得意ではなく、何か熱中できるものも見つけられず、女性にモテるわけでもなく、腕力は人よりちょっと強く、アフロヘアだっただけなのだ。

持て余した青春のエネルギーが向かう先は、推して知るべしである。

高校を中退したあとは、職を転々としながらブラブラした後、結局は稼業の農業を継ぐことになった。

ただ、嫌々仕事を継いだのが丸出しだったため、超仕事人間だった「親父の親父」、つまり私のおじいちゃんとは毎日ケンカしていた。

どちらも血の気が多く、日ごろの農作業で鍛えたパワーがあったため、イスをぶん投げてガラスを割ったりとなかなか激しめなケンカだった。

私が生まれる前からはじまっていたケンカは、私が生まれ、弟と妹が生まれ、それぞれが成長していく間もずっと続いた。子供達は日々成長しているのに、親父達はまったく成長せず、毎日同じようなケンカを繰り返した。

その荒んだ環境は、幼少期・思春期の私にはなかなかのストレスだったと思う。

しかし、今となってはあまり親父を責める気はしない。

親父は、「仕事をしない」といっておじいちゃんに怒られていたいたが、「しない」のではなく、「できない」のだ。

彼は、実にいろいろなことが自分一人ではできない。

もうかれこれ40年以上従事しているであろう農業も、主要作業はすべて母親が担っている。

彼は思いものを持ち上げたり、運んだりするのがメインの役割だ。

シンギュラリティでAIに取って代わられるのを待つまでもなく、ちょっと気の利いたロバでも代替可能な仕事である。

その他、電車に乗れない、漢字をかけない、ご飯をよそえない、ビデオ録画ができない、買い物ができない、蝶々結びができない、きちんとありがとうが言えない、などなど。

親父のできないことには枚挙にいとまがない。

ちなみに、3年前くらいから実家の「お風呂担当」に就任し、お風呂の湯沸かしはできるようになったらしい。ボタンをひとつ押すだけだが。(風呂掃除は母親。)

生まれたての赤ちゃんのごとき圧倒的な人任せスタイルに、「人間、こんなに何もできなくても生きていけるんだ!」という驚きを覚える。

しかも、それでいて、それなりに周囲の人間からは愛され、本人に卑屈なところもないからすごい。

これだけ何もできないのに、悲壮感がまったくないのだ。

「三つ子の魂百まで」という言葉があるが、彼はこのままいくと「三つ子のまま百まで」を達成しそうである。どれだけ前世で徳を積んだら、こんな風に赤ちゃんのまま生きていくことを許されるのだろうか。

親父の前世はダライ・ラマだったのではないか、と私はにらんでいる。

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