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敵を欺く姿にヒリヒリ! 息もつかせぬスリリングなスパイ映画5選!

『マリアンヌ』

製作年/2016年 監督:ロバート・ゼメキス 出演/ブラッド・ピット、マリオン・コティヤール

諜報員同士の成りすまし夫婦がむかえる結末とは!?
その”出逢い”は、スリリングで情熱的だった。第二次大戦下のカサブランカで二人は諜報員として出会い、仲睦まじい夫婦に成り済ましたまま、現地のドイツ大使の暗殺に打って出る。初めてのミッションはこれ以上ないほど大成功。やがて彼らは猛烈に愛し合い、ロンドンで新婚生活を始め、やがて子宝に恵まれるなど未来は輝かしいものに見えた。しかし……。

序盤は、名作『カサブランカ』(42)にも似た空気感を織り交ぜながら男女の駆け引きを描き、かと思えば後半、事態は予想を遥かに超えた心理戦の様相を呈しはじめる。主演のブラピはかつてアンジェリーナ・ジョリーと『Mr.&Mrs.スミス』(05)に主演したが、本作に少なからず重なり合うテーマとエッセンスを感じ取る人もきっと多いはず。ゼメキス作品ならではの特殊効果も健在で、砂嵐が吹き荒れる中、クルマの座席で愛し合う二人を映すカメラが、窓ガラスをすり抜けて遠ざかっていく場面など、クラシカル&マジカルな映像そのものがまるで一人のスパイの如く介在しているのが印象的。

『裏切りのサーカス』

製作年/2011年 監督/トーマス・アルフレッドソン 出演/ゲイリー・オールドマン、コリン・ファース

凄腕諜報員たちの頭脳戦にシビれる!
英国情報部の幹部メンバーの中に「もぐら(二重スパイ)」がいる。東西冷戦下でその人物は、英国のために身を捧げているように見せかけながら、ソ連側に情報を漏らしているというのだ。ティンカー、テイラー、ソルジャー、プアマン……秘密裏にそう名付けられた面々をターゲットに、いま初老スパイ、ジョージ・スマイリー指揮下の炙り出し作戦が幕を開ける。

いやはや、これは数あるスパイ映画の中でも最高級の味わい。銃撃戦や格闘などが全く起こらない中で、一筋縄ではいかない諜報員たちの血の涙もない頭脳戦が繰り広げられ、その向こう側にはいつもうっすら、自分たちを写す鏡のごとく組織化されたKGBの気配が見え隠れする。70年代BBCドラマでは『スター・ウォーズ』オビ=ワン役、アレック・ギネスが名演を見せたが、これとはやや印象を異にする新たなゲイリー・オールドマンの存在感がまた絶品。わずかな仕草、声のトーン、眉や広角の動きにすら気が抜けない。ちなみにクリスマス・パーティ場面で原作者ジョン・ル・カレもちらりと映るので、お見逃しなきよう。

『カンバセーション ・・・盗聴・・・』

製作年/1974年 監督/フランシス・フォード・コッポラ 出演:ジーン・ハックマン、ジョン・カザール

盗聴屋が知った男女の運命とは?
オスカー獲得した『ゴッドファーザー』を太陽とするなら、その直後にコッポラが手掛けた本作はまるで月のようにミステリアスな光を放つ一作だ。男の職業は盗聴屋。頼まれた仕事なら何でもこなし、決して細かな事情に踏み込むことはない。だが今回の一件は違った。公園で密会する男女をガンマイクで盗聴し、内容の解析を進めるうちに彼は、男女が誰かに命を狙われているのではないかというパラノイアを膨らませはじめる。果たしてその真相は……。

もともとアントニオーニ監督作『欲望』やヘルマン・ヘッセの小説などから影響を受けて着想した本作。製作準備中にウォーターゲート事件が勃発し、スタッフ一同、フィクションが現実化したかのような衝撃を受けたとも言われる。ちなみにジーン・ハックマンはこれとよく似た役柄で24年後、『エネミー・オブ・アメリカ』(1998年)に登場。盗聴の特殊技能や鉄網だらけの仕事場、半透明コートなど、随所に目配せらしきものが垣間見られる。ストーリー的には異なるものの、どちらも鑑賞すれば楽しみ方が2倍に広がる。

『ミュンヘン』

製作年/2005年 監督:スティーヴン・スピルバーグ 出演:エリック・バナ、ダニエル・クレイグ

終わりなき憎しみの連鎖を描く!
今年『フェイブルマンズ』で高評価を集めたスピルバーグ と戯曲家トニー・クシュナーが初コラボした一作。時は1972年、ミュンヘン・オリンピックの選手村にアラブ系テロリストが乱入し、11人ものイスラエル人の命が奪われた。これを受けてイスラエル政府は秘密裏に報復を指示。アヴナーをはじめ5人の工作員たちは「祖国と民族のために」と使命感を燃やしターゲットを抹殺していくのだが、彼らも憎しみの連鎖から逃れられなくなり、一人また一人と無残に命を落としていく……。

さすが史実を伝えるときのスピルバーグは一切の妥協と容赦がない。事件の生々しさや工作員が陥る極限の精神状態をむせ返るほどの臨場感で描きつつ、それでいて“home(祖国、家)”という概念を巡って人が優しくも非情にもなれる恐るべき無限地獄を浮かび上がらせていく。世界が9.11テロやイラク戦争を経て”復讐”の終わりのなさを痛感する最中に製作、公開された本作。ラストにそびえるツインタワーが、重く深い意味合いを投げかけている。

『誰よりも狙われた男』

製作年/2014年 監督/アントン・コービン 出演/フィリップ・シーモア・ホフマン、レイチェル・マクアダムス

複雑化した諜報戦の内幕を描く!
ジョン・ル・カレ原作による激渋なスパイ映画。かつて9.11テロの実行犯らが拠点にしていたとも言われるハンブルグを舞台に、諜報組織内のライバル同士やCIAらが繰り広げる”新時代の勢力争い”をジリジリと焼け焦げるような筆致で描く。起点となるのは、この地にふらりと流れ着いたイスラム系チェチェン人の若者。どうやら彼は莫大な遺産を相続しているらしく、彼を泳がせて資金の流れを辿れば隠れたテロ計画を炙り出せるかも……そう画策するベテラン諜報員バッハマンだったが、事態は思いもよらない力学によって内側からことごとく崩れ落ちていく。

名優フィリップ・シーモア・ホフマンの最晩年作品としても名高く、タバコをくゆらせ、相手を出し抜き、焦燥に駆られ、笑顔を浮かべつつ刃のような言葉を突きつける姿が、まさにリアルなスパイとしての凄みを漂わせる。悪者は一人も登場しない。誰もがより良い世界を望んでいる。なのに周囲の誰一人として信用できず孤独は増すばかり。暗闇の中、おぼろげな出口を求めてさまよう、玄人好みの一作である。

文=牛津厚信 text:Ushizu Atsunobu
photo by AFLO


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