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日欧ヘヴィメタル業界を比べて思うこと

 文化や学校教育の方針、日欧には様々な違いがあります。もちろん、音楽業界も例外ではありません。アジア人女性として初めて Wacken Open Air に出演した私が、日本と欧州(特にドイツ)のヘヴィメタル業界(ミュージシャン、マネージャー、エージェント等)の違いを考察してみました。

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 因みに、客観的に見てどちらがどちらより優れているという話ではなく、その人の性格や目指すゴールによって"どちらが活動しやすいか"という話だと感じます。(ちなみに、私はだんぜん欧州型です。)
 また、私の経験を元に考察したので、あくまで私が"個人的に"感じた"傾向”として読んで頂けると幸せです。私が知らないことも多いでしょうし、日本であれ欧州であれ、違う形態で活動しておられる方もいると思います。
 では、前置きはこれくらいにして、そろそろ本題に入りましょう。


自律的アーティストの欧州・他律的アーティストの日本

 先日、久しぶりに手にとってみた本があります … 秀間修一氏による「すぐに役立つ音楽著作権講座」。その本編一番最初の見開きのページ(p.5)の次の言葉にとても共感しました。

「…欧米では、アーティストやそのスタッフが著作権制度を良く理解し、その知識を最大限ビジネスに活かそうとしているように感じられます。これは日本の場合はプロダクションがアーティストの全ての活動をマネージメントしているので、アーティスト自身は3K(権利、規定、契約)の知識がなくても活動に支障を来さないのに対して、アメリカなどでは日本でいうところのプロダクションという業種が存在しないため、アーティスト自身が知識を身につけるか、または、知識を身につけているマネージャーや弁護士を雇わなければ活動ができないというビジネス環境の違いによるものではないでしょうか。」

 日本のシーンで約6年ほど活動した後(レーベル・オファーも2件ほど頂きました)、たった一人で欧州へ渡った私。ハンブルク路上でビラ配りから始めて、現地レーベル契約を獲得。その後は、周囲にアジア人0という状況で現地音楽業界の方々と英語で討論&交渉する毎日でした。そんな私にとって、上記の文章は「まさにその通り!!」
 プロダクションが皆無という訳ではないけれど、欧州ではアーティストがもっと自力で立っているように感じます。(正直、あまりアメリカの状況については詳しくありませんが、聞いた話をまとめると、欧州、特にドイツはアメリカ以上に自立傾向が強いように感じます。記憶が正しければ、あのマイケル・キスクでさえ、ハロウィン脱退後、"個人的な"専属マネージャーはいなかったと聞きました。一方、顧問弁護士のいないアーティストは希で、大抵どこの法律事務所にもエンターテインメント業界やアーティスト担当を専門にしている弁護士がいます。)

日本と逆?決定権は誰にある?

 正統派メタル・アーティストに限ってですが、欧州では寧ろ、駆け出しのアーティストほどプロダクションや専属マネージャーに交渉事を"全て"任せている印象を受けました。恐らく知識がないので、任せるしかないのでしょう。しかし、ある程度の経験や知名度のあるアーティストは、その多くが直接交渉事に関わってきます(日本は大物になればなるほど、直接交渉がしづらくなり、常にマネージャーを通さねばならなくなるので、ある意味、逆でしょうか)。

欧州音楽業界の現実:光と影
 私の知る限り、大抵の欧州系アーティストは、そうした駆け出しの時期にプロダクションや専属マネージャーに利用されてしまいます。凄い枚数のCDが世界中で売れているにも関わらず借金地獄に陥ったり(これはドイツあるあるか?!)、めちゃくちゃツアーしてるのに一銭も入ってこないとか、そんな話ばっかりです。知識のないアーティストは、専属マネージャーやプロダクション抜きに何も活動できない訳ですから、騙されたとしても、そして、仮に「何かおかしい」と気づいたとしても、一体どこでどのように騙されているのか……うやむやにされてしまう訳です。また、「お前を活動させてやってるのは俺たちなんだから口出しするな…」という様に、創作活動において譲らざるを得ない場面が出てくることもあります。
 そうした苦い経験を経て、欧州のアーティストの多くは、やがて自身で知識を身につけて交渉に参加する必要性を感じ始め …… 知り合いの中には、音楽活動しながら法律学校に通い、音楽専門の弁護士になったアーティストもいます。(かくいう私も、弁護士とまでは行きませんが、知的財産管理技能士になりましたし、米国バークリー音大通信教育で音楽業界の法律知識の基礎の他、諸々を修了しました。)つまり、知識で武装して、できる限りの自由を得ようとするのです。経験を積みながら子供が親元を離れようとする、あるいはフリーランス化してゆくというイメージでしょうか。
 ただし、全く一人では大した活動はできません。だから最終的に、アーティスト側がエージェントやマネージャー、プロモーターを雇って活動範囲を広げるという図式に落ち着きます。ここでのポイントは、日本とはお金の流れや立場が逆という事(欧州では、アーティストが、取り分など契約内容をエージェントやマネージャー、プロモーターと交渉し、お金を払う)。だから、何事もアーティスト側に最終決定権が残る訳です。
 何にも誰にも縛られない自由を手にしながら、実力次第(音楽的な実力だけでなく、交渉事や権利の知識を含めた総合的な実力)で世界規模の活動が可能となる……これが欧州メタル界でアーティスト活動をする醍醐味だと感じます。

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▲2005年、2nd アルバム制作時の一枚(🇩🇪ハンブルクのTornado Studios にて)

敏腕弁護士や敏腕マネージャーの取り合い?!

 勿論、アーティストをよく理解し、彼らの意思を何より尊重するマネージャーやプロダクション、レーベルもあります(多くのミュージシャン達と心置きなく会話できるようになれば、そういう情報も入ってくるようになります)。運よくそうした方々に出会えば、アーティストは彼らと最高のタッグを組み、安心して創作活動に専念できます。また、ドイツに限って言えば、売れれば殆ど必ずと言っていいほど法廷闘争レベルの揉め事が起こるので😅、そんな時にアーティストの立場を理解して救い出してくれる弁護士も必要です。だから、敏腕マネージャーや敏腕弁護士が取り合いになる訳です。

アーティスト間での交渉の進め方

 少し話が逸れましたが、そんな訳で、欧州では、世界レベルの大物アーティストでも、個人単位ではこうしたフリーランス(?!)状態であることが少なくありません。ですから、間にマネージャーもプロダクションもいれず、一人の"アーティスト対アーティスト"として直接交渉できる訳です。(少し話せば、互いの経験値や知識はわかりますから、話を対等にできる相手かどうかは、互いにそれで判断します。また、ミュージシャン同志の横の繋がりも大切です。)契約を交わす時などは、必要に応じてマネージャーやエージェントなどの第三者が出てきたりもしますが、制作段階においては、いちいち第三者を通す必要はありません。

専属マネージャーやプロダクション契約には気をつけろ?!

 私自身について言えば、前回の欧州活動時は専属マネージャーやプロダクションがついていた為、完全な自己決定権を持てずに苦労しました。「これでは困る」と思い、途中で契約書を作り直し、「何事もSaekoの同意なしに実行できない」という条項を加えましたが、それでも、著作権の虚偽登録や契約違反等の被害を受けて、途中で活動を諦めざるを得ない状況に追い込まれました。まさに上に説明した失敗に陥った訳です。その直後、日本の某メジャー・レーベルの社長さんに国際裁判をおこす様に勧められもしましたが、一個人である私にそんな大金はありませんでした。
 ですが、一体どこで何がどうなって虚偽レポートが私に届いたのか、どこで騙されたのか……それを理解したかったので、その後、日米の著作権法を一から学んで知財技能士となりました。更には、ミュージシャン網を使って調査、分析……犯人とおぼしき人たちに見当をつけて、日本と欧州の弁護士とともに大陸間交渉……10年以上かけて権利をすべて取り戻しました(失われたお金は戻りませんが、そこは諦めます)。また、英文契約書に慣れる為に、英語の底力も鍛える必要があると思い、海外大学院で"英語言語と文化学"の修士も取得しました。現在は、日本と海外に対応できる顧問弁護士をつけています。しかし、専属マネージャーは付けていませんし、個人的にはプロダクションにも属していません。その方が安全だと思っています。(非専属マネージャーは欲しいけど、でも、今は雇うお金が足りないんですよね😢)

独立=素人なのか

 欧州であれば、このように自分で知識をつけて独立しているアーティストを、それだけで素人と判断することはありません。一方、日本は「ある程度の経験やステイタスのあるミュージシャンは直接交渉できない」のが常識となっているのか、時々「直接交渉できるアーティスト=素人」とみなす人と出会います。その事実だけで話の機会が奪われてしまった事が何度かありました。プロジェクトSAEKO再結成のメンバーに日本人を見送った理由の一つにはそれもあります。勿論、日本独特のスタイルを非難する気はありません。日本スタイルの方が分業されていて、効率が良いのかも知れませんし、日本スタイルの方が合うアーティストもいるでしょう。しかし、そのスタイルで活動するアーティストしか一流とみなさないのは違うと思います。 
 特に私は"表現したいこと"や"好みの音"がハッキリしているので、できる限り自分で決定権を持ち、100%納得できる作品作りができる環境を望みます。その為に少しくらい効率が悪くなっても構いません。心から湧き出る想いを楽曲にしていきたいし、"売れるかどうか"云々よりも(勿論、それも考慮しなければならないのはわかっていますが)表現活動のクオリティを大事にしたい。
 だから、日本でも、そうしたアーティストの"自発的・自律的"な活動がもっと許されてほしいと願っています。そのような"一流アーティスト"のあり方だって、もっとあって良いと思います。外部からの力ではなく、内部から爆発するように自然に溢れ出てくるのが生命のエネルギーであり、究極的にはそれを表現するのが芸術だと思うから…。特にロックやメタルなんて、そうじゃないの?
 日本の枠に固まり過ぎず、世界の様々なスタイルに目を向けたい。そして、今後 海外を視野に入れた活動を目指すミュージシャンの皆さんには、頭を柔軟に保ち、自ら交渉に応じられるよう、少しでも、権利・規定・契約の知識を身につけて欲しい。

最後に……

 日本は大好きやけど、音楽業界の構図を含め、私の様な変り者には生き辛い時もあるのよね。”その他大勢”に理解されない案は採用されない空気を感じるし。一方欧州は変り者が案を出し、それに共感する少数の変り者が集まり、最後は予想を超える物を作れたりする。どっちが正解でもない。欧州スタイルの方が一人当りの労力は大きいけど、でも、”その他大勢”に潰されるより、私にはこっちが性に合うな。
 そんな想いを抱きながら、今も🇩🇪でアルバムのミックス作業中です😊


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