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詩集B(20代の頃に書いた作品群)

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社会派ミステリー小説、PHASEシリーズの著者 悠冴紀が、大学時代から20代の終わり頃にかけて書いた(今へと繋がるターニングポイントに当たる)詩作品の数々を、このマガジン内で無料… もっと読む
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#退廃

詩 『曼珠沙華』

作:悠冴紀 赤い大地 血のような 炎のような 曼珠沙華が咲き誇る 鮮やかな赤 毒々しくも繊細で 雨ざらしの野に 凛と伸びる 曼珠沙華が萌える 混沌の記憶の中に 血のような 炎のような 一面の赤 ── 無彩色の季節を越え 今 再び 懐かしいような 初対面のような 野生の赤い曼珠沙華 私の歩む畦道に また かつてに増して鮮やかに 神秘的な赤い花一輪 ※ 2003年(当時26歳)の作品。 曼珠沙華とは、言わずと知れた彼岸花のことです。その翳のある妖艶な姿はしかし、思わ

詩 『戦士の骸』

作:悠冴紀 極端すぎた変革 反乱の渦 人々はある日突然 戦士になる 求める神の食い違い バラバラに砕け散った世界 脱落していく同志たち この手が殺めた敵兵たち 巻き添えを食らった民たち 辺り一面 死ばかり 戦火を浴びて 破壊を繰り返し 戦う目的さえ忘れて 血に飢える 身が削れる 精神が削れる 世界が削れる やがて戦乱は去り 空虚だけが残る 戦士は気付く もはや自分の居場所がないことに 握り締める武器だけが友だった孤独な戦士 戦うことだけが人生だった勇ましくも

詩 『涙』

作:悠冴紀 泣いている 毎日毎日 泣いている 扉の向こう側に すべての人間を閉め出して 一人という安全に身を置くと 私は毎日欠かさず 泣いている 涙は余計な感情を洗い流す道具 考えることにさえ疲れてしまったから ただひたすら涙を流す 他人に何かを求めることが どれだけバカらしいか覚ったから 独りで泣く この人生には 邪魔なものが付着しすぎている うっとうしい感情が多すぎる だから 大粒の涙を搾り出して さっさと汚物を流し出す それでも毎日泣いている 流しても

詩 『風の泉』

作:悠冴紀 ライン川のほとりで 人知れず傷付いた足を癒すライオンを見た ナイル川のほとりで 人知れず涙を拭う隼を見た ボルガ川のほとりで 人知れず疲れた翼を休める鷲を見た 望んだ勝利を得た果てに 「独り」という代償の重みを知り 目指した理想の向こう側に 壊れた文明の廃墟を見る 枠組みの中の王者たち かつてすべてであった王冠を背に 風の泉に帰り着く 雲分ける風に吹かれるとき あるがままの現在を知る 泉の水面に触れるとき 優も劣もない未来を知る かつて不落と思われた

詩 『敗北者』 (20代前半の作品)

作:悠冴紀 認めるよ 私は敗北者 自分を哀れむことだけは 絶対すまいと思っていたのに 諦めることだけは 絶対すまいと決めていたのに 誇りを守ろうと 構えていた 人生を守ろうと 闘っていた 無駄な努力だった 何もかも 私は敗北者 だけど怖いものは何もない 傷付くものも失うものもなく これ以上 堕ちようがないから ゼロになった 「強い」も「弱い」もない 「良い」も「悪い」もない 何故だか いつになく落ち着いている 背中が軽い 大事にしてきたものすべてを失って

詩 『悪 夢』

作:悠冴紀 昨日 悪夢を見た これまで味わったこともない恐怖の味 そこには親友がいない 私には “ 今 ” しかなかったのに 親友が “ 今 ” のすべてだったのに “ 過去 ” の亡骸 “ 未来 ” の虚無 私には “ 今 ” しかなかったのに 親友がいるから生き延びてきたのに 生きるか否か 迷っていた そこには親友がいない 永久に相容れない大勢と 家族という名の他人に囲まれて 私は呆然と立ち尽くしている まるで糸の切れた操り人形 生き甲斐そのものを失っ

詩 『炎』

作:悠冴紀 炎よ 燃えろ 焼き尽くせ この魂を 躊躇は要らぬ 我が身は燃ゆるべくして在るもの 炎よ 燃え上がれ 空を目指して黒煙を上げ 私の全てを焼き尽くせ 私は恐れぬ 私は拒まぬ 自ら踏み入り燃え尽きよう 炎よ さあ 焼き尽くせ 明日はないものと力の限り 私の望みは永遠にあらず 凝縮された瞬間の炎 だからさあ 炎よ 燃え上がれ 全身全霊で迎え受けよう そうして生み出される紅い光のために この身は消耗品として在るものだ 無