つながらない権利 法制化と厚生労働省 労働基準関係法制研究会
厚生労働省「労働基準関係法制研究会」は「新しい時代の働き方に関する研究会」につづいて設置された厚生労働省の有識者会議になり、検討事項は「『新しい時代の働き方に関する研究会』報告書を踏まえた、今後の労働基準関係法制の法的論点の整理」と「働き方改革関連法の施行状況を踏まえた、労働基準法等」とされています。
厚生労働省 労働基準関係法制研究会 第10回
厚生労働省(労働基準局)有識者会議「労働基準関係法制研究会」の第10回研究会開催について明日(2024年7月31日)に開催されます。
また本日(7月30日)午後に資料が厚生労働省サイトに公開されましたが、資料は『労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇』と題されています。その資料『労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇』43ページは「つながらない権利」(第2回「労働基準関係法制研究会」資料1より抜粋、一部改変)となっています。
資料『労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇』(PDF)
つながらない権利が労働基準関係法制研究会で
東京新聞(デジタル版)は今月(2024月7月)17日に『「つながらない権利」あなたの会社は認めてる? 欧州を中心に法制化進が、なぜ日本は反応が鈍いのか』(「法制化進が」の意味が不明ですが「法制化進む」の「む」が抜けているのかもしれません)と題する記事を配信しています。
その記事の中に「国内でつながらない権利の法制化が進んでいない理由について、厚労省の担当者は取材に『分析できていない』と説明。連合の法制化の要望については『今まさに研究会で議論されており、いつまでにという時期は決まっていないが、今後方向性をまとめていく』と述べるにとどめた」と書かれた個所があります。
まず、東京新聞が何故日本では「つながらない権利の法制化が進んでいない理由」を厚生労働省の担当者(つまり厚生労働省労働基準局)に質問されたようですが、私も可能なら同様のことをたずねてみたいと思っていました。まさにタイムリーな質問ではないでしょうか。
その質問に対して厚生労働省の担当者は「分析できていない」と、はぐらかしたような回答をしていますが、ただし、連合(日本労働組合総連合会)の「つながらない権利」法制化の要望については「今まさに研究会(労働基準関係法制研究会)で議論されており、いつまでにという時期は決まっていないが、今後方向性をまとめていく」と述べているそうです。
「つながらない権利」あなたの会社は認めてる? 欧州を中心に法制化進が、なぜ日本は反応が鈍いのか(東京新聞サイト)
つながらない権利 法制化(連合)要望とは
厚生労働省「労働基準関係法制研究会」(第7回)は今年(2024年)5月10日に開催されましたが、議題は労使団体ヒアリングとされて経団連(日本経済団体連合会)鈴木重也・労働法制本部長と連合(日本労働組合総連合会)冨髙裕子・総合政策推進局長から厚生労働省会議室でヒアリングが実施されました。
なお、連合は労働基準関係法制研究会(第7回)資料として『労働基準関係法制のあり方に関する連合の考え方』と題して文書を提出していますが、『労働基準関係法制のあり方に関する連合の考え方』(10頁)に「労働者は勤務時間外であれば仕事に関わる義務は当然にないが、連合調査によれば、『勤務時間外に部下・同僚・上司から業務上の連絡がくることがある』と回答した者が7割に及んでいる」と記載されいます。
また、『労働基準関係法制のあり方に関する連合の考え方』(10頁)には「労働者の休息の確保のために使用者からの連絡の遮断を『権利』として認め、そのための権利行使の方法を労使において具体化したり、使用者に一定の対応を義務づける、いわゆる『つながらない権利』の立法化を検討すべきである」と連合の要望が明記されています。
労働基準関係法制のあり方に関する連合の考え方(PDF)
つながらない権利 法制化(立法化)検討は?
連合の「労働者の休息の確保のために使用者からの連絡の遮断を『権利』として認め、そのための権利行使の方法を労使において具体化したり、使用者に一定の対応を義務づける、いわゆる『つながらない権利』の立法化(法制化)を検討すべきである」との要望について、東京新聞の記事によると厚生労働省(労働基準局)担当者は「今まさに研究会で議論されており、いつまでにという時期は決まっていないが、今後方向性をまとめていく」と話したそうですが、「研究会」とは厚生労働省(労働基準局)有識者会議「労働基準関係法制研究会」のことになります。
連合の要望が行われた第7回研究会(2024年5月10日)後は、第8回研究会が6月27日に開催されて労働基準法における労働者について議論され、また第9回研究会が先週金曜日(7月19日)に開催されて労働基準法における事業と労使コミュニケーションが議論されました。
明日開催される第10回研究会の資料によると「労働時間」などが議論されますが、その「労働時間」などの中で「つながらない権利」法制化が少しでも前向きに議論されるかどうか(期待はできませんが)注目すべきだと思います。
もし明日の労働基準関係法制研究会で議論されないとすれば、「いつまでにという時期は決まっていないが、今後方向性をまとめていく」という厚生労働省担当者の話は遠い未来のことになっているかもしれません。日本の厚生労働省は、また政府は「つながらない権利」法制化を延ばしつづけ、放置したままにするようなことはしないでほしいと願っています。
追記:澤路毅彦氏がポスト(旧ツイート)
朝日新聞編集委員の澤路毅彦氏が本日(2024年7月31日)、個人のX(旧ツイッター)で「なお、午前中は労働基準関係法制研究会を傍聴していました。テレワーク向けの新たなみなし制度が例示され、議論されているので、注目です」とポスト(旧ツイート)されています。
なお、澤路毅彦氏は個人のX(旧ツイッター)で「つながらない権利」については何もふれられていませんでした。
追記:厚労省 労働基準関係法制研究会 第11回
労働基準関係法制研究会(第11回)資料
厚生労働省「労働基準関係法制研究会」の第11回研究会は本日(2024年8月20日)に開催され、議題は「労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇について」。
資料は昨日(8月19日)に公開されましたが、タイトルは「労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇について」(全56ページ)。
資料「労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇について」の31ページから42ページは「勤務間インターバル」について記載され、43ページは「つながらない権利」法制化に関する諸外国に状況比較一覧が掲載されていました。
「つながらない権利」に関する資料が1ページのみというところに厚生労働省や労働基準関係法制研究会メンバーの「つながらない権利」法制化への関心のなさが(残念ながら)よくあらわれています。
資料「労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇について」(PDF)
労働基準関係法制研究会(第11回)報道
アドバンスニュースは「前回(7月31日)に引き続き「労働時間、休憩、休日・年次有給休暇』について議論を続行。とりわけ、『法定休日制度』『勤務間インターバル制度』『年次有給休暇制度・休暇』『割増賃金規制』の4項目を掘り下げた。委員の意見や方向性がおおむね一致するテーマもあった一方で、『勤務間インターバル制度の義務化の有無』などについては見解に相違がみられ、活発な議論が展開された」と報じています。
アドバンスニュースの記事には「この日の議論で特筆されるのは、第2回会合(2月21日)と第7回会合(5月10日)でもテーマとなった『副業・兼業の場合の割増賃金の通算のあり方』で、委員の見解としては『健康確保のために労働時間の通算は必要だが、割増賃金は必要ない』『割増賃金からスタートする人が同じ職場にいるのは、雇用する側にも働く人にも壁になっている』など、現場実態に照らした意見が聞かれ、働き方が多様化する中で現行制度では実効性が乏しいとの指摘が挙がった」と記載されています。
また、記事には「荒木座長も自身の研究を踏まえて『EU各国では使用者が異なる場合にそもそも労働時間を通算しない。通算する国でも健康確保のための通算であり、割増賃金について通算していない』と解説した。また、健康確保としての通算についても、超過している人に誰がどのような指導、対応をするのかなど課題が浮き彫りになった」と書かれていますが、全労連などの労働組合は現行の労働基準法の規定維持を訴えているので労使(労働者側と使用者側)の意見が対立しています。
法定休や勤務間インターバル、副業・兼業の割増賃金などをテーマに議論続行 労基法巡る有識者研究会
なお、「割増賃金について通算していない」と発言した荒木座長(荒木尚志・東京大学大学院法学政治学研究科教授)は厚生労働大臣の諮問機関・労働政策審議会の労働基準法等の改正などを審議する「労働条件分科会」の座長もされています。
労働基準関係法制研究会は今後「報告書」をまとめることになると思いますが、報告書に書かれるであろう労働基準法の見直しに向けての意見は労働政策審議会・労働条件分科会で正式に議論されることになりますが、労働基準関係法制研究会と労働条件分科会の座長が同一人物だということは厚生労働省や政府の副業・兼業の場合の割増賃金の通算規定の見直しを急ぎたいとの強い意志を感じます。
なお、最新の労働政策審議会・労働条件分科会委員名簿をみると安藤至大・日本大学経済学部教授も労働基準関係法制研究会メンバー(構成員)とともに労働政策審議会・労働条件分科会委員もされるようです。
労働条件分科会委員名簿(PDF)
追記:厚労省 労働基準関係法制研究会 第13回
厚生労働省サイトによると厚生労働省(労働基準局)有識者会議「労働基準関係法制研究会」の第13回研究会は明日(2024年9月11日)に開催されます。議題は「労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇について」。
『資料1 労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇について』には「最長労働時間規制」「労働からの解放の規制」「割増賃金規制」について記載されています。
資料1 労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇について(PDF)
この資料1の7ページ(「労働からの解放の規制」の項目)には第10回・第11回研究会のメンバー(構成員)の意見として「つながらない権利」について「つながらない権利について、労働のON/OFFをはっきりさせた上で、OFFについては基本的に使用者が介入しないものであるのが本来なので、つながらない権利を労働者の権利として構成することには違和感がある」と「つながらない権利」法制化に対して否定的なコメントが書かれています。
また「つながらない権利について、フランス等で先進的な事例があるものの、会社が違えばつながらない権利の具体的な形もそれぞれ違うというくらいに、非常に多様。このため、労使できちんと協議することを義務付けている。基本的には労使で、労働実態を踏まえてきち んと協議をし、ルールを定めて具体的に実現するようにすることとするしかないのではないか」とも記載されています。
労働基準関係法制研究会(厚生労働省サイト)