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裁量労働制実態調査と新たな裁量労働制検討会の設置-厚生労働省

黒澤朗労働条件政策課長発言

裁量労働制実態調査結果を2021年6月25日に厚生労働省が公表したが、その際、厚生労働省の黒澤朗・労働基準局労働条件政策課長は「裁量労働制の方が時間が長いというのが正しい実態だ。結果を踏まえ、制度全般を幅広く議論していく」と述べている(毎日新聞デジタル版「裁量労働制、適用者の勤務時間長く 厚労省調査 制度見直し」2021年6月25日配信)。

労働条件政策課長の考えは「結果を踏まえ、制度全般を幅広く議論していく」ということらしいが、「幅広く議論していく」という個所が曖昧な点もある。

それでは、田村厚生労働大臣は裁量労働制実態調査結果をどう評価し、今後の裁量労働制対象(適用)拡大について方針はあるのか、確認したいが、実態調査結果公表後、会見で記者からの質問もないし、田村大臣から何のコメントもない。

田村憲久厚生労働大臣発言

裁量労働制実態調査結果が公表された6月25日の朝(9:17 ~ 9:42)、 厚生労働省内会見室で田村憲久・厚生労働大臣記者会見が行われた。

その会見において、裁量労働制に関して記者から次のような質問が行われ、田村大臣は次のように回答している。

記者:本日、裁量労働制の実態調査に関する専門家検討会が予定されています。裁量労働制の適用拡大は、2018年に「働き方改革関連法」で対象者の範囲を拡大する方針だったのですが、当時の実態調査がずさんだったことが問題になって断念した経緯があります。新たな実態調査を踏まえ、厚労省として今後も裁量労働制の適用拡大を目指すのか。議論のスケジュール感も含めてお願いします。

大臣:本日16時から開催いたします、「裁量労働制の実態調査に関する専門家検討会」ここで調査結果を公表する予定であります。

ここでご議論いただいて適正ということになれば、これを基に、次にどういう検討をしていくかという話になると思いますが、既に一度検討いただいた上で法案として提出をして取り下げたという経緯がございます。

その時のいろいろな議論の経緯、こういうものも踏まえて今度新たな調査が出てまいりましたので、その調査を踏まえてまた議論をいただかないといけないと思います。今、いつ議論の結論を得るかというところまでは考えてはおりません。

当然、その議論の中でいろいろなご議論が出てくるわけでありまして、それに合わせてどのような形にしていくべきかということを決めてまいりたいと思っております。(厚生労働省公式サイトより)

田村厚生労働大臣の裁量労働制に関する発言を整理すると次のようになる。

1 裁量労働制調査結果を踏まえて議論をしないといけない。
2 6月25日時点では、いつ議論の結論を得るかというところまでは考えていない。
3 裁量労働制適用(対象)拡大については今後の議論の中でいろいろな意見が出てくると推察している。
4 裁量労働制適用(対象)拡大の議論において、いろいろな意見が出てくるが、「それに合わせてどのような形にしていくべきか」を決めてたい。

つまり、「どのような形にしていくべき」かは未定だが、結論は出したいということで、労働条件政策課長同様に厚生労働大臣も曖昧な回答をして、明確な発言を避けた。

労働政策審議会・労働条件分科会(第169回)

厚生労働省「労働政策審議会・労働条件分科会」(第169回)が2021年7月19日に開催されるが、議題は次のとおり。

・「良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進するための医療法等の一部を改正する法律」の成立について(報告事項)
・裁量労働制に係る実態調査及び新たな検討会の設置について(報告事項)
・「経済財政運営と改革の基本方針2021」等について(報告事項)

議題の中で注目すべきは「裁量労働制に係る実態調査及び新たな検討会の設置について(報告事項)」。報告事項となっているが、何故、新検討会設置が必要なのか丁寧な説明をしてほしい。

厚生労働省は裁量労働制実態調査検討会(有識者会議)で調査方法を決めて、調査を実施し、その結果が2021年6月25日された。そして、その裁量労働制実態調査結果を評価し、今後どうするかは公益(有識者)代表・労働者代表・使用者代表同数(公労使同数)の労働政策審議会(労政審)だと思うが、その前に勝手に新検討会設置を決めてしまっている。

すべてを「御用学者」(?)で先に決めさせ、公労使同数の労政審を形骸化させている。

裁量労働制対象(適用)拡大へ経団連要望

日本経済団体連合会(経団連)は裁量労働制対象(適用)拡大へ向けて長年にわたり強い要望を示している。政府や厚生労働省の動きは、この経団連要望に沿ったものと言い得る。

今年(2021年)4月5日に公表された「当面の課題に関する考え方」にもテレワーク人事評価・労務管理上課題の検討とともに裁量労働制対象(適用)拡大について記載されている。

つまり、テレワークと裁量労働制対象拡大により「場所と時間にとらわれない働き方」を推進しようとしている。

5.働き方改革と人材育成
雇用調整助成金特例措置に関して、感染状況や業況を踏まえ、5月以降、段階的・部分的に縮減する政府方針を支持する。経団連としては会員企業に対して引き続き、雇調金特例措置や産業雇用安定助成金の活用等により、在籍型出向も含めた雇用維持を働きかける。一方、雇用保険制度の財源が枯渇化していることから、思い切った一般財源の投入を政府に求める。

また、働き手のエンゲージメント向上に着目し、働き方改革の深化を促す。その一環として、場所と時間にとらわれない働き方を推進すべく、テレワークを巡る人事評価・労務管理上の課題について検討するとともに、裁量労働制の対象拡大等、自律的・主体的な働き方に適した新しい労働時間制度の実現を目指す。

新たなインターンシップのあり方に関する産学の共通理解の確立や、ジョブ型採用に繋がるインターンシップ実施、オンライン教育の課題整理、大学等と連携したリカレント教育の拡充、組織対組織の産学連携の推進など、産学協議会の10のアクションプランを実行し、産学連携でSociety 5.0を支える人材を育成する。