【短編】毒針

幽玄なる月のような瞳で見つめ、女は男の頬に泥で汚れた手を添える。
雑木林の竹の檻のなか、月影が罪をあらわにする。
女の着物には泥や雑草が疎らについて、汚れている。
男は女に覆い被さり、胸元をはだけさせる。
「何故逃げない」
男が悔しさを滲ませながら呟く。
「あんたがかわいそうだから」
「黙れ!俺はかわいそうなんかじゃねぇ!」
女が同情や憐れみに似た表情を浮かべて男に微笑む。
「やめろ」
男が女から目を逸らす。
女が不敵に笑い、男の首根をつかむ。
そして、白蛇のように四肢を絡みつける。
「さぁ……おいでなさいな」
「俺に犯されたいっていうんか」
「あんたのご自慢のそれで、あたいのなかをおかしてごらんなさいな」
女の余裕の微笑が、余計に男を憤怒させた。
「このアマ……お望み通りにしてやるよ」
男は乱暴に女の躰に貪りついた。
男の猛々しく荒々しい息遣いや律動。
それに対して、冷たい鱗をびらびらと光らせる白蛇のように、女は艶かしくも静謐であった。

おかされ穢れていく。
身も心も毒されていく。

恍惚な表情を浮かべては、女はよろこびに喘ぐ。
犯すのに必死な男。
毒され穢れゆくに、よろこぶ女。
「なんで……なんでや」
女を貫きながら、男は悔し涙を流した。
女は憐れみの表情を絶やさず浮かべている。
「かわいそう」
女はトドメの毒を男にさした。
女に毒された男は、女にひれ伏し泣き崩れた。
女は男を胸に抱きしめ、子供をあやすように頭を撫でた。
「かわいそうに……かわいそうに」

幽玄なる月が、罪をあらわにしていた。

ー完ー







この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?