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旅立ちには絵本を贈りたい

赤泊に来て3年間、1~2か月に一回の赤泊小学校での絵本の読み聞かせは、私にとっても楽しみと何か少し立ち止まって見つめる時間でした。
そして昨年の2月が赤泊小学校での最後の読み聞かせでした。

相手が6年生ということもあり、今回は中学校に進む彼らに贈りたい「冒険」「生き方」「あり方」のテーマで本を3冊選んでみました。
読み終わってみて、これは今の私自身に刺さる、自分に贈りたい本でもあったなと思ったので、記録しておこうと思います。

◇◇◇

■「ここにいたい!」「あっちへいきたい!」

レオ=レオニ(作) 谷川俊太郎(訳)

住み慣れた犬の背中から新しい世界を見に冒険していく2匹の“のみ”のお話し。

次々に新しい生きものに乗り移って環境が変わる中、2匹の感じ方は全く違う。楽しい・おもしろいとワクワクして進むのみと、ここは嫌だつらいとこぼすのみ。2匹のペースは少しずつズレていって、途中で「ここにいたい」のみは冒険をやめて犬の背中に戻り、「あっちへいきたい」のみは鳥の背中に乗ってはるか遠くに行ってしまう。

「ここにいたい」のみはどこへ行ってもグチグチと不満を言って、初めに戻ろうとする。読んでいる途中、教訓的な話の流れだともしかしたらこの子は最後ちょっと悪いことが起きるのじゃないかと思った。不満を言って場になじまないことは教育的に「悪」とされるのじゃないかと。

好奇心の塊の「あっちへいきたい」のみはまるで私のようだった。でも「私えらい方なんだ」と喜ぶ感覚はなく、自分は「ここにいたい」友達ののみを無理やり連れだして苦しめていたんじゃないか、悪い結末に導いてしまったのではないかと怖かった。理想的できれいな言葉を並べても、わかってくれる人はいないんじゃないかと。しかも結局一緒にいたかった友達と道を分かってしまった。

でも苦しく思った別れは、2匹の最後の言葉に救われた。

あっちへいきたい
「いつか帰ってきて君に話してあげよう。でも言葉で言い尽くせるかな?」
ここにいたい
「今は少し寂しいけどいつかまた一緒になれたら、僕の見たことと君の土産話を合わせれば僕もいくらか世間を知るだろう。時には僕だって少しは旅に出たっていいと思うかもしれないね。」

「ここにいたくない」「嫌だ」と言っても、新しいものをやめて元に戻ってもいいんだ。
ちょっと強引でも新しい世界に誰かを連れ出してもいいんだ。もしかしたら何かを得てくれるかもしれない。

一緒にいた人と道を分かってもいいんだ。
それでも尊敬しあっていつかまた会って笑って話せる関係があるんだ。

冒険は進んでもいいし、戻ってもいい、好きも嫌いも言っていい、思った通りに動いていい、そんな勇気と安心をもらいました。
そして、どんな道を進んでも思いあえるこんな関係を作りたいなと思います。


■ コーネリアス

レオ=レオニ(作) 谷川俊太郎(訳)

生まれつき立って歩くワニが、外に出てサルに芸を教わって戻るお話し。

「川岸でのくらしはこれですっかり変わるだろう」

これは私の希望と願望のお話しかもしれない。

この3年間、私は周りと違う視点で見た話しをして、おかしなことをしていたんじゃないかと思うときがある。不完全でへんてこりんな「さるまね」だったかもしれない。

それでもその時できるだけのことはして、できるだけの表現はしたつもりでいる。その結果が、いいか悪いかは別として何か「変わる」ならなんて嬉しいことなんだろうと思う。

協力隊になったばかりの頃、「3年間で何か大きな成果を出すなんて無理なのだから、お前は10年後とかかに『そういえばあんな娘がいたな』って酒の肴に盛り上がるくらいでいい」と言われたことがあった。

聞いた当初は「自分は地域の人に期待されていないのだ」と少し落ち込んだものだけれど、今となると救われる言葉だなと思う。


■ すきになったら

ヒグチユウコ(作)

好きになったらどんなことをしたくなるのか・どうなるのかを、女の子とワニのような姿の2人と共に描くお話し。

「好きになったら私の一部はあなたになる」

こんなステキな出会いをしたいと思える一冊だった。
言葉の普遍的で温かい温度感と、絵の奇妙な不気味さと不安感と綺麗さがアンバランスで奥深くてドキッとする作品。

自分自身も今まで出会った人や言葉、音楽、物語、土地、遊び、食べ物、景色、いろんな「好き」でできているなと思う。
そしてこれからも周りのたくさんのものに影響されて形を変えていくんだろうし、それがたまらなく喜ばしい。

読み終わった後の感想で子供から「そもそもなんでこの女の子はワニ(?)を好きになったんだろう?」という問いが出てきた。
たしかに女の子とワニは異色な組み合わせだった。

人の「好き」は人それぞれで、誰に否定されるものでもない。
凛としたたたずまいのワニをかっこよく感じたのか、ふいに見せる優しい目に惹かれたのか。どんな魅力を見つけたのか。
こんな可愛い女の子に好かれるワニはどんなステキなんだろうと気になった。

でも、その問いで私の中に「ワニなんかを好きになる女の子は変わっている」という先入観があることに気づかされた。

私はワニ“を”異色だと思っていたんだ。
本当はどっちが「よい」で「変わっている」なのかは分からないのに。

鱗を持った姿が当たり前で、白くつるっとした肌のほうが「変」なのかもしれない。
ワニのように強いことが「よい」ことで、弱く姿かたちの違う女の子を好きになるワニが「変わっている」のかもしれない。

でもそんな感覚が馬鹿らしく吹き飛んでしまうほど、ただ純粋に相手だけを見ている2人の関係がただただ綺麗で大事にしたいと思った。


絵本は子どものものと思いがちだけれど、大人になっても(なってからのほうがむしろ)感じることが多い。
どうかふと立ち止まりたくなったとき、その傍らに素敵な絵本がありますように。


◇◇◇

昨年の春に書ききってていたのに何となく外に出せていなかったノート。
渋谷あるあるです。
熟成下書きも読み返すと楽しいものですね。

新しい服や道具は一度そのまましまってしばらく置いてから使う派です。
最近は意識して逆の行動をするけれど。


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