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#41「僕と渋谷」



「オードリーのオールナイトニッポン」で、ここ最近若林さんが渋谷の話をよくする。

今週の放送では、渋谷の東急百貨店が閉店したのに合わせて、思い出のあるその場所に最後の別れを告げに言ったというフリートークが繰り広げられた。

年明けの放送でも、東急百貨店が閉店するのが寂しいという話から、若い頃に渋谷でバイトをしていた時の話、その頃から東急百貨店が自分にとって存在だったか、ひいては「渋谷」という街が自分からはどう見えているのかという話をしていた。

その放送を、明治神宮に少し遅めの初詣に行きながら聞いていた。
その話があまりにも興味深く、参拝後に歩いて渋谷まで行こうかと考えたが、結局足が向かなかった。

その理由は覚えていないが、「もしかしたら若林さんに遭遇するんじゃないか」という下心に勝る何かが自分の中で引っかかっていたのだと思う。



田舎者の憧れの街


自分と渋谷との関わりについて、思い出せる限りの記憶を辿ってみた。

https://note.com/sadman0102/n/nfd0bf8c6ca0b


前回の内容とも重なるが、
おそらく高3の夏休みに、初めて1人で東京に出てきた時ではないかと思い出した。


「TOHOシネマズ」が入るビルの地下にある、「ラーメン中本」に行った記憶が真っ先に思い出される。
当時、セブンイレブンで発売されている中本のカップラーメンを食べることがクラスの中で流行っていたため、地元では味わえない本場の味を求めて、大都会東京の渋谷の店舗に来ていた。

夏真っ盛りで、歩いているだけで汗が出てくるような日に、
汗、涙、鼻水、全開で蒙古タンメンをすすった。

夏休み明けに学校に行った際、クラスの中でただ1人本場の味を体験してきたことを誇りに、本場の蒙古タンメンを熱弁したが、誰も食いついてこなかった。

気づいたら、クラス内での蒙古タンメンブームも終わっていた。


大学に進学してからも、東京に遊びに来るたびに、渋谷に足を踏み入れていた気がする。

某CDショップ2軒、某モノマネ芸人が経営するラーメン屋、、、
いつも行く場所は大体決まっていた気がする。

ギリギリまで東京の大学に進学しようか迷っており、その迷っていた大学というのが、渋谷から近かった。
そこに進学したら、アーティストの新譜発売日にお店で待ち伏せして、パネルにサインを書くところを拝んでやろうと、妄想を膨らませていたりもした。


結局、地元の大学に通うことになり、
東京へ遊びに行くたびに、そんなことを思い出しては懐かしんでいた。




東京の象徴に飽きてきた


それから間も無くして、新型コロナウイルスが流行し始めた。

外出自粛が呼びかけられる中、連日テレビに映し出される渋谷の街。

きっと何かやむを得ない事情があるのだろうと思いながら、渋谷のスクランブル交差点の映像に映し出される数人の人々が、非国民のように見えた。

大学生活前半の2年で、そこそこ渋谷には行けたため、そんな変わり果てた街に行きたいとも思わなくなっていった。


それから約2年が経った、2022年3月。
4月から始まる社会人生活に向けて、東京での生活が始まった。

それまでのように、大学の授業もなければ、バイトもない日々が1ヶ月弱続く。

東京に知り合いなんていないし、特にやりたいこともないから、自分が知る場所へと繰り出すしかない。

気づいたら渋谷へと頻繁に通うようになっていた。



特に行きたい場所もなければ、やりたいこともない。そして、お金もない。

行く場所は学生時代とほぼ変わらない。

映画を見たり、お笑いライブを見たり、新生活に必要な家具を少しずつ揃えていこうと適当にウインドウショッピング。

渋谷とともにそんな日々を繰り返していたら、気づいたら3月が終わっていた。





もうひとつの東京へ


渋谷という街に飽きてきたのもあったが、4月からは「新宿」が自分の新たな住処となった。

渋谷とは違って、新宿へは自宅の最寄駅から電車一本で行ける。


学生時代に東京に遊びに来ていた時には、夜行バスの乗り降りでよく訪れていたため、新宿も渋谷に並んで自分には馴染みがある場所だ。

早朝にバスタ新宿でバスを降り、JR南口改札の前に立った時に、毎回東京に来たことを実感する。

四季折々で日が出ていたりいなかったり、心地よい風が吹いていたり、体に突き刺さるような冷たい風が吹いていたり。


新宿という場所に降り立つと、毎回必ず上を見上げる。

田舎では少し上を見上げただけで視界には空が広がっているのに、東京という場所は、これ以上首が曲がらないところまで見上げても、何かしらの建物が視界に入ってくる。

東京に来たことを実感する。


夜行バスの中は空気が乾燥しているため、コロナ禍前に利用していた時でもマスクを着用していた。

バスから降りてもマスクを外すのを忘れていることがほとんどだったが、下水の臭いがマスクを通り越して鼻を突き刺す。

東京に来たことを実感する。




東京で1ヶ月も生活すれば、そんなことにも慣れて、上を見上げなくなるし、下水の臭いも鼻を突き刺さなくなる。

慣れというものは怖い。


入社して間もない頃は、研修期間が続き、カレンダー通りの休みがもらえた。

東京に知り合いもいなければ、休みの日に予定を合わせるほど会社の同期ともまだ仲良くない。

特に目的もなく、いつもの決まったコースをうろつく。

TOHOシネマズ、ビックカメラ、GU、紀伊国屋書店、そして締めは歌舞伎町のラーメン二郎。

よくも飽きないなと、自分でも感心してしまうほどに、毎回お決まりのコースだ。


あまりにも暇すぎて、テレビの街頭インタビューに自分から引っ掛かりにいったこともある。

自分が好きな芸人さんがMCを務める番組で、「悩める若人の相談に乗る」という企画のインタビューだった。

「4月に上京してきたばかりで、親しい友人がいない。
 あまりお金をかけずにひとりで有意義に時間を過ごす方法を教えてほしい。」

今思い返すと、なんとも都合が良い図々しい相談だと我ながら思う。

そんな悩みも馬鹿馬鹿しくなるほどに、休日すらなくなる日々がやってくるのはもう少し先のお話。

そして、それが原因で休職して、この時にMCに答えてもらった、「イヤホンの外部音取り込み機能を使って喫茶店で周囲の世間話を盗み聞きする」を実践することになるのは、そのまた先のお話。




守りたい場所と捨てたい場所


会社の研修期間も終わり部署に配属された。

仕事でほぼ毎日何かしらを買いに行かされた。

「そんなもん絶対ないだろ」というものを探し求めて、東京中を探し回る。

渋谷と新宿にはたくさんのお店があって、大抵のものはどちらかにいけば揃う。

職場から近いということもあって、渋谷によく行った。


「揃えなければ先輩に怒られる」

その一心だけでスマホの地図、商品の検索結果とにらめっこしながら渋谷を歩く。


学生時代、そして上京直後の1週間で、渋谷の全てを知った気になり、飽きていたやつが、「どこにあんだよこの店」とぶつぶつアスファルトに向かって愚痴を吐きながら渋谷の街をひたすら歩く。

ほぼ毎日渋谷に繰り出し、「昨日もここに来たんだけど、今日必要になることがわかっていたら買ってたんだけど。」と思いながら歩く。



たまにある休日は、惰性で新宿へと向かった。

趣味である映画を観に行き、映画館という明るさ、シートの心地よさともにこれ以上ない環境で、平日なかなか取れていない分の睡眠を取る。

そして、平日まともに食事を摂れていない分のカロリーをラーメン二郎で摂取する。

帰宅してから、毎回変わらない休日の過ごし方に絶望して、また仕事へと向かう日々。



そんな日々を終わらせるべく休職した後、あることに気づいた。

自分は、渋谷を犠牲にして、新宿を守ったんだ。


そこに深い理由はないが、気づかないうちに、渋谷は自分にとっての“仕事の街”、新宿は自分にとっての“プライベートの街”というように線引きしていた。

休職して時間ができてからも、渋谷には足が向かなくなった。
仕事を思い出すからだ。



仕事の買い出しで毎日のように渋谷に行っていた頃、すれ違う人全てが羨ましく思えた。

楽しそうに人生のモラトリアムを満喫している学生、どうみてもまともな職には就いていなさそうな自分と同世代の若者、スーツを身にまとい汗を拭いながら足速に歩いている大人たち。

それぞれ何かしらの辛さを抱えているのだろうとは思うが、全員が当時の自分からしたら、自分より幸せそうに見えた。

自分がやりたかったことをやれているのに辛い。

渋谷に来るたびそれしか考えられなかった。




きっかけは覚えていない


あれから5ヶ月ほどが経った。

今では、渋谷という街に足を踏み入れることができるようになった。

相変わらず、視界に渋谷という街が入ってくると、上に書いた一連の辛かった記憶が蘇ってくるが、それで立っていられなくなるようなことはない。

いつから渋谷という街を受け入れられるようになったかは覚えていないが、以前と変わらず決まった場所へと行くだけ。

好きなアイドルグループのメンバーが写真集を出すから、購入ついでにパネル展を見に行く。

決して誇れるようなことではないが、そうやって楽しみを見つけて、スケジュールを立てて渋谷に出向くことができるようになった自分に成長を感じる。



これからも渋谷と…


「オードリーのオールナイトニッポン」での若林さんのトークを受け、たまたま渋谷に行った週末を経て、自分と渋谷について思うことを書いた。

今日は、高校生の頃から応援しているアーティストのニューシングルが発売されるということで、いわゆる“フラゲ日”に仕事終わりで渋谷に直行した。


数ヶ月前にハマっていたあるドラマの舞台にもなったCDショップ、店内に流れているよくわからないバンドの曲はかき消され、脳内ではヒゲダンが流れている。


発売のタイミングが重なった他のアーティストの新譜が大々的に展開される中、お目当てのシングルをようやく見つけ、レジへ向かおうとしたタイミングで電話が鳴った。

上司から急な仕事のお願い。
大した内容ではなかったため、1時間後までに返すことを約束して電話を切った。

CDを買ったらどこで落ち着いてパソコンを開こうか。


あれ、また渋谷で仕事している…



もうすぐ46歳の誕生日を迎えるおじさん(渋谷スクランブル交差点にて)


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2023.02.08 作成


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