子犬は最初の頃は知らない場所に連れられて母犬も居ないので夜は心細げに鳴いていた。少しでも早く我が家に馴染んでほしいと心を砕いたかいがあってすぐに夜もよく寝て鳴かなくなっていた。 そんなある日、私達夫婦が私の実家に行くことになった。実家は遠く何日か滞在するが、犬を連れては行けなかった。申し訳ないが義両親に留守中の世話を頼まなくてはならない。まだ子犬なので散歩も短時間で良いし、それほどの手間は掛からないはずとは思っていた。義母も大丈夫と言ってくれ、まだ働いていた義父は、勤めの前
今年は殊の外夏が長く続いている。 今日も暑いですねが、挨拶代わり。台風が過ぎれば、流石に秋の気配がなどという淡い期待は打ち砕かれ続けている。立秋もとっくに過ぎ、夏休みも終わり、暑さの区切りであるはずのお彼岸も汗だくで墓参りを済ませた。ただ律儀な彼岸花はちゃんと咲いている。
今は昔の話である。 都内の大学に進学して、初めての一人暮らしが始まった。 何もかも親任せで、アパートも心配性の父が一人で回って決めてきた。 知る人も無く都内とは名ばかりの長閑な環境である。六畳に押入れ、トイレはあるが風呂は無く小さな台所がある女子学生向けのアパートであった。風呂は徒歩10分弱の銭湯に通った。 食事作りや洗濯など家事に不自由はなかったのだが、一人で居ることの間が持たない。 特に一人で食事をするのはほぼ初めての経験だった。家では家族が揃ってから食事を摂る。遅く帰っ
子どもの頃から炭酸が好きだ。夏でなくても炭酸飲料をよく飲む。一年中飲むけれど、種類や品数は断然夏の売り場が多いので世間の人にとっては夏の飲み物なのだろう。冬はほぼ冷やさずに飲む。微炭酸よりもやっぱり強炭酸が好きだ。 ソーダ水、サイダー、ラムネは夏の季語だが、炭酸は私の持っている歳時記には掲載されていなかった。 シュワシュワと小さな泡が浮かんでくる。口の中で弾ける泡が楽しい。 以前犬を飼っていた。賢くてよく懐いていた。私が食べているものをねだることがあった。焼き芋は大好きで焼
#らべあろ企画 先日はありがとうございました。改めましてとらママと申します。 すうぷさん素敵なお写真ありがとうございます。 雲の名は夕焼け空へ問い掛ける とらママ
さて、家に着いた子犬はおとなしく抱かれたままだ。子どもの頃にも家に犬が居たけれど、世話をするのは始めてだ。子犬はもっとはしゃいだり走り回るものだと思っていた。記憶の中の子犬は鳴いたり走ったり飛びついたりじっとしていることはなかった。そして思い切り動き回った後は、スイッチが切れたように眠ってしまった。 知らないところに来て緊張しているのか、車に揺られて疲れたのか。とにかく手の掛からないおとなしい子だねと話していた。ご飯もあまり食べない。慣れるまで少し時間が掛かるかなと思った。
新婚旅行から帰ってそのまま夫の実家で暮らし始めた。 専業主婦の義母はプロではないが「書く人」だった。長い間文章の講座で勉強し、仲間と同人誌を出すという私とは真逆の行動力のある人だった。小学校の時に文章を褒められたのが嬉しくて、主婦になってから勉強し始めたそうだ。幾つも文章の講座を受講し、そこで知り合った方のグループに参加した後で、自分と気の合う何人かと同人誌を始めて月1回原稿を持ち寄って集まり、お互いに批評して年に一冊本に纏めるという派手さはないが着実に作品を残していた。好き
実家の名古屋に帰省する時に市営地下鉄を利用する。 地下鉄を利用するたびにモヤモヤするのは「女性専用車両」にある『始発から終発まで』の掲示である。何故『始発から終着まで』ではないのか。終発から終着は空白にはならないのか。気になるのは私だけなのか。いつも気になり掲示を見つめてしまう。
生きていると出会いと別れは避けて通れない。楽しいことばかりを選んで暮らしていくわけにはいかない。辛いことを避けていては自分で扉を閉ざすことになる。 今出会った人が先々恋敵になるかもしれず、昨日別れた人が生涯の友に成り得た人だったのかもしれない。うっかりしていると看過してしまうことや忘れてしまうこと。記憶に埋もれさせないように遺しておきたい。 こうして書いていくことは自分の中で『ケリをつける』ことかもしれない。また、みたくなったらぼんやりした記憶からガムテープで閉じて封印した箱
唸る風窓打つ雨や青嵐 剪定の済みし欅の梢鳴る 出水の夜ラジオに新しき電池 アンテナに強風画面フリーズす 線状降水帯天気図赤し 予報士の長く出ている五月雨 明日もまだ雨の降るてふ蝸牛 紫陽花の色濃く見ゆる温き雨 選手権レーストラック飛沫立つ 瀧の如雨の降る夜梅雨まだ来
まだ梅雨入り前だと言うのに台風が近付いている。沖縄は今夜から風雨が強まり、TVに映る海は高い波が打ち寄せている。全国的に今日から2、3日は注意が必要らしい。毎年異常気象と言っては災害級の天気が起きる。もはやそれが常態である。 各地で地震も頻発している。気の休まらないことである。
最後の猫のとらが旅立った。 もう犬も猫も居なくなってしまった。 願いを込めてたくさんのキャットフードを買ったばかりなのに。 もう長く一緒に居られないってわかってはいたけれど。 犬を飼っていた時の経験からあえて手術等の治療を選択しないで家に居たから体重も軽くなり、でも猫らしく軽やかにブロック塀や小屋根の上を歩いていたのに。 いつもはすぐに外に出てしまうのに足元に纏わりついて、ずっと小さな甘えた声で鳴いていた。 これはもういけないんだなと気づいたよ。 最後まで残ってくれてありが
くちなしの鉢植えを買った。 タグに「ヌマタクチナシ」とある。 白くぽってりした花びら、甘く芳醇な香り。 東向きの玄関に置くことができて、とても嬉しい。 たくさんの蕾を咲かせられるように世話をして、来年もその先もずっとこの香りに包まれたい。 朝照らす白きくちなし八重に咲く (令和5年5月30日)