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朝陽が見える坂道を

私は朝陽あさひよ。

ふと目覚めた初老の塾講師。起きてカーテンを開ける。向かいのビルであかね色の光はガラス窓にきらめいた。私を感じ取る。

まだ夜明け前。

さあ、いらっしゃい
私はいざないの波動を響かせた
とびっきりの私を見せてあげる──

☆☆☆

こんにちは。
フジミドリです。

秋が深まって参りました。そろそろ冬の足音けはいも聞こえましょう。この時節になりますと、私はし方すえに思いをせるのです。

今日の私物語わたしものがたりは大自然との邂逅であい

小説で随筆で評論、そしてどのわくにも収まらないこの私物語です。自由奔放に想像のつばさで羽ばたいてみましょう。

お読み頂くだけで
心地よくなれますように──

☆☆☆

初老の塾講師が、一瞬は私の誘いに応じる。道路を隔てた公園へ行こうと思う。

でも次の刹那せつな、面倒だからやめておくかな、寒くなったしね、そんな反論いいわけとらわれる。

さあ、どうするかしら。

せっかく思い立っても、相反あいはんする気持ちが浮かんでやめてしまうってよくあること。

これって重力おもいよね。

♡♡♡

─まあどっちでもいいさ
決まってるからな─

あら、伝わったのかしら。

この人、浮かんでくる思い、私との間に潜り込んできた想念そうねんをスッと流してしまう。

逆らわず
取りこまれない
力をぬいて

♡♡♡

そう。それでいいわ。

浮かんでくる想念おもいはそのままにする。掴むことなく、打ち消そうともしない。

これがなかなかできないの。

つい、ハラハラドキドキ、想念の中へのめり込んじゃう。それか、逆らって頑張ったり。意志の強さと努力ってやつね。

でなきゃ惰性スルー──

♡♡♡

初老の塾講師は、溢れ返る頭の記憶と心で騒ぎ出す感情を、見るに留め聞いて流す。

霊魂たましいの声に耳を澄ませた。

へえ。こんな人、今どき珍しいかも。どうしたって、形にあらわれる現象で振り回されちゃう。とっても刺激が強いものね。

さあ、どうするの。

☆☆☆

出掛けるかやめておくか、迷い悩む想念をベッドのあたりに漂わせたまま、彼はスッと着替え始めてしまう。

何も考えない。思考を凍結フリーズさせる。感情は沸き立つまま捨て置く。そのままでよい。

手がパジャマを脱がせ、足は防寒下着ヒートテックに覆われていくに任す感じ。

ダウンジャケットに手袋、ジャージでスニーカーの出で立ち、玄関ドアを開けた。

☆☆☆

道路はしんとしているわ。

原付バイクに乗った若者が走り去る。続いて軽自動車は滑るように飛ばして行った。

ふと彼の心に浮かぶ。
神社の境内けいだい──

ええ、もちろんよ。私が囁いたの。さあ、いらしゃい。そういざなったわ。

☆☆☆

彼は石畳の広場から陸橋を渡る。木立こだちに包まれた緩やかな登坂のぼりざかを境内へ向かう。

紅葉の茂りで空は見えない。
闇が彼を覆う。

まとわりつく闇は、肌という境界線にさえぎられることなく、細胞の隅々へ染み込む。

彼の心まで闇に包まれたその瞬間、私は木々の間から光を放つ。双眸そうぼうへ差し込んだ。

☆☆☆

ほ~ら
この光なら見えるわ
眩しくないでしょ

私は、彼の瞳に映る私の姿を見た。

赤みがかった黄色の真ん丸な光彩こうさいはキラキラと輝いている。その周囲ぐるりと放射状に、光の筋が球体から流れていく。

肉眼で見ても眩しくない。
ずっと見ていたくなる。

☆☆☆

私は真理ことわりの波動を響かせた。

初老の塾講師は受け取る。目の裏にある蝶が羽を広げた形の骨で。

私の光は、彼の目を通ってその骨へ届き、微かに震わせる。震えが、背筋の最下端にある逆三角形の骨と共鳴する。

目の裏と腰の真ん中で、見えない光の帯が8の字に交わり、生命いのち躍動エネルギーは宇宙へ響く。

☆☆☆

私の発する波動は言葉が届かない。

彼の頭で知識が活性化する。感情も波立つ。なぜ、肉眼で太陽光を見ていられるのか。

しかし、どんな説明解釈をも、今見えている茜色の光が瞬く間に凌駕りょうがしてしまう。

もどかしく感じつつ、言葉で表すことを諦めた彼、光の流れにあらがわず受け入れる。

ただ受け入れる。

私は輝き続け、真理の秘密を響かせた。言葉も映像も数式をも超えた波動だから、説明も解釈も共感さえも受けつけない。

ただあるがまま──

☆☆☆

永遠とも思える一時ひとときは済む。彼が姿勢をほどく。境内へ入り、二礼二拍手そして一礼。

足に任せるような調子で、境内から遊歩道へ出ると、池の周りを進んだ。心は澄む。何も浮かばない。ただ坦々と歩む。

紅葉した木々が鮮やかな色を誇り、既に葉の枯れた枝は寒々と青い空に突き刺さる。

池に潜りカモを取った。
静かな朝に水音は響く。
一陣の風が吹き流す。

私はもう一度いざなった。

☆☆☆

さあ、いらっしゃい。
言葉にならない真理を伝えるわ。

彼が、導かれるままに池の周りを進み、私と向かい合う。でも、今度は眩しくて、一秒と目を開けていられない。

閉じた目の裏で私を感じながら、初老の塾講師は天啓ひらめきを得る。ああそうか。そういうことなのか。

不意に微笑んだ。

☆☆☆

同じ私が、いつまでも見ていられたり、すぐに目を閉じなければならなかったりする。

肉眼で私を見られるなんて奇跡だわ。でも、これが真実ほんとうの私。見えないと思い込めば、目はそのように機能する。

意志の強さや努力では超えられない。頭の良さや心の優しさなんて役に立たないの。

─オレはいつも
違うものを見ていたのか─

☆☆☆

そうよ
あなたが見るものは
他でもないあなた

あなたが過去で思い、あなたが過去に悩み、あなたが過去からずっと望んだすべて。

今ここに顕われる
朝陽わたしはあなたよ

どんな姿に見えようとも、自分で望んだって気づけたら、すべてはまことの姿をあらわにできる。

─ああ、何もかも心地よい
このままでよい─



イラストは朔川揺さん💖

☆☆☆

お読み頂きありがとうございます!
シーズン2は残り5回です。

次回の私物語、11月13日午後3時☆
明日午後6時に西遊記創作談話プロセストーク


ではまた💚



ありがとうございます🎊