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『あまろっく』を観ました

公開終了間際になってのレビューで申し訳ないのですが、大阪ステーションシティにて『あまろっく』を鑑賞しました。

通常料金で舞台あいさつ付き。『あまろっく』には興味がなかったのですが、芸能人の存在を確認できる、ということで行って参りました。

笑福亭鶴瓶さんと中条あやみさん、MBSの上泉アナは確かにこの世に存在します。この目で確認しました。

以下、『あまろっく』について解説(?)をします。

1.あまろっくとは?

題名の“あまろっく”は、尼崎閘門(こうもん)の通称「尼ロック」からきています。

尼ロックは通常、水量を調整して水位差のある河川と瀬戸内海を船舶が渡れるようにするためにあります。パナマ運河と同じようなものですね。「そんなこといわれても分かるか!」とおっしゃる方のために、仕組みについてうまく説明されているページを見つけましたので、このリンク先をご覧いただければと思います。

もうひとつ、尼ロックには重大な役割があります。防災です。物語の舞台である兵庫県尼崎市は市域の3分の1が海抜ゼロメートル地域。しかも、市域の南部は運河が発達しているので、台風などで瀬戸内海から海水が逆流すれば市域の多くの住宅が浸水してしまいます。

実際、1930年代の室戸台風では市域の3分の2が浸水、50年代のジェーン台風では全半壊家屋約8000戸、床上・床下浸水は約2万5000戸という甚大な被害を受けました。

尼ロックはこうした台風によって海水が市街に流れ込まないようにするための装置でもあるわけです。

当たり前のことですが、この尼ロックの特性が『あまろっく』のストーリーに大きな影響を与えます。

2.物語の舞台

尼崎市は大阪近郊の工業地帯です。関東でいうと川崎市川崎区みたいなところです。川崎市は工業地帯の川崎区とビジネスパーソンの多い麻生区でまったく様相が異なりますが、尼崎市は武庫之荘など一部の地域を除けば、ほぼ全域が工業地帯です。

市内には阪神と阪急のふたつの鉄道が走っていますが、阪神のほうがより下町色が出ています。サムネイル画像を見ての通り、『あまろっく』は下町のドラマ。当たり前のように、物語の舞台は阪神沿線に集中します。

作中では、尼崎駅周辺(尼崎城、三和本通商店街など)とその隣の出屋敷駅の近くを流れる蓬川が何度も何度も出てきます。逆にいうと、それ以外の場所はほとんど出てきません。

場所の反復と登場人物の変化がストーリー展開の軸になっているというわけです。

3.あらすじ

【プロローグ】
ウェディングドレスを着た二人の女性がバージンロードを歩いている。1994年、主人公の近松優子(小学生時代)が両親と共に尼ロックを訪れる。その体験をもとに書いた作文がコンクールで優秀賞を受賞するが、最優秀賞でないことに不満を持つ。

【ここから本編】
2015年、東京の日系コンサルティング会社に勤める優子(江口のりこ)は、会社の人間とのつき合いが悪いためにリストラをされ、尼崎の実家に戻ることになる。

実家では竜太郎(笑福亭鶴瓶)がひとり待っていた。竜太郎は歓迎ムード。赤飯まで用意していた竜太郎に対して、優子はリストラがそんなにうれしいことかと憤慨する。そんな優子に竜太郎は、何事も楽しまないといけないと言葉を送る。優子はその竜太郎の言葉に、母親(中村ゆり)が先立ったときのことを思い出す。

7年後の2022年、父の竜太郎は鉄工所の経営者として高齢になっても仕事を続ける一方、優子は再就職することなく自宅とコンビニを行ったり来たりの生活をしている。なにもしてない優子だが、小学生の勉強につきあうことだけはしている。教え方がうまいのだ。

【物語が動くポイント①】
ある日の夕食、優子と竜太郎が食事をしていると、竜太郎の口からいきなり、再婚することを告げられる。相手は20歳の市役所勤めの早希という女性(中条あやみ)。早希は近松家に入り、優子と同居することになる。

早希は夫の竜太郎はもちろん連れ子の優子にも「尽くす」一方、優子は早希と自分は赤の他人だといって突っぱねる。

【物語が動くポイント②】
ある日、竜太郎が健康のために早朝ランニングを始める。天気が急激に悪化し、大雨が降り始める。いきなりの雨に打たれた竜太郎は、急性心筋梗塞のため命を落とす。竜太郎に代わって、早希が工場に勤めだす。

優子にはかねてから縁談があった。総合商社に勤める南雲広樹(中林大樹)が海外駐在を終えて尼崎に帰ってきており、その男性と見合いをするよう早希から勧められていたのだ。優子はにべもなく縁談を断っていたが、たまたま立ち寄ったうどん屋で、南雲と(縁談の相手と知らないまま)遭遇する。南雲との縁談は早希が無理やりまとめることになるが、うどん屋でのことがあったために、話がスムーズに進む。

【物語が動くポイント③】
ふたりの関係は、ゆっくりとだが順調に進んだ。だが、あるとき再び南雲に海外駐在の内示がやってくる。場所はアラブ首長国連邦のアブダビ。この転勤を機に、南雲は優子にプロポーズをする。結果的に優子はプロポーズを受け入れる。

早希は優子に竜太郎の子どもを身ごもっていることを告げる。

【物語が動くポイント③】
そんな折、鉄工所を実務的に支えていた職人(佐川満男)が大けがを負ってしまう。職人が怪我をしているうちは製品を納入できない、つまり売上があがらない。鉄工所は経営の危機に立つことになったのだ。

優子は地場の不動産屋と土地の売買の契約を進め、あとは早希のサインをするだけまでのところまで持っていった。優子はアラブ首長国連邦に行くため鉄工所の土地には執着しておらず、早希には鉄工所をたたみ、土地を売ったお金で子どもを育てていくよう説得する。しかし、早希は土地を売ろうとはしない。

【物語が動くポイント④】
尼崎市に非常に大型の台風が接近する。海抜ゼロメートル地域にある近松家は避難地域となるが、身重の早希は荒天のなか避難先の小学校まで歩けない。結局、優子と早希は自宅の2階で台風が通り過ぎるのを待つことにする。幸い、尼ロックのおかげで瀬戸内海からの海水はやってくることなく、翌朝、尼崎市は日常を取り戻すことになる。

【エピローグ】
優子は職人を見舞いに行く。職人は優子に、竜太郎の口癖であった「何事も楽しまないといけない」の言葉の真意を告げる。竜太郎には阪神大震災のときに救えなかった命があり、震災で命を落としたひとのためにも楽しんで生きていかなくてはいけないとこころに誓ったのだった。

見舞いを機に優子は改心をし、自分が「我が家の尼ロック」になることを決意する。南雲にはアラブ首長国連邦には行くことを断り、鉄工所の副社長(社長は早希)に就任する。ただ、南雲は優子をあきらめず、鉄工所に勤務することになる。

映画は、オープニングのウェディングの二人で幕を閉じる。

4.批評

ひとことでいえば「大衆演劇みたいな映画」といったところです。良くも、悪くも。良いところと悪いところがあるのではなく、ひとつの点が良いようにも悪いようにも見えました。批評家の観点で映画を観るひとにとっては悪く見えるところが、まっさらな感情で観るひとたちにとっては良く見える。そんな感じのする映画でした。

主役については「誰の物語か?」という観点でいうと明らかに優子、江口のりこの映画でした。けれども、プロモーション資料では途中でなくなる竜太郎、笑福亭鶴瓶が中心にいて、江口のりこは端っこにいます。竜太郎と家族(優子・早希)のありようが語りのベースにあるからでしょう。こういう、主人公とナラティブの関係性、このねじれが作品をより魅力的にしています

これから本題で、それぞれの点について見ていきたいのですが……お約束の3000字がきてしまいました。ではまた、次回。

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