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怒りってなかなかコントロールできません【エッセイ】

だいたい35才を過ぎた頃からでしょうか。何だか他人に対して怒りっぽくなりました。
外面そとづらは物静かなほうなのですが、飲食店などで不適切なサービスを受けたりすると、ついカッとして、内心メラメラ「もっとちゃんとやれよ」と思ってしまいます。良くないですね。
一応まっとうな社会人を取り繕って生活しておりますので、頭ごなしに相手を怒鳴りつけたりはしませんけど、不機嫌さが顔や声に出てしまっていると思います。う〜ん、嫌われそうな客です。

逆に若い頃は、何かにつけ自分が悪いと思っていました。
体力と気合いだけはありますけど、自信と経験がないから折れやすい。すぐに原因を自分自身に持ってきてしまう。何故かそれ以外思いつかない。
特に就職してからは、仕事に関して常にあれこれ自分を責めていました。
明らかに相手方のミスであったり、偶然によって手の打ちようがないことでも、上手くいかないのは自分が悪いからだ、自分の力が足りないからだと悲観していました。まあ真面目と言えば真面目だったのかもしれません。
かなり叱責されることの多い業種だったので、動物実験の犬ように相手の一挙手一投足にビクビクして過ごしていましたね。

おそらく人生の経験を積んだことで、自分に自信を持った反面、他人に対して厳しくなってしまったのだと思います。
生存者バイアスというか、自分はこれだけやってるんだから、お前もやれるだろう、という考え方ですね。パワハラをしてしまいがちな、あぶない思考回路が、成長の副産物として発生してしまった。
人間は中年になると、いつの間にか視野の狭い隘路あいろを通るのかもしれません。
結構、ここにハマって抜けられなくなる人も多いと思います。
若い頃のように、すべて自分を傷つける方向に持っていくのも良くないけど、だからといって他人に矛先を向けるのはもっとみっともないです。

小さなことでイライラしているぼくを見ると、奥さんは必ずこんな風に言います。
「そんなんで怒ることないやん。オモロイと思ってツッコんだらええねん。笑いにすればそれで気持ちが収まるやんか」
うむ、おっしゃるとおり。
怒りも悲しみも、笑いに変える大阪メソッド恐るべしです。

他にもこういうアンガーマネジメントの面白い小技をいくつか耳にしたことがあります。
例えば、感情が高ぶったらオネエになって対処する、というのがあります。
怒り心頭に発したらキャラチェンジ、「もう最悪よ! やんなっちゃう!」とひたすらオネエを演じると怒りが収まるというもの。
なるほどぉ。
ぼくはまだやってみたことはないのですが、確かにオネエになることによって、怒りに使われるはずだったエネルギーがそこで燃え尽きるかも。

後は、頭に来たら一回ジャンプするというもの。
大袈裟に跳んで発散するのではなく、その場に直立し、ただぴょんと跳ぶだけ。
これはやってみたことがあります。確かにジャンプすると気が鎮まりました。不思議です。オネエだとなかなか人前ではできないので、こちらはよりお手軽ですね。まあオフィスでいきなりぴょんと跳んでいるやつがいたら不審な目で見られるとは思いますが。


短気は損気。
分かってはいるのですが、怒りってなかなかコントロールできません。
でも昔、学生時代に一人だけすごい人がいました。
Tさんというぼくのひとつ上の先輩です。
とあるイベントの運営のために、十数人が泊まりがけで会議をしていたのですが、みんなが寝静まったくらいの深夜、ひょんなことからTさんと他の先輩で議論が始まってしまいました。
酒も入っていたので、度を越して白熱してしまい、もう意地の張り合いのような状態です。二人とも相手を怒鳴りつけたくなるのを、なんとか押さえて向かい合っているという感じ。議論も平行線で決着が付きそうにありません。
どうなるんだろうと固唾を飲んで見守っていると、Tさんはにわかに背筋を伸ばし、声を張りました。
「駄目だ。俺はいま頭に血が昇っているから冷静な判断ができない。外にいって頭を冷やしてくる。時間をくれ」
そう言って、玄関から出ていきました。
あんなにヒートアップした状態で、しかも酔っているのに、一転そんなクレバーな態度が取れるのかよと、痺れたのを覚えています。
あの時、Tさんは若干17才だったと思いますが(おいおい)、実にクールでしたね。格好良かった。
あそこまで自分をコントロールできた人には、いまだお目に掛かったことはありません。

まとまりなく書いてしまいましたが、アンガーマネジメントはこれからのぼくの課題です。
まあ何を誓ったって、未熟なぼくは怒りに我を忘れてしまいそうになるのですが、そんな時は17才のクールな(そして酔っ払いの)青年の背中を思い出すことにします。

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