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【小説】SNSの悪夢

「ふぃいふぃとですよ。」パスタを口に運びながらなので、言葉が変になる。

食べたくて仕方が無い顔で、フォークを口に入れながら、言葉を出そうと苦労している。

「ハハハ、ちゃんと食べてから話しましょう。」思わず本気で笑った、SNSで叩かれてから、初めてかも知れない。

自分が怒りを近づけすぎて、笑いを遠くに置いて来てしまったのだ、無自覚の自分を見つめた。

それから2人とも食べるに集中した、食事に集中するのも、これまで余り無かった。

食事と言う物は、栄養補給で体を作るためだ、誰かと食べて居る時は、誰かの為に食べているので、集中して味わって食べる時間は、これまでの人生で数えるほどしか記憶にない。

熱々のグラタンは美味かった、これまでにも何度か口にしているのに、初めての感覚だ。

バター味の強いホワイトソースが具材に絡んでいて、上にのっているチーズの塩見がちょうど良く味に馴染む、考えてみると味を感じるのを拒否していたのかも知れない。

あともう一寸で食べ終わる所で、水を飲もうと顔を上げる。

えりという女性も、今食べないと皿が下がってしまう様に、パスタを口に入れている。

前に人間が居るのを忘れているのか、皿の上のものが無くなるまで、顔も上げないのだろう。

自分の分を食べ終わって彼女を見る、彼女も食べ終わった様で、パスタの塩気を漂わせながら、フォークを皿に置いていた。

店中に流れている音楽と、鼻の前から離れない匂いを無視して、もう一度話し出した。

「あなたはあの男が痴漢で有ると証明したいんですよね、私もこのままで終わらせたくない、協力しましょう。」これは自分の為でもあるが、自分を笑わせてくれた彼女へのお礼でもある。

何時の間にか、笑えなくなっていた自分に、笑っても良いのだと言ってくれた気がして、協力するのが当然に感じている。

「有難うございます、痴漢って、男の人はチョット触っただけじゃ無いかって言いがちですけど、こんなに女を馬鹿にした行為って無いですからね。」怒りを思い出したように少し声が大きくなる。

「アッ御免なさい、立花さんは違いますよ。」前に居た人間が男だったと、気付いたようだ。

「どうしましょう、今日と同じ時間に同じ電車の車両に乗り込んだらいいでしょうかね。」さっきの言葉は気にせず、聞いてみる。

「そうして貰えると有難いです、すみませんが動画で撮影してください。」ペコリと頭を下げる。

「大丈夫ですよ、ちゃんと撮って動画を渡しますから。」彼女の顔を見ながら答えた。


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