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【小説】恋の幻想

雨が降っていた、約束したのに現れない人を待って、私は途方に暮れていた。

何時までもここに居ても仕方ない、それでも家に帰るのは絶対に嫌だ、あそこではもう生きていけない。

ボンヤリ、何処に行っても、何をしても同じなのかもしれないと思う、学校はもう卒業を待つばかりで、行かなくても良いんじゃないか。

雨は心を見透かすように、止むことが無く、駅に足止めをしようとしていた。

持って居るのはカバンひとつ、その中には財布と携帯、後は通帳と印鑑だけだ。

それ以外何が居る?

他は買えばいい物ばかりだ、既にボロボロの物ばっかり、ゴミだと思って置いてきた。

もう来ないんだなと思っていても、何処に行くかは決めていない、そう言えばこんな風に誰かに決めてもらう人生だった。

ボンヤリした目の前に、男の人が立っている、彼が来たかと思ったら、知らない人だった。

「傘貸そうか、これ以上濡れたくないでしょ。」おじさんだ、変な人じゃないと良いけど。

「ありがとうございます、傘は良いです。」関わらない方が良いよね。

「ここに居ると夜になると変な奴が来るよ、早く帰った方が良い。」あなたが変かどうか分からないから困ってるのだけど。

「家に帰りたくなくて。」言ってみるしかない。

「親と喧嘩しても、謝れば許してもらえるから帰ったら。」いい人生を過ごしてきたんだな、知らないんだね。

「帰れないんです、持ち物は全部持ってきたし。」そう言うしかないよね、当ては無いんだから。

「行くところ無いの?」困った顔で聞いて来る、困るよね女の子に声かけたら家出人なんて。

「行く所なんか。」答と共に涙が流れる、何処かに行って仕事と家を探すまでは泣かないって決めていたのに。

「俺の家に行く?濡れてるから。」考えてみると、この人に付いて行っても、ここに居ても危険度は変わらない気がする。

今日の宿も無いし、若しかしたら泊めてくれるかも、何が有っても命までは取らないでしょ。

「行きます。」自分を大事にするのは忘れて、そう答えていた、いい人で何も無く泊めてくれるのなら、ラッキーだから。

傘が暖かい、人間が近くに居るって温かいんだな、もう随分人間の暖かさから遠ざかって居た気がする。


電灯が歩く場所を指し示している、猟奇殺人鬼って訳じゃないよね、声を掛けてくれて人を時折見ながら、付いて行く。

家に着いたらしい、電気が点いてて明るい、誰か待ってる人がいたんだ、迷惑かけちゃったかな。

「その子はあなたの相手には若すぎるんじゃない。」ドアを開けた途端、女性が言ってくる。


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