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昔の同業者に言ってみたい

昔は音楽を聴くと言えば、機器を揃えて、そこに記録媒体を入れて聞いていた。

だから、聞くと言う行為そのものにハードルがあった様に思う。

その点今の時代は、携帯電話さえ有れば、音を聞く事が出来る、楽しいかどうかは別として音は携帯から溢れている。

私は音楽機器は好きだ、最初はラジカセ、CD、MDと皆欲しくなった、中高生の頃にウオークマンが流行って、海外から来たアーティストがこぞって買っていて、憬れたなー。

結婚している当時、もうそろそろ、そんな機器は無くても、音楽が聴けるようになった。

本だってネットで電子書籍が読めるようになって、携帯ひとつで何でもできると考えたりした。

その頃、よく話しに来る同業者が居た、その人は親が1人で会社をしていて、帰って来てほしいと言われて、東京の仕事を辞めて戻って来た人だった。

戻って来た途端に仕事が減って、どうしたらいいか解らなくて、相談に来ていたのだ。

会社の経営者と言うと聞こえはいいが、仕事をしていて、方向性が解らなくなった時には意外と相談できる人は居ない。

その意味では、同業者でも良いから話がしたかったのだと思う、丁度我が社も仕事が中国に移管されて、方向性を見失っている時期だったので、元夫とは話が有ったのだと思う。

その方は古本屋に行くのが趣味だと話していた。

「本が好きなんですか?沢山読むんですか?」本好きは古本屋と聞いただけでこんな対応になる。

「本は余り読まないんですけどね、古い楽譜が好きなんですよ。」何やて、楽器でもするんかな?

「楽器もしないんですけど、昔の好きな歌が楽譜で残ってるのが良くって、ちゃんと普通の本屋さんにも行くんですけど、この頃は楽譜置いている店が少なくて。」そりゃあな、バイエルやチェルニー(間違ってるかも)やソナチネなら兎も角、昔の好きな歌は中々見ないだろう。

「レコードも持ってるんですよ、昔の歌って又聞きたくなる時が有るから。」今頃レコードか???

「今なら、パソコンでも聞けるでしょ??」夫が不思議そうに聞いている、この人も音響機器が好きで集めた時が有るって聞いたのに、他人にはそう言うんだな。

「僕はね、パソコンとかで聞くのは嫌いなんですよ。」それまでと違う勢いのある声でその人は言葉を続ける。

「今は何でもパソコンで処理するじゃ無いですか、それが悪いとは思わないですけど、音楽をダウンロードして聞いたりしたら、これまで関わってきた業者はどうなるんです。」まあ少なくなるよね、それも時代で仕方が無い。

「僕はCDやレコードを作った業者、そこに関わったデザイナーや配送業者、レコード屋全部仕事が無くなっちゃうじゃないですか、自分の仕事を見ているみたいで出来るだけ機器でレコードを聞きたいんです、楽譜もそれを残して置きたいんですよ。」ウーン、同業者の主張は良く分かる。

だけど、時代が変わると無くなる仕事も有って、自分たちの仕事も無くなってしまうかも知れない。

だけど、人間がいる限り違う仕事が有るんだよね絶対に、それを自分たちが仕事として出来ないって話だけで。

「まあ、時代も有るから。」元夫がポツリと言った。

「僕も時代とか解ってるんですけど、出来たら残して置きたい物は買って応援したいと思って。」同業者もトーンを落として話す。

ケイ素鋼板と云う特殊な金属を切るとか、抜くとか、材料の一部にしかならない仕事を大手としてくると、こうなるのかも知れないな。

私は割と新しいメディアは好きな方なので直ぐに飛びつく、今だとアプリで音楽を聴くのも別に問題だとは感じない。

娘みたいにアーティストが来たら、生の歌を聞きに行きたいとも思っていない。

だけど、人間って贅沢なもので、何処でも何時でも音楽が聴ける機器が手の中に有っても、それで満足とはいかない様だ。

「○○(韓国アイドル)が来たら、ライブに行きたいで、お金貯めんと。」娘が言う。

「アプリで聞けるし、インスタでライブしてるやん。」私自身はその欲望は無いので、彼女からすると身も蓋も無い事を言う。

「ライブはね、違うんよ、お母さんも見に行ったら解かると思う、絶対に違うから。」そうなんや、子供の頃に母親に無理やり連れて行かれたピアノのコンサートは感激はせえへんだで。

確かに好きなアーティストが目の前で歌っていたら、感激はするかもしれない。

だけど、それに2万円出す??交通費も必要やんと考えていると、娘が続ける。

「交通費もグッズも買うと、ちょこ10万仕事やけど、それだけの価値は有ると思う。」たっかー、さいですのか、大変や。

昔の同業者の言葉が蘇る。

「僕も時代とか解ってるんですけど、出来たら残して置きたい物は買って応援したいと思って。」

レコードも、CDもMDもたぶん今は少ししかない、だけどヤッパリ違い形で音楽にお金を使う人は居て、それは無くならないのだよね。

昔の同業者に会ったら、肩を叩いて「大丈夫だよ、音楽業界が全て無くなる訳じゃ無い。」と言ってみたい。

もう会う事も無いだろうけど。

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