ろまんチック❤ヒコーキラプソディー④
第4話《インボラの帝王》
海外行きの飛行機に搭乗すると、多くは、エコノミークラス、プレミアムエコノミークラス、ビジネスクラス、ファーストクラスと、4つのいずれかに乗ることになる。
ビジネスクラスに乗りたいなぁーと思っても、それはかなりの費用を捻出するか?マイルを交換してビジネスクラス特典航空券で発券するかだ。
ただ、
例外もある。
どんなに格安でチケットを取得しようと、航空会社の都合で、席をアップグレードしてくれることがあるのだ。
それを「インボラ」という。
もっとこのインボラ回数を増やそうと日々研究し続けている私は、鶴見孝太郎。
39歳 独身。
趣味は海外旅行で毎年2回はアジアの国へ。
長期の休みが取れるときは欧米に行くことにしている。
そして、私はインボラの達人だ。実は海外フライトでは過去に10回以上もインボラアップグレードされている。
これは奇跡的である。
どんなに上級ステイタスを持った人間でも、無料アップグレードはあまりないと噂されている。
アップグレードされている理由は、私がしっかりとした事前調査や研究を欠かさないからなのだ。
①座席がエコノミークラスよりビジネスクラスの割合が多い機材を選んで予約する。
②エコノミークラスが、ツアー直前の駆け込みで満席になりやすい最終便を狙う。
③2人より1人のほうがインボラされる確率が高い。もちろんひとり旅なので問題ない。
④身なりはきちんとする。出来ればスーツなど着用する。
まあ、「運」というものもあるのだろうが、私はその運と努力でそれを勝ち取っている。日頃の行いの良さもあるだろう。
むふふ。
「インボラの帝王」とはまさしく私のことなのだ。
さて、ゴールデンウィークに宇宙航空のチケットを取り、ラスベガスへカジノ目的に飛ぶことにした私。もちろん購入したのはエコノミークラスのチケットだ。
今回は24時間前のWebチェックインを試みたところ!
きたーーー!
喜びで手が震えながら、確認をクリックする。
おー!、、、羽田からロサンゼルス便の座席がビジネスクラスに指定されていた。ラスベガスまでは直行便がないので、ロサンゼルスからラスベガスへは乗り継ぎである。
これ又、幸先がよい。ビジネスクラスでも、当たり席。
席の両側にテーブルがあるタイプである。これは今回の旅の目的カジノでの勝算もありかもしれない。
翌日は「俺しか勝たん」のテンション上がったまま羽田を00:05に飛び立つ106便に搭乗した。
毎度エコノミークラスの格安券なのに申し訳ない気分になるが、何せ帝王だから仕方ないだろう。
アメニティはニールズヤードレメディーズのものだ。人気のポーチの中は化粧品などが入っているため会社の受付の子へのお土産としよう。喜ぶはずだ。
深夜便のため、1人インボラ成功の乾杯である。
「今回も私の勝ちだ。」
深夜だからこそ、一風堂のラーメンは旨い。
これもインボラによってビジネスクラスを楽しむ儀式のようなものだ。二杯目のおかわりも頼むことにしよう。
フルフラットになる座席でストレスなくロサンゼルスに到着だ。
帰りもインボラになることを願いながら、しばしロスの夜景に酔いしれていた。
その頃、カーテン奥のギャレーでは宇宙航空の客室乗務員ふたりが小さな声で、こそこそと話をしていた。
「15Fの鶴見様、やはりビジネスクラスになりましたね。」
「あの体重だとエコノミークラスでは他の席の方のご迷惑になりますしね。」
「大人3人分くらいの体重だと満席のエコノミークラスでは、ウエイトバランス崩れまくりでしょう?」
「まー、鶴見様は130kgくらいありそうだし。」
飛行機はバランスを取りながら、ロサンゼルス国際空港の滑走路に着陸しようとしていた。
少し前方が重いのか、機首を上げながら静かに接地したのは見事であった。
※この物語はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
※《インボラ》
インボラアップグレードとは、エコノミークラスのチケットしか持っていないのに、ビジネスクラスにアップグレードされること。 オーバーブッキングなど航空会社の都合でアップグレードされることを「インボラアップグレード」と呼びます。
※《ウエイト&バランス》
ウエイト&バランス業務は、航空機を安全に飛ばすために飛行機に搭載する人・物の重心位置を計算しバランスよく搭載位置を配分しその情報をパイロットへ提供する業務です。
※《アメニティ》
ビジネスクラスのお客様に提供するアメニティキットです。ブランド化粧品、ソックス、アイマスク、耳栓などの様々なアイテムが含まれています。それらを入れるポーチも航空会社独自のもので、プレミアがつくものもあります。
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