はじめてのnote/読書感想文もどき

 大好きな人がいる。
 だけど、その人と私が交わることは、もう、きっと、ない。

 町田そのこさんの新刊が発売される。
 単調な私の日々に、突如として降りかかるスパイス。
 それこそが、推し作家さんの新刊情報である。

 書籍が好きだ。本も漫画も雑誌も写真集も。現実世界を置き去りにして、別世界に没入することができるから。
 現実逃避って大事。本当に。

 さっそく本屋さんへやってきた。お目当ての品はすぐに見つかった。
 『わたしの知る花』町田そのこ
 装丁はネットで先に見ていた。だから表紙が素敵なのは承知していた。それでもやはり、実際に手に取ることで感じられる魅力というものがある。
 よし、買おう。
 即決。
 小一時間ほど本屋さんという名と幸せ空間を堪能し、結局購入したのはこの一冊だけ。(金欠大学生)

 うっとりと表紙や裏表紙を眺める。触れる。あらすじや帯を読む。膨らむ期待。私の手がそっとページを捲り始める。

 さあ、小説の世界へようこそ

 出逢うべくして出逢った小説であった。今、このタイミングで出逢えてよかった。そんなふうに思えてならなかった。

 特に「二章 クロッカスの女」で、香恵さんが美園にかけたある言葉が、私の心を大きく揺さぶった。
 琴線に触れる瞬間。
 私は百三十五ページ十八行目から百三十六ページ二行目までを何度も読み返した。
 まるで、難解なテスト問題で答えを導き出す糸口を得たような昂揚感と、親友だと思っていた昔馴染みが手の届かない場所で他の誰かと幸せそうに笑っているような小さな絶望感。

 腑に落ちた。そんな気がした。

 大好きな人がいる。
 だけど、その人と私が交わることは、もう、きっと、ない。始まりが終わりだったあの人と私は、未来に関係性を築くことは許されない。
 それでも、あの人と過ごした時間は消えない。私の胸の中にある。
 その時間を芯にして生きる。
 未熟な私には、あの特別な時間を芯にする術をまだ知らない。知らない私は、また、小説の力を借りるのだろうか。先のことはわからないけれど、確実なのは、この小説に救われたということだ。
 あの昂揚感も小さな絶望感も救済だった。
 だから今は『わたしの知る花』を抱きしめて、一言だけ。

 ありがとう

 あれ?現実から逃避してきたつもりが、いつのまにか現実に帰ってきてしまった。
 苦しみから逃れようと行動した結果、苦しみに向き合うことができるようになっていた。これまでにも、こういう経験は少なからずあった。
 ただ楽しむだけでなく、実生活に応用できることもある。
 現実逃避って大事。本当に。

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