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サトウキビ Ni29

農林29号 (母本:RK87-81 父本:F172 )

生い立ち

 1994年に沖縄で産まれ,1996年に宮古島に播種された.1999年に系統名RK97-7020と命名された.2011年に品種登録されNi29となった.茎重型の早期高糖性品種.収穫が遅れると糖度が下がる傾向にある.耐倒伏性に優れる反面,折損被害は多い.実はNi28と親が同じで,系譜を見るとF172の戻し交雑になっている.

時代背景

 南北大東島は終戦後,さとうきび生産を最も早く開始した地域である.つまり育種の黎明期に作出された品種がいち早く導入され,同じく黎明期に導入された農業機械が定着した島である.品質取引以降,育種の過渡期を過ぎてなお,高糖性品種よりも重量取引時代の品種が多く,糖度と生産量を兼ね備えた品種の作出が望まれていた.育種サイドでも地域性が重視されており,大東地方向けの品種について試行錯誤していた時代である.
大東地方はF161が主流で島全体の9割という時代もあった.F161は晩生でこれまでも早期高糖性品種が導入されていたが農家の好みに合わないのであろう,定着しなかった.太く,長く,茎重型の早期高糖性が求められた.

草型と特徴

 葉身が長い.未展開葉は直立し先端だけ横に倒れる.展開葉は直立するが中程から横倒しになり先端は斜め下に向かって緩やかに下垂する.したがって弧を描いて下を向く品種よりは葉の先端が遠くへ伸びることになる.葉が多い位置は上下に分かれる.初期生育では最上位展開葉よりも上,生育が進むと下の方が多くなる.これは展開葉の数が増えるためである.



以下,参考にならない勝手な考察
 通常,播種年度の下2桁と系統番号の最初の2桁とは一致するのだが,この品種だけ,違う.なぜだろう?
 サトウキビの糖度はストレスを受けると上昇すると言われている.それは乾燥であったり,塩害であったり,低温であったりさまざまである.サトウキビにとって日本は寒いので冬になると糖度が上がる.早期高糖性品種も11月よりは1月の糖度の方が高く,2月はさらに高い.3月になると気温が上がり始め品種によっては逆に糖度が下がる.Ni29は早期高糖性で12月から1月に糖度のピークを迎えあとは下がっていくという性質を持つ.
 未展開葉と展開葉どちらも直立するが,折れ曲がり方が違うので葉が多い位置は上下に分かれたタイプ.つまりNiF8に似ている.受光態勢に関しては最も効率が良い.しかもこれまでの同じタイプが「弧を描いて下垂する」のに対しNi29は「斜め下に向かって緩やかに下垂する」点が違う.LAIを形成する速さはNi29のほうが上だと考えられる.私のイメージする完成形に近い.欲を言えばもう少し細くて分げつが多い形の方がいいだろう.
 親が同じなのにNi29はNi28と違い,濃緑色の葉と茎を持つ.茎の緑もクロロフィルでおそらく,光合成をする能力を持っている.サトウキビではないが葉以外にクロロフィルを持つ植物の光合成能力は調べられていて,生産量に関係しているといわれている.Ni29の受光態勢は茎にも光が当たりやすいのでもしかしたら成長に影響しているかもしれない.
 たいへん優秀な早期高糖性品種だがあまり多く植えられていない.この品種は3月には糖度が下がるので適期収穫しないと糖度が下がる.そうするとその地域で12月に収穫できる能力に見合った面積以上に栽培してしまうとかえって糖収量が減収するからである.この品種を増やそうと思ったら12月に収穫できる能力を向上させる必要がある.


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