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バンドマンの就活ー番外編

先日は、
とんでもなく久しぶりに早起きをして、
スーツを着て、
バスに乗り、特急に乗り、
深いため息とともに隣県へ降り立った。

もう7月。
敵になるのか戦友になるのかわからない黒いスーツの列に加わり、「就活生」の仲間入りを無事果たす。「これでワシも立派なゴキブリやなぁ」と日本中の就活生を敵に回しそうな言葉をスッとしまいこむ。

この日は所謂適性試験とやらで、
とにもかくにも疲れた。
果たして私は今なにをしているのだろう、等と考える間も無いくらい、むしろ悟りの境地にいた気分である。延々と続く計算、色の選択早押しetc...
めっきり疲労したのちに健康診断まであったのだが、疲れ切った目でやる視力検査はもはや私の未来同様ぼんやりであった。

その合間、1時間の待ち時間で、担当の方が気を使ってくれたのか暇だったのか、同じグループだったメンバーで小1時間雑談をした。
「はい、私はコミュニケーションをとることが得意です。」
などと抜かしていた「私」はあくまでも「面接時の私」であるのでこういう際非常に困る。ははぁ、とひきつった笑顔でいたら、

「君の地元のおすすめは何?」

と、唐突に聞かれた。
果て困った。かれこれ20年生きているが、これと言って思いつかない。
というか正確には、何を答えるべきが脳内で緊急会議が開かれ、返答に時間がかかる。

「ここは正攻法、史跡で攻めましょう!我が街には城がある!」
「待て、周りを見てみろ、いかにもスポーツ系の男子、キラキラ系の女子だぞ、そんなん史跡なんて言ったら場がシラケるかもしらんぞ!おしゃれな場所を言おう!」
「しかし…!我が街にそんなところは、、、、」

そうこうしているうちに、全員からの視線に耐え切れなくなり、
「ははぁ~、そうですね、歴史があって、あと夕日がきれいですねぇ~」
という無難of無難なことを口走ってしまった。
もしこれが合コンならこのあと私は女子トイレで笑いものにされているのだろうな。無念。

このほかの参加者の就活生のみなさんは、地元のおしゃれスポットやおすすめの場所を上手に紹介されていた。なるほど、就活生にはこんな力も求められているのか。

悲しい余談だが、キラキラ女子の一人がこののち、
「私大学の授業で今、地元の城郭の研究してるんですよ」
と発言し、私の中で再び緊急会議が開かれた。

これは先ほど正攻法で攻めても大丈夫だったのでは……
というか、歴史学ですか…?地理学ですか…?
…と飛び交う意見をよそに私は鋭く言い放った。

「見てみろ、私はすでに浮いている。いまさら何しても遅い。」

時すでにお寿司。
気づけば同じグループのメンバーは、各々小さなグループになって会話を始めていた。私はやる術もなく、時計が進むのを待っていた。



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