2023/10/06(金)のゾンビ論文 パグのおならがゾンビヒツジを駆逐する…という架空の研究報告

ゾンビについて書かれた論文を収集すべく、Googleスカラーのアラート機能を使っている。アラート設定ごとに、得られた論文を以下にまとめる。

アラートの条件は次の通り。

  1. 「zombie -firm -philosophical -botnet -xylazine -biolegend -gender」

  2. 「zombie -firm -philosophical -DDoS -xylazine -biolegend -gender」

  3. 「zombie -firm -xylazine -biolegend」(取りこぼし確認)

検索条件は次の意図をもって設定してある。

  • 「zombie」:ゾンビ論文を探す

  • 「-firm」:ゾンビ企業を扱う経済学の論文を排除する

  • 「-philosophical」:哲学的ゾンビを扱う哲学の論文を排除する

  • 「-DDoS」/「-botnet」:ゾンビPCを扱う情報科学の論文を排除する

  • 「-xylazine」:ゾンビドラッグに関する論文を排除する

  • 「-biolegend」:細胞の生死を確認するゾンビ試薬を使う医学の論文を排除する

  • 「-gender」:ジェンダー学の論文を排除する

また、検索条件3では、上記の検索キーワードで不必要にゾンビ論文を排除していないかを確かめる。

今回、それぞれのヒット数は以下の通り。

  1. 「zombie -firm -philosophical -botnet -xylazine -biolegend -gender」三件

  2. 「zombie -firm -philosophical -DDoS -xylazine -biolegend -gender」三件

  3. 「zombie -firm -xylazine -biolegend」四件(差分一件)

検索条件1-3は政治学、教育学、評論が一件ずつだった。


検索条件1「zombie -firm -philosophical -botnet -xylazine -biolegend -gender」

「はじめに: 新時代のゾンビ政治」の修正

一件目。

原題:Correction to: Introduction: The New Age of Zombie Politics
掲載:Covid-19 Pandemicという本
著者:Christian Aspalter
ジャンル:政治学

9/27に修正版が公開されたとのことで、アラートに引っ掛かった。

zombieの単語は"zombie politics"(ゾンビ政治)という文字列で出てくる。正確に定義されたわけではないが、アブストラクトに"out of place and especially out-of-time policies"(場違いで時代遅れの政策)という説明があるため、ゾンビという字面から想像されるように、とっくの昔に効果がないと確認されているにもかかわらず正しいものとして持ち出される政策を指すのだろう。

それが本全体の主張にどの程度寄与しているかはわからないが。

ということで、ジャンルは政治学。


パグのおならとゾンビシープにはどんな関係が? 効果的な研究ポスターデザインの原則を会得する

ニ件目。

原題:What Do Pug Farts Have to Do with Zombie Sheep? Mastering the Principles of Effective Research Poster Design
掲載:POGIL Activity Clearinghouse
著者:Patricia Mabrouk
ジャンル:教育学

タイトルの通り、研究報告用のポスターの良いデザインを会得する方法論を示した論文。もうひとつ、タイトルにある「パグのおならとゾンビシープにはどんな関係が?」というのは下記の論文からの引用である。

研究ポスターの効果的なビジュアルデザインとコミュニケーションの実践:マルチメディア学習とレトリックの理論と実践に基づく模範例

原題:Effective visual design and communication practices for research posters: Exemplars based on the theory and practice of multimedia learning and rhetoricsign
掲載:Biochemistry and Molecular Biology Education
著者:Rhianna K. PedwellとJames A. Hardy、 Susan L. Rowlandの三名

こちらの論文内で、おそらくは引用から研究手法・結果に至るまですべてが完全創作である架空の研究結果を使い、良いデザインと悪いデザインのポスターの例を示している。その架空の研究タイトルが"Pug farts are a viable control method for Mortuus ovis"(パグのおならはゾンビヒツジの有効な防除方法である)なのである。

基礎的な対照実験をベースに創作された研究であり、かつ見やすくデザインされたポスターであるため、辞書を引きながらの初学者や科学の素人でも読みやすい。英語に自信があれば、ポスターを読んでみてほしい。

上記の架空の研究自体は本物のゾンビを扱ったといっても過言ではない。ヒツジとはいえゾンビはゾンビであり、しかもゾンビヒツジを殺すためのメソッドを研究しているのだ。これが本物のゾンビを扱った論文でなければ何なのか。とはいえ、架空の研究報告であるから、その時点で本物のゾンビとは言えない。残念だ。

いや、逆にすべて架空ならばレビューして分析するのもよい気がする。私もいつかこういった嘘っぽいゾンビ論文を書いてみたいものだ。

ジャンルは教育学。引用元の論文も教育学か。


おい、ヴィクトル!

三件目。

原題:Hey, Viktor!
掲載:Journal of Religion & Film
著者:Ken Derry
ジャンル:評論

Hey, Viktor!』という映画の評論。"zombie priest"(ゾンビ司祭)なるものについて論文中で言及がある。その中で、以前も私の記事で紹介したことがあるRhymes for Young Ghouls』や『ブラッド・ブレイド』という映画にも触れ、それぞれでゾンビと先住民族との間にテーマが存在すると述べている。



検索条件1-2の差分(差分なし)

「DDoS/botnet」で検索結果に差異が生じるか調べる。

今回は差分がなかった。



検索条件3「zombie -firm -xylazine -biolegend」

上記の条件で誤ってねらいのゾンビ論文を取りこぼしていないかチェックするために、こちらの検索結果もチェックしておく。ただし、ゾンビ企業とゾンビドラッグ、ゾンビ試薬は排除されるように設定してある。

スラブとゲルマンの「他者」としての狼男:口承文化と大衆文化の間のチェコの狼男伝説

原題:The Werewolf as the Slavic and Germanic “Other”: Czech Werewolf Legends Between Oral and Popular Culture
掲載:Werewolf Legends
著者:Petr Janeček
ジャンル:評論

「-gender」で排除されたと推測。チェコやポーランド、スロバキアにおける狼男伝承を調査しており、伝説やフィクションの研究は「-gender」で排除されるケースが多いため、間違いないだろう。

狼男はゾンビと同じくらい大衆文化に息づいている、という文脈でzombieの単語が使われている。



まとめ

検索条件1-3は政治学、教育学、評論が一件ずつだった。

パグとゾンビヒツジの架空の研究はよかった。非常に強いインスピレーションを受けた。ばからしいがそれらしい題材を選んだばかりか、倫理的な面にも配慮して報告内容をデザインしたらしい。虚構新聞やムーも社会倫理に抵触しないようにして記事を作成しているようだし、ゾンビという人気のある虚構を扱う人間としては見習うべき点があるように思う。

そして、今回はねらいの論文がなかった…と言いたいところだが、架空とはいえ本物のゾンビを仮定した研究報告をこの目で見たのだ。このままハイサヨナラと放っておくのはもったいない。

よって、ねらいの論文はなかったが、それと同等に興味を引く論文はあった。とした。通常の論文とは異なりペラ一枚と非常に短く、論文内での言及も限られているため、いつかレビューしたい。

…2月くらいからレビューしたい論文をためているくせに、そんな時間があるのだろうか。


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