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【読書記録】煽動者/石持浅海

読書の秋なので好きな本を読み返す企画、その2。先日の『攪乱者』と同シリーズの石持作品。ただ、これはどんな話だったか全然覚えていなくて(苦笑)、かなり新鮮な気持ちで読み返してしまった。

「V」と呼ばれる組織の、兵器製造を担当する細胞の物語。ある週末、兵器の企画・製造のために8人のメンバーたちが集められた。部外者の侵入が不可能なその場所で、メンバーの1人が殺されてしまう。しかし彼らはテロ組織、警察を呼ぶなんてことは論外だし、兵器づくりというミッションも遂行しなければならない。兵器の考案・製造と犯人探し、2つの課題を軸に展開されるミステリー。

※ここからネタバレを含みます※

前作『攪乱者』と違い、今作の主人公・春日はいわゆる"表の姿"もきちんと描写されている。サラリーマンとしての素顔、慕ってくれる後輩、そして組織への加入を決意した理由。『攪乱者』に登場した3人もきっと、それぞれ普段はこうしたごく普通の人たちだったのだろう、と容易に想像できる。

舞台や登場人物たちの設定こそ変わっているけれど、本作はミステリではお馴染みのクローズド・サークルものだ。組織の施設だから絶対に外部の人間は入ってこられないし、テロリストが警察を呼ぶわけにもいかない。活動は週末だけなので、彼らは一度「普通の人」に戻るわけだが、殺人事件が起こった現場に再び戻らなければならないのはキツいよな、とメンバーたちには同情してしまう。

殺人事件の動機については、一般人の感覚だと「え、そんなことで?!」と思った(特に2つ目の殺人)。もっとも、彼らは強い思想のもとに集ったテロリストだから、と言ってしまえばそれまでなんだけれど。というか石持作品には「そんなことで?」というような動機が多いんだけれど、おそらくは実際の事件もそんなものか。殺人に、誰もが納得できるような正当な理由などあるはずもない。

今作でそれ以上に興味深いのは「組織の正体」だ。現政府をより良くするためのワクチン。それを踏まえれば、彼らのコードネームの由来も、前作から行われてきた作戦が決して国家をすぐに転覆させる規模のものではなかったことも納得がいく。ついでに、前作の細胞のリーダー・入間の正体にも納得できてしまう。「この国が良くなるのであれば、それは現政府でも構わないはずだ(大意)」という串本の言葉は含蓄に富んでいると思った。

最後の育恵のセリフも、個人的にはとても好き。もちろん、べつに彼女は組織のメンバーとは限らない。なんなら本当に別の予定があるだけの可能性も高いけれど(笑)、想像の余白を残してくれる終わり方がわたしは大好きだ。この組織はほかにもいろんな物語の舞台になりそうだし、シリーズが続けばいいのにな。

※トップ画像はeKokkPixabay)より。じゃがいもはピーラーで剥く派です。

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