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映画感想文「クロース」子供時代に別れを告げていく12歳少年の1年の物語

大人の階段を上る。

2人の少年の姿を通し、その不可避性と切なさを雄弁に物語る作品。

観賞用の花を育てる花卉農家の息子レオは、同じ歳で幼馴染のレミと親友だ。互いの家を行き来し、何をするにも一緒で、まるで兄弟のように育つ。

しかし12歳の夏。

新学期が始まり登校すると、思春期の友人達に「2人は付き合ってるのか」と聞かれ、それをきっかけに自分のアイデンティティに向き合うことになったレオは、次第にレミと距離を置くようになっていく。

「世界の車窓から」に出てきそうなヨーロッパののどかな田園風景が美しい。そしてそこで戯れあい遊ぶ少年たちの光景は、無邪気な幸せに溢れている。

それなのに。

周囲からの視線を意識しはじめるに連れ、屈託のなさは徐々にかげをひそめ、互いを意識しぎこちなくなっていく2人。

必要以上に人目を気にしてしまう。そのギクシャクが、思春期あるあるでなんだか懐かしく、ちくちくと胸が痛む。

そして、自分だけが悟る罪。

自分の行動が知らぬ間に人を傷付けて追い込んでしまってることに気付いてしまう。

自らの不甲斐なさに打ちのめされ、言い訳しようのない事態に息苦しくなる。それでも血で濡れた両手を見つめ、逃げ出すこともできずに泣き出すこともできずに、じっとそこに佇む。

それは、ある意味大人にしかできない孤独な悟りだ。

多かれ少なかれ、誰もが経験するであろう、そんな大人の階段を登っていく彼らの姿に、いずれにせよ、いつかこういう日は来たよね。と思う諦観と、いつまでも、平和で仲良く幸せでいて欲しかったという願望がせめぎ合い、観ている方も切ない。

色とりどりの花に囲まれた農園の夏から始まり、翌春までの1年の物語。

家族と共に花に囲まれ、植え付け刈り取る少年の姿には1年分の年輪が着実に刻まれていく。

セリフや説明は少なめ。登場人物たちの表情や佇まいで魅せる。前半の屈託のなさから、どんどん脱皮していく少年の表情の変化が秀逸。

映画に出るのは初めてだという少年2人の好演が大変素晴らしい(2人ともこれから売れっ子になりそうな大物感あり)。

かつ2人を取り囲む家族が最近の映画には珍しく、何の問題もない平和な家庭。誰もがこんな家族を持ちたいと思うような、理解あり愛に満ちた両親と兄弟であり、その設定が更に胸を打つ。

どんなに素晴らしい家族に囲まれていても、たったひとりで向き合わないとならない。その事実がより一層切ない。

長編映画一作目も高く評価された32歳のベルギー人の監督の第二作。カンヌ国際映画祭でグランプリ受賞も納得の味わい深い作品。おすすめ。

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