映画感想文「ロボットドリームズ」出会いと別れを描く大人向けアニメ。セリフなしでも沁みる
出会いと別れを繰り返してきた。
毎回、ときめきと落胆を体験する。特に喪失は、時に耐えられない絶望をもたらす。
そんな万国共通の人間の営みをセリフなしのアニメ、登場人物はオールキャスト動物、で表現する意欲的な作品。それにより、より普遍的な物語となっている。
今年のアカデミー賞で長篇アニメーション賞にノミネートされた。原作は米国の作家サラ・バロン、監督はスペインのパブロ・ベルヘル。(ちなみに蛇足だが、同年のこのタイトルの受賞作は宮崎駿監督の「君たちはどう生きるか」である)
動物たちが暮らすニューヨークはマンハッタン。大勢の人が暮らす街で、ドッグは深い孤独を抱えていた。
昼間はひとりで出かけ、夜はひとりぼっちのアパートで電子レンジでチンした冷凍食品を食べ、ひとりテレビゲームに興じる。
友達を作ろうと色々試みるが、いずれもうまくいかず深い関係を築けない。この辺りのセリフなしの描写が素晴らしい。不幸なわけではない。それでも幸せではない。という孤独さ加減。そこでちょっとしたことから、ドッグが少しずつ追い詰められていく様がよく滲み出ており、沁みる。
一向に孤独から抜け出せない彼は、ある日通販で友達ロボットを購入する。組み立て動き出したそれは、すぐにドッグを友人と認知した。そして、それはとっても素晴らしかった。
共にゲームに興じトランプをする。ビザやホッドドッグを分け合う。手を繋いでセントラルパーク、エンパイヤーステートビル、クイーンズボロ橋、コニーアイランドの海岸へと出かける。彼はドッグの良き相棒となる。
しかし9月のある日、事件は起こる。
友人、恋人、親子、どの形態にも置き換えて味わえる普遍的な人の出会いと別れ。ドッグやロボットの逡巡に共感しすぎて、何度か落涙しそうになる。
またテーマソングとして流れる曲に聞き覚えあり、ググったら1980年代に流行ったディスコソングのアース・ウィンド・アンド・ファイアー「September」だった。Do you remember から始まるメランコリックなメロディが、作品にぴったりだった。
別れは辛い。それでも振り返ると後悔する出会いは一つもないことに気付く。
大人向けアニメである。