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映画感想文「ドーナツキング」アメリカン・ドリームを成し遂げたカンボジア人のドキュメンタリー

20代は刹那的だった。

執着は停滞を意味し、何かを残そうとするのは年寄りのすることだと思ってた。

そんな私がいま、残したい焦燥感に駆られているんだから、笑える。歳をとったということなんだろう。

この映画は、命からがら内戦を逃れ、カンボジアから家族と共に米国に渡り、ドーナツ店の経営で億万長者になった、テッド・ノイの半生を描いたドキュメンタリーだ。

彼は、 多くのものを残した。

アメリカンドリームの体現者であることではない。100以上の家族の身元保証人となり難民を受け入れ、彼らに惜しげもなくドーナツ店経営を伝授し自活を後押ししたこと。米国にカンボジア人経営のドーナツ店マーケットを作り出したこと。

そう、ダンキンドーナツ始め大手チェーン店が大半を占める米国において、西海岸では個人経営店がチェーン店の約20倍の5000店、しかもその9割がカンボジア人経営だという。

母国を失った難民たちはそれぞれの地で必死に働き、チェーン店の台頭にも負けない、地域のサードプレイスとなった。全て彼から始まったものだ。

今では大学でマーケティングや経営を学んだ二世達がSNSを活用し、商品開発や集客に励み、益々店を繁栄させている。

破天荒で周囲を振り回し欠点も多く、決して聖人君子ではない。それでも「初めて会ってすぐ、彼の成功を確信した」と競合チェーン店の責任者に言わしめる、77歳の彼のチャーミングなこと。

最高に魅力的だ。

そしてもうひとつ。失業率が増加し、自国民も職探しに喘ぐ1970年代オイルショック不況当時、カンボジアからの移民を受け入れる決断をした米国の度量の大きさよ。

欠点多かれど、やはり偉大な国だ。

(余談だが、フォード大統領の「アメリカは移民の国である…」という難民受け入れを国民にプレゼンする演説が泣ける)。

映画界の大物リドリー・スコット監督総指揮、中国系米国人のアリス・グー初監督作。

こんなに面白い映画なのに上映館少なく終わった。Amazonプライム他でぜひ観て欲しい快作。

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