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人間の尊厳を考えさせられる「ノマドランド」

意見が別れる作品だと思う。

ネバダ州に住む60代のファーンは、夫亡き後も思い出の残る家でひとり暮らしてきた。しかしリーマンショックの不況で工場はつぶれ、企業城下町は郵便番号さえ失くし消滅。故郷を失った彼女はキャンピングカーで季節労働の現場を渡り歩きながら車上生活を送る「ノマド」として生きていく。

「うちで暮らさないか」と、家族や友人が手を差しのべる。「年金を貰ったらどうか」とケースワーカーは勧める。でも「働きたいの」と彼女は答える。

雄大な自然の中を旅し、誰もいない泉でひとりで泳ぐ。行く先々でノマド達との心の交流がある。孤独だ。でもそこには限りない自由がある。

ノマドは60代70代の高齢者、そして女性が多い(男性より収入が少なく、日本のように第三号被保険者制度もなく、年金で暮らせない)。いずれも愛する人との別れや自らの傷病等、痛みを抱えてさまよっている。

主人公ともう一人だけがプロの俳優で、あとは実際のノマド達が本人として、出演。まるでドキュメンタリーのような映画だ。

「思い出に縛られ過ぎていたのかもしれない」と語る彼女が選択するラストは哀しく、でも清々しい。

これは人間の尊厳について扱った作品だ。


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