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映画感想文「遠いところ」まさに映画ではなく現実。主演の花瀬琴音の熱演が素晴らしい

どうしたらこの現状に救いがあるのか。

沖縄の貧困のリアルを知って欲しいという強い思いを持って作られた作品。

登場人物たちの方言も字幕入れて欲しいと思うほど沖縄弁(1割くらい理解できず)。

ともかく、幼いながらに家族を守ろうとギリギリまで奮闘する主人公の意志の強さと周囲の大人たちのクズぶりが強い印象を残す。

ちゃんとまともな昼の仕事につけ、と大人たちは言うが義務教育しか受けてないアオイには時給792円の飲食店の仕事しかない。それでは食べていけない。

そして親や親戚や大人たちもみな一様に自分の日々の暮らしで精一杯で、説教はするものの誰もアオイを助ける経済的余裕も知恵もない。

ギリギリの生活の中できちんとした躾を受けることもない息子は、2-3歳に見えるがまだ言葉も話せない。

夫のマサヤは何をやっても続かず、追い詰められると言葉で自分の気持ちを説明することができず、暴力を振るったり突然いなくなったりという衝動的な行動しかできない。

こうやって負の連鎖は続いていくのだとしみじみ体感する。

だけど、もし自分ならどうやってアオイを助けることができたんだろう。

17歳のアオイ(花瀬琴音)は幼い息子健吾と仕事が続かない夫マサヤを抱え、毎日朝までキャバクラで働いてる。店には友人のミオ(石田夢実)はじめ、アオイのような未成年がたくさん働いてる。

そんなある日キャバクラに警察が入り、取締りにより彼女たちは店で働けなくなる。

同じタイミングで建設現場での仕事をしていたマサヤはまたしても仕事を辞めてしまう。更に働いて欲しいと懇願するアオイに暴力をふるった挙句、アオイの貯めていた貯金を奪い、いなくなってしまう。

家賃も払えなくなったアオイは義母の家に身を寄せるが生活は益々苦しくなっていき、危ない仕事を引き受けざるを得なくなっていく。

救いようのないストーリーの中で、終始誰にも頼ろうとせずにひとりで解決しようとする(しかしその解決策がまた救いようもない)アオイの幼さと健気さに心を抉られる。

そして悲惨な現実のなかに織り込まれてる別のシーン、青春真っ只中にあるアオイが友人たちと海ではしゃぐ姿や夫や息子との楽しげな家族の団欒の姿など、数少ないこれらの存在が彼女を支え、また絡め取っていたんだと悟る。

残念だが、一度これらを断ち切らねば彼女は救われなかっただろう。全てを捨ててひとりでやり直す。それが私の考える、ここから抜け出す唯一の答えだ。

もちろん、根本から救うには、やはり自活する力、計画する力が大事だ。だからやはりこの連鎖を断ち切ることのできるのは本質的には教育しかないとしみじみ思う。

だけど、もうこうなってしまった現実の前にはその回答はあまりにも遠い。

主人公を演じる花瀬琴音は「すずめの戸締り」で声の出演をしていた女優で今回映画初主演。東京出身だが沖縄に住んで覚えたという方言や佇まいがナチュラル。演じるのも辛そうな映画の中で、見事にアオイを表現。きっとこれから沢山の作品に声がかかりそうで注目。

また友人ミオを演じる石田夢実(ユニクロや資生堂のモデルだが映画出演は初)も良かった。

この2人の熱演みるだけでも価値のある映画。

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