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映画感想文「朽ちないサクラ」硬派で地味ながらそれぞれの正義を問う力作。柚木裕子原作

正義ほど、怪しいものはない。

戦争だって正義の名のもとに行われるのだ。人はそれぞれの正義で動き、それは折り合うことはない。

愛知県郊外で起きたストーカー殺人事件。被害届の受理が遅れた警察が世間から非難を浴びる。おまけにその間に慰安旅行に行っていたことが地元紙にスクープされ、非難轟々の事態となる。

警察職員ではあるが刑事ではないイズミ(杉咲花)。広報課に勤務している。親友は地元新聞の記者千佳(森田想)。イズミが千佳に漏らしたひと言がやがて大きな波紋をよんでいく。

というストーリー。柚木裕子の小説が原作。警察、公安、新聞社、そしてその中のそれぞれの個人。彼らの正義はみな異なり、ぶつかり合う。

杉咲花は安定の素晴らしい演技。

ドアップも多いが、それにも耐えうる演技。ちょっとした表情の変化、目線で感情を表現するのが神レベルに凄い。本当に力量のある女優である。宮沢りえ主演の「湯を沸かすほどの熱い愛(2016年)」で主人公の娘役だった頃からずっと、彼女の作品は全て観ることにしている。

対するその上司役、安田顕も本当に上手い。何しろ目つきの鋭さに特徴はあるものの、その容姿が典型的な日本人中高年であるところ、そして善人も悪人も演じられる演技力。これにより、どんな役も演じられる。引っ張りだこなのもわかる。得難い俳優だと思う。

そして、この作品で思いがけず良かったのが藤田朋子である。イズミの親友千佳の母を演じている。完全に脇役だし登場回数もさほど多いわけではない。それでも印象に残る演技。

セリフも良かったので脚本の力もあるだろう。それにしても杉咲花とふたりで対峙するシーンばかりだが、いずれも娘を亡くした母の心情が胸に迫った。この作品をきっかけに今後も母親役で声がかかるのではないか。すごく良かった。

ということで作品としての出来は良い。しかし惜しむらくは2時間の映画に収めるにしては、盛り込みすぎなことか。特に実在する事件に近いものも出てくるので、詰め込み過ぎず慎重に扱うべきだったようにも思う。そこだけが唯一、残念。

だが、芸達者が揃い、問いかけるテーマも明確。硬派で地味ながら力作である。

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