Cymru Wales:ウェールズ政府ブランディングのためのカスタム書体
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Cymru Wales:ウェールズ政府ブランディングのためのカスタム書体

ウェールズとオランダを拠点とするデザインスタジオ、Smörgåsbord(スモーガスボード)がウェールズのナショナルブランディングを手がけてから数年。その大きなウエイトを占めるカスタムフォントが大幅に拡張された。当初用意されていたサンセリフ書体にセリフ書体が追加。さらにウェールズ交通局のブランディングにあたって、このファミリーが特別に拡張されている。

(タイトル画像はSmörgåsbordから)

前知識

グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国、「イギリス」。その4つの国のひとつがウェールズだ。ウェールズには英語以外にもうひとつ公用語がある。もちろんウェールズ語だ。ウェールズ語は英語とまったく異なる言語で、Wikipediaによれば話者は70万人いて微増しているそうだ。

表記には英語とおなじくラテン文字を使う。ラテン文字はもともとラテン語のもので(そりゃそうだ)、ヨーロッパ各言語の表記には、表現できない音がでてくるので、いくつかの方法が工夫される。代表的なのがダイアクリティカルマークとダイグラフだ。ダイアクリティカルマークはアキュート(´)とかマクロン(¯)とかウムラウト(¨)とかみたいな文字の上下につけるアクセント記号みたいなやつ。ウェールズ語ではサーカムフレックス(ˆ)をつかう。ダイグラフは2つの文字の組合せでひとつの音を表現することで、例えば英語の「th」や「ch」なんかがそうだ。ハンガリー語の「dzs」のように3文字を使った「トリグラフ」もある。ダイグラフは1文字として扱われる場合もあって、よく知られるものではオランダ語の「IJ」がある。

サンセリフ書体 Cymru Wales Sans

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(図版はColophon Foundryから)

ウェールズ語は「ch」「dd」「ff」「ng」「ll」「ph」「rh」「th」の8つのダイグラフを使用し、いずれも「1文字」として使う。この書体ではこの8つのダイグラフに特別なデザインのリガチャを用意している。

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カーマーゼンの黒本

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ヘルゲストの赤本

カーマーゼンの黒本』『ヘルゲストの赤本』。13・14世紀の両写本に取材し、ウェールズ「らしさ」を求めたそうだ。その結果のひとつが「丸いd」になった。Webサイトには「アイスランド語にもインスピレーションを得た」と“Bergstaðastræti”の交通標識が掲出されているので、おそらく「ð(エズ)」を参考にしたのだろう。(英語でもかつて使われた文字に「þ(ソーン)」「ſ(ロングS)」などがあり、「ð(エズ)」は過去にウェールズ語でも使われていて、アイスランド語ではいまも現役)

カーマーゼンの黒本はこちらで閲覧できる→ウェールズ国立図書館
ヘルゲストの赤本はこちらで閲覧できる→ボドリアン図書館

「h」「l」「m」「n」「u」もちょっと丸い、終筆がカーブしたデザインとなっている。これはウェールズ語とつながりのあるケルト語・ゲール語の資料を参考にしたとのこと。

そしてこれらの特徴を強調したCymru Sansと、主として英語のための控えめで「つまらない」Wales Sansが用意された。「ウェールズ」というのもじつは英語で、ウェールズ語でウェールズは「カムリ(Cymru)」と呼ぶことから。なお、ウェールズ語でウェールズ語は「カムライグ(Cymraeg)」。

完成した書体ファミリーを政府の5セクターにそれぞれ使い分けることで、共通していながらそれぞれの個性を出すことを目指した。Cymru Wales Sans Mediumを観光に、Cymru Wales Sans Lightの大文字中央揃え字間あきをビジネスに、など。

Cymru Wales Transport

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(図版はSmörgåsbordから)

Smörgåsbordはウェールズ交通局のブランディングも手掛けることとなった。ラウンデル(シンボルマーク)などと並行して、Cymru Wales Sansのステンシル派生バージョンCymru Wales Transportを開発。Sansと併用することで、ウェールズのブランディングと連動しつつ、個性を出すことを目指した。

Cymru Wales Serif

2017年のブランディング成功を受け、Cymru Wales Serifが追加された。
・セリフの形状はウェールズのレターカービング(石彫文字)を参照した
・「B」「d」「dd,」「g」「P」「R」「&」のカウンターを「つなげない」ことでややカーシヴなデザインとした。
長文が組める書体へと拡張されたことで、新聞などさらなる用途の広がりを期待しているそう。

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(図版はSmörgåsbordから)

いずれも書体デザイン・開発はロンドンのColophon Foundryが担当。

追記と補足(2020/4/18)

このプロジェクトには信頼できる専門家から批判の声があります。Tiro TypeworksのTwitterアカウントで、以下の論点が投稿されています。(解釈が不正確な可能性があります)

・歴史上の無関係な字形を採用し、本来無関係な現在の字形にならべるのはおかしい。(該当ツイート

また、続くツイートでは交通局のサインシステムには適当ではないことも指摘されています。

このnote記事の筆者は、この意見におおむね同意です。なお、この特殊な字形は、交通局のWebでは見出し等に採用されているものの、アプリ等では通常版のWalesが使われており、サインシステムへの採用は未確認ではありますが上記新聞への採用と同じく「期待を書いてる」のではないかと推測します。また、Webで上記政府5セクターのうちビジネス系を確認したところ、こちらも特殊な字形の採用はされておらず、成果の記載などからもそもそもこの案件そのものが観光系向けを主軸としたものではないか……つまり提案時の内容が混在しているのではないかと想像しています。

この議論の存在についてはakira yoshinoさんから教えていただきました。いつもありがとうございます!

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Satoru Kimura

こんにちは。読んでいただいてありがとうございます。

ありがとうございます。 (書体 Gill Sans Nova)
タイポグラフィや書体のことを書こうとおもってます。 フリーランスで、グラフィックデザイン周縁のあれこれをしております。 https://kimurasatoru.com