田舎を出て暮らしている貴方には共感してもらえるのかもしれない。

高速道路を走らせる助手席の窓から、私は田畑が広がる中にぽつぽつと佇む家々を眺めていた。
数年前まで暮らしていた地元の風景とよく似ていた。
いや、似てる風景など日本中にごまんとあるだろうが。

同郷の友人は偶に、長閑な風景を見ると「懐かしい風景だ…帰りたくなる」と言う。最近の私は特に、どうもそれに共感できずにいた。

何故だろう。嫌というほど思い出してしまうのだ、自転車を押して歩いた街灯の少ない田圃道を。学校を出た時にはあんなにいた同級生達も、私の家に近づく頃には、いつの間にかいなくなっている。昼と夜の境は一層私を独りにさせていた。しかし、その色がまた、憎いほど美しかったのだ。当時の私はまだ美しさしか見えていなかっただろう。

いつからか、こうした風景を車窓から眺めると、その畦道の中に自転車を押して歩く私が見えるようになった。
暫く耐えてみるものの次第に私を見ていられなくなる。泣きたくなる。苦しくなる。

あの頃の私はあの頃のまま、あの場所に留めておきたいのかもしれない。

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