映画とランチ。『魔女の香水』と『Diner』
仕事を辞めることにした。
ということで有給消化の貴重な平日昼間、水曜日は映画を観なくては。同じタイミングで辞めることにした(元)同僚で、いまは友人からのお誘いで
『魔女の香水』を観た。
黒木瞳さんの出演作を観るの久しぶりだなぁ〜と、のんびり構えながらも、なんとなく、いまの自分に刺さるかもしれないなと期待してワクワク。
高卒で派遣社員として働く恵麻は目撃したセクハラ行為への抗議によって解雇される。
自分の価値を見失いながら訪れた夜の街でスカウトマンにすらスルーされ、ヤケになって自ら声をかけると連れて行かれた先で「魔女さん」こと、弥生と出会い店を手伝うことに。
そこで香りの世界に魅せられ天職を求め働く恵麻は弥生のもとへ相談に通いながら、派遣の立場に甘えず営業や商品企画までがむしゃらに努力するが……
派遣社員の立場の弱さ、何よりも女性というだけで男性社員から「でしゃばるな」と言われる、不当な扱い。恵麻が受ける理不尽な仕打ちを観ていたら、つい最近の職場で受けたハラスメントが蘇って目頭が熱くなった。
オフィスで分かりやすい態度取る上司、いるよね。
平気で嘘をつかれてたことが分かると、人間不信になるよね。
ああ、恵麻の俯く顔に自己投影。
正社員だとしても、若いというだけで、女というだけで、頑張っても、頑張っても、何かと理由をつけられ出る杭は打たれるどころか踏み躙られる。
心の傷がジクジクしてきた瞬間、弥生の笑い声が耳に響いた。
「面白くなってきたわね」
ほえ……
弥生がつくる香水には売り物としていない9つの香りがある。フランス語で名づけられ、意味を持つその香りが登場人物のストーリーをオムニバスのように色取っていくのだ。
恵麻は絶望的な挫折から、夢を見つけ新しい人生へと転身してゆく。
境遇だけでなくちょうど恵麻の年齢も似たところがある友人と二人で少しすぎたランチを食べた。帆立のペペロンチーノがシラスに変更だって。さっぱりした味付けに期待して注文すると、しっかり硬めのパスタにオクラとオイルが絡んでとても美味しい。
ほんの先週まで苛まれていたストレスが軽くなって希望がもてるような、天のお告げだったとさえ思える映画との出会い。そして感動を共有する同僚との爽やかなランチタイム。美味しい。
幸せな時間には美味しいご飯がなくっちゃ。
もう劇場公開が終わってしまったのがとても残念だけれど、終わる前に観られて本当によかった。
「欲望を飼い慣らしなさい」と囁く弥生の言葉からもう一つ、心の底で支えとなっている映画を思い出していた。
ちょうど4年前にあたる、2019年7月5日公開
映画『Diner』だ。
「誰にも必要とされていない」と、モノクロの世界にいるカナコの独白から始まるこの映画。圧倒的な色彩感覚とキャラクターの強い魅せ方は、蜷川実花監督の成せる映像美だ。
特に印象的なのは言葉の使い方だと思う。
主役が、舞台に生まれ舞台に生きることを運命づけられた俳優 藤原竜也さんだからこそなのかも知れないが、劇的なセリフを作品の節々で響かせてくださっている。
「感覚を研ぎ澄ませろ。自分の内側に眠ってる欲望を呼び起こすんだ」
蜷川幸雄さんが舞台稽古の際に藤原さんにかけられた言葉がボンベロの言葉として彼から紡がれた。
ジャパンプレミアで初めてこの作品を観た時、予測をはるか飛び越えてくる蜷川さんの面影に胸が締め付けられたのを覚えている。藤原さんの細胞に溶ける彼の氏の言葉が、当時も仕事で悩んでいた自分に突き刺さった。
「誰にも必要とされていないなんてことはない。
お前が、お前を必要としている」
冒頭のカナコの独白同様、平山夢明先生の原作にはない描写だが、蜷川実花監督から若いファンへ向けた言葉だ。当時はまだ社会人になって悩みだらけのぺーぺーだったわたしには涙が出るほどだった。
4年たち、少し大人になって、仕事への考え方も柔軟になったいまでもあの時の感動は強く残っている。
本当に自分のしたいことは何か。そのためにどれだけのものをかけられるのか。いろいろあって傷ついたり、もがいたりするなかで仕事とは単純に生きるために必要なだけだと捉える反面、通り過ぎる時間のなかで自分にとって意味の生まれることをしたいという淡い欲望も生まれてきた。
もうすぐ30代も見えてきたこの頃、生き方についてうんうんと頭を捻らせているけれど。映画との時間や愛する人の言葉がわたしを支えている。
今日も、美味しいご飯を食べよう。