【短編小説】 眠れる森の元未通女(おぼこ)
丨未通女《おぼこ》(処女)とヤリチンのクズ男、結果オーライな話。(約1万字)
【……ここは?、、、、、ああ、病院か、、、、昨日の夜、潰されたんだった、、、】
木之内 碧(あお) 私は病室で目覚めた。
右側に窓がある。カーテンは開いている。外を見ようと頭を右手に傾ける、、、動かない。
【ああそうか、、、身体中ぶつけてるもんね。筋肉痛か、、、】
今度は上体ごと、右に寝返りの様に動かしてみる、、、動かない。
【そりゃそうか、、、首が動かないなら身体もか、、、誰かいるのかな。】
左側を見ようと動かない顔はそのままで、左側へ目を動かしてみた、、、ぼやけている。何もかも白く、ピントが合わない。
【ど、どうなってんだろ、、、、】
「あっ、碧っ! 目が覚めたのっ?、、、ちょっと待っててね、看護師呼んでくるから。」
懐かしい声がした。母の声だと分かった。
【母さんだ。何年ぶりかな、、、高校卒業以来かも、、、10年か。】
ほどなく看護師が来た。「木之内碧さぁ~ん、お加減いかがですかぁ~ ちょっとごめんなさいね~」動かない私の右手を取り、血圧を測り始める。
看護師が余所余所しい。目を向けても目が合わない、会わせようとしない、、、少し目線が交わると、口角を上げるだけ。
「先生、呼んできますね。」看護師が出ていく。
「母さん、、、私 どうなってんの?」と、母に言葉を掛けた。 つもりだった。
「えっ、何?、、、何て言ったの?」
「どうなってんの?今の私って、、、、動かないんだけど。」
「……碧、、、喋ることも出来なくなったの?、、、」足元に立つ母が、、、情けなさそうな顔に見えた。
【身体も動かない、、、何喋っているか、分からないって、、、、、、どうなっちゃったの、私、、、、】
白衣を着て眼鏡をかけた男性が目の前に現れた。主治医かな。
「木之内さん分かりますか?、分かったら瞬きしてください、、、、」瞬きをする。
「こちらの言葉は理解できてるようですね、、、木之内さん、ここが何処か分かりますか~?」、「病院。」と返す。
「口が動いていませんね、何かお話しされようとはされています。まあ、リハビリ次第でしょうか、、、」
【えっ、喋れなくなってる?、、、、ああ~、大変な目にあったんだね、私、、、」
昨夜私は、夜職のお客様相手に遅くまで美容室に居た。
専門学校を出て修行して店舗を2,3移り、先輩が独立すると言うので今、そこにいる。
まあまあのスキルで、お店のNO.2として働かせて貰っている。NO.1は先輩。追い抜きたいとは思っていない、出来るだけ追いつこうとは思う。
夜の11時ごろ、地下鉄から私鉄に乗り換える駅に居た私。エスカレーターに乗る時、酔っ払う大学生集団の後ろに着いた。
学生たちが大きな声で騒いでいる。小突き合ってる。漫才かよと思わせるボケとツッコミを繰り返している。その大学生集団と私の間には、数名のサラリーマンやOLがいた。
次々とエスカレーターに乗り込む大学生集団とサラリーマン達。私も乗ろうとして足元を見ていた私の頭に、前のサラリーマン達が、、、、、落ちてきた。
ふざけ合っていた大学生の内数名が後ろに倒れ、サラリーマンごと私はフロアーまで落ちた。
『グギっ』鈍い音がした。身体に激痛が走った時まで覚えているが、それからの記憶はない。
気が付いた時は、病室だった。
窓際に母が座って、話しかけてきた。
「碧、携帯にメールとかラインとか沢山着てるけど、、、読もうか?、、、、ハイなら瞬き一回、ダメなら二回してくれる?」私は瞬きを一回した。
母は一通り見た後、4,50通の中から主だった物を読んでくれた。
美容室の社長、同僚達、以前いたお店の友人、専門学校からの友人など、内容は大体同じだ。社長のみ、『休職扱いにする。但し1年間だけ。その後は退職となるからそれまでに復帰出来る様に頑張れ。』だった。
最後に「良く分からない内容だけど読むね。」と言ったのは、ラインで来ていた”ひつまぶし”さん。
”来週末、OK?”、”生きてる?”、”じゃあまた”、”なんかあった? 既読もなし?”、”ぶろっくしないの?”
私は顔が赤くなった。と思う。実際になったかどうか分からない。目は泳いでいたと思う。
「あんたも大人だから何も言わないけど、、、大丈夫な相手なの?」母の問いに、一回の瞬きを深く長く返した。
ひつまぶし さん。そう、お互いが都合の良い時だけ食事をしたり会うだけの人。一応、名前は知っている。坂本一誠(いっせい)さん、介護士だそうだ。15歳上の42。
「何か返しとく?、入院してる事、伝える?知らないみたいだけど、、、」その問いに暫く考える。そして、2回瞬きをした。
「そう、、、じゃあ置いとくね。あのね、私明日帰るから。後は看護師さんに任せなさいよね。仕事休んでるからさ。入院費とかは、大学生達の入ってる保険で出るそうよ。
賠償金もあるらしいし、申請とかすれば、障害者手帳貰えて、生活保護やら施設入所やらしてくれるらしいから、、、、あんた自分でしなさいね。」
【後は自分でしなさいよって、、、、それでもあんたは母親かよ~、そりゃぁまぁあ、実の子じゃないでしょうけどさ、、、、、どうしよう、、、、念力とか授からないかなぁ~、、、、ンなわけないか。】
翌日、親族でない限り入れないのに坂本さんが病室に来た。動けない身体と首のまま、大きく目を開いて驚いた雰囲気を出してみた。
「木之内さん、、、生きてますか? お母さんにうかがいました。大変だったようですね。あっ、聞こえてます?」
私は、大きく瞬きを一回して、坂本さんの顔をじっと見つめた。そうしたら、、、、涙が出てきた。なぜ泣いたのか分からない。拭えない、両耳に涙が入る。耳がこそばゆい。
「泣いてます?、耳に入ってるわ。ちょっと待っててくださいね。」坂本さんはそう言い残し、部屋を出て行った。
暫くして帰ってくると、綿棒とガーゼを持ってきていた。それで私の両耳の涙を拭ってくれ、目の方はガーゼを押し当ててくれた。また、涙があふれた。坂本さんは表情一つ変えずにガーゼをまた、当ててくれた。
「喋れないのですか? 聞こえて理解できてたら瞬きしてください。」私は一回瞬いた。瞬きって、喋れない人とか寝たきりの人に対して、そんなルールでもあるのだろうか?と思った。
「イエスが一回、ノーが二回って事で良いすか?」坂本の問いに、瞬き一回で返す。
「ちょっと主治医の先生のところへ行ってきます、今後のことについて、、、、そうそう、私は貴方の婚約者という事になってますから、よろしく。」私は、今までで一番大きく目を開いた。
「碧さん、明日手術です。背骨と頭蓋骨内の血液を抜くそうです。同意書は今書いてきました。今動けないのは背骨が何か所か骨折していて脊髄を圧迫してるのと頭の内出血が脳を圧迫しているからだそうです。それと動くと危ないので、拘束着つけてますから。」
坂本さんの顔をじっと見つめていた。同意書って母さんはなんで書いてくれなかったんだろうかと考えていた。
「そういえば先生、婚約者って言ったら普通親族の方に同意書を書いてもらうんですが、、、って言うから、婚姻届け提出して証明書発行して貰いましょうか?、その後戸籍謄本も持ってきましょうかって言ったら、良いです良いですってさ、ハハ。」
「手術が無事に済んだら数日後に拘束着を外すそうです。そうしたら少しは動けるようにはなると思いますが、起き上がるとか歩けるようになるとかは分からないそうです。」
瞬きを一回した。と同時に、、、、
【一生寝たきりになっちゃうかもか、、、頑張ってきたのにな、、、、ついてないなぁ~。仕事もさ、恋愛もさ、、、結婚だってさ、これからだったのに、、、、】
そう考えたら、また涙があふれてきた。
「碧さん、俺ついてますから。これからず~っと。だから心配しないでください。」坂本はそう言いながら涙を拭ってくれた。
【……ん?、、、これからず~っとって言った? どゆこと?】瞼をしばたたかせながら坂本の顔を見つめた。
「俺、施設辞めてきました。前々から理学療法士とか作業療法士になりたいなって思ってて、専門学校へ通おうと思ってたんです。貯金も20数年仕事していたら結構貯まってて、退職金も割とあるそうです。後はアルバイトしながらって考えていましたけど、、、碧さんがこんな状態なら昼間は碧さんのサポートをして、夜学校へ行こうと思います。」
【私のサポート?……えっ、何で?、、、、、単なるセフレでしょ?、、、、、そりゃ私の初めての男だけどさ、、、暫く続けばいいなとは思ってたけどさ、、、、いや、ダメでしょ。坂本さんは坂本さんで、自分の生き方しなくっちゃ。私の傍なんて、、、、】
「そういやぁ~碧さんのアパートって3階でしたよね、長~い階段を上る。俺、最近引っ越したんで碧さん、俺のところへ引っ越してください。部屋はありますから。引っ越しは俺、しますから。」
私は瞼をしばたたかせた後、大きく2回瞬きをした。
「大丈夫です。碧さんのリハビリが上手く行って社会復帰出来る時になったら、、、、碧さんの思うようにしてください。婚約者ってのはこの病院にいる間だけですから。
それに、療法士の勉強と同時進行で実践できるなんて、こんな幸運ないですよ。お願いです、俺の練習台になってください。無茶はしませんし、介護士でもありますから俺に預けてください。」
坂本が照れくさそうにしている。自分の都合に今の私の境遇が嵌ったからって言ってるからだろうか、、、それにしても急展開過ぎる。私の意見も聞いてよとも思うが言葉にならないし、何をどうしてほしいのかも分からない。ただ、、、何か違和感を感じる碧。
その違和感と同時に、、、【助けてもらえる、動けるようにならないかもしれないが、それをサポートしてくれる、、、、】希望の光が見え始めていた碧。
坂本一誠さんとの出会いは、一年半前のマッチングアプリ。
25歳になり、お店でも社長に次ぐ美容師として順調な日々を過ごしていた時、ふとある思いが過った。
【私、25歳になったけどさ、、、恋愛もお付き合いもSEXも未経験だよね、、、この先、運命の人が現れればそれでも良いけどさ
必ず現れるって保障、無いよね、、、、なんだかなぁ~、、、、やり残した感、満載じゃん。どうしようかな、、、、、、】
一人の深夜、酔いに任せて登録したマッチングサイト。そこで坂本と繋がった。
食事の後にバー。それからホテルへと入る。イザと言う時に、、、
「……私、、、経験ありません。」と、俯き動けないでいると坂本は、
「そう、、、任せてください。俺は経験豊富です、優しくします。」と、大きな胸の中に包まれた。病院の様な匂いがした。
実際に坂本は優しかった。柔らかい手で全身を撫でてくれ、初めての場所へは指一本のみ。緊張と期待で硬くなった心と身体は、次第に柔らかくなっていく。
それから都合が付けば会う。会えない時、碧はスマホで動画を見ては【こんなことまで、、、、してあげようかな、、、】と、想像するようになっていった。
2,3ヶ月もすればしてみたいと思った事を実践するようになっていく。坂本も「上になって、、、」「仰け反って、、、」「ここに来て、、、」と、要望するようになった。
ある日など、「私の部屋に来て。」と誘い、一晩中、1日中愛し合う。
それぞれの名前や職業は聞いてはいる。将来の希望などは聞かない。過去の事も聞いた事が無い。約束するのは次に会う日取りくらい。
そんな関係を続けていた坂本が私の傍に居ると言う。私の為に動き回っている。
【そこまでして欲しいなんて思ってないよ。私がこうなっちゃったんだから、関係解消になっても仕方ないしね、、、
でも、、、嬉しい。このまま動けない体になると思うと、悲しさで潰されそうになるけど、心強いのは確か。
本当に、、、本当に一緒に居てくれるの?、、、坂本さん。】
手術は無事に終わった。「10日もすれば起き上がれると思う。その後、立ち上がりや歩行訓練を少しづつしてください。」と主治医から伝えられた。
隣で聞いていた坂本が、、、泣いている。泣きながら、ガッツポーズを繰り返している。
「碧さん、良かったです。これから付き合いますよ、とことんね。」と、涙で濡れた顔が笑っていた。
寝ている碧は、大きく一回瞬きをするのが精一杯だった。しかも涙がまた耳に入ってしまった。坂本が綿棒で拭い、ガーゼで目を優しく抑えてくれた。
ある朝、目覚めると首が多少動かせた。状態を左右に動かしてみた。肩が浮くのが分かった。でも、痛みが背中に走る。無理しないでおこうと思う碧。
体温や血圧を計測しに来た看護師に、「いつも済みません。」と話しかけた。
すると看護士が碧の顔を見て、パァ~っと明るい顔になり「話が出来るようになりましたね、良かった。報告しておきます」と言った。
坂本さんも喜んでくれた。そこで、気になっていた事を聞いた。
「坂、、本さん、、、どう、して、、、ここま、、で、、、」
「碧さん、、、明日が誕生日ですよね。実は、、、大事な話があったんです。で、食事に誘おうと計画してました。
碧さん、、、俺と一緒になってください。結婚してください。」
「……グェッ、、、、」
「返事は待ちます。碧さんが落ち着いてからでいいです。先ずは退院できるところまで頑張りましょう。」
その時私は、、、、大きく一回、瞬きをした。……らしい。
暫くすると起き上がれるようになり、車椅子にも乗れるようになった。
同じ病院内にあるリハビリステーションへと毎日通う。
立ち上がる事から歩行器を使っての歩行。坂本さんがいつも隣にいる。申し訳ない気持ちが募る。
「そうそう、お母さんから預かってるものがあります。傷害保険と生命保険の証書が来てます。申請すればお金、下りるそうです。それと障碍者手帳の申請、進めてますから。」
「母さん、、、そうですか、、、、ちょっと話していいですか?」
「どうぞ、お母さんの事?」
「そうです。」
私は母さんの実の子ではない事、父親の妹に当たり、叔母である事を話した。
私の母は私を妊娠した事で父と入籍し、一歳の時に母国へと帰った事。
困った父親が、家族内で唯一の女性である妹へ私の養育を押し付けた事。
その父親も2歳の時に失踪し、今も行方知れずであり宣告を受け、死亡した事になっている事。
母さんは私を育てる為に、自分に蓋をして生きてきた事。
私が高校を卒業する時には積み立ててあった貯金通帳を渡しながら、、、
『貴方はこれから一人で生きていきなさい。私は自分の人生を取り戻すから。じゃあ。』と告げられた事。
美容師専門学校へ2年通う日々も、アルバイトに忙殺され恋愛も遊びもしなかった事。
就職後も早く一人前になる為に恋愛はおろか、会食や合コンの誘いも悉く断っていた事。
25歳になって、坂本さんに出会った事。
まだまだはっきり喋れないが、それを話した。
坂本さんと結婚するかどうかはまだ決められない。って言うか、私と一緒になれば足手まといになると思うと、はいと言う返事は出来そうにない。
でも、今は甘えておかないと自分で歩く事さえできない。
歩けるようになったら、、、一人で生活できるようになったら、、、、、坂本さんの元からいなくなる方が良いんじゃないかと思う。
でも、坂本さんには今は話せない。いつか話さないといけない、、、、別れる時には必ず、、、、、
退院が決まった。
引っ越しは終わっていた。一誠さんの新しい部屋へと帰る。2LDKのマンション。部屋中に手すりが取り付けてあった。もちろんトイレにも、バスルームにも。
当分は車椅子生活だけど、多分歩けるようになる。毎日一誠さんがリハビリステーションへ送り迎えをしてくれている。
夕方になると一誠さんは、夜間の専門学校へと通う。帰宅は11時過ぎ。
私には左側に麻痺がまだ残っている。一誠さんの相手はまだ、、、無理っぽい。
歩けるようになった。とは言っても右手で松葉杖を持ち、麻痺の残る左手を一誠さんと繋ぐ。
一誠さんの手の温もりが伝わり、心まで和む。
このまま続けば良いな、、、と思う反面、一人で暮せるようになったら私は去った方が良い、、、、と思う自分が居る。
婚姻届けはまだ出していないはずだから。
「一誠さん、、、何とか歩けるようになったのも一誠さんのおかげ。本当にありがとう。」
夜間学校の無い夜、夕食の後に私は感謝を告げた。別れ話のプロローグとして、、、
「違うよ。碧ちゃんの頑張りだよ、間違いなくね。」
「…ありがと、、、でもね、、、、もう一誠さんにこれ以上迷惑かけられなくて、自分で何とかしなくちゃって、、、結婚とか一誠さんを縛り付けるの良くない事だって、、、私一人なら、出来ない事はしないって出来るから、、、だから、だから、、、」
「う~ん、、、、、やっぱりそう言うと思った。碧ちゃんは頑張り屋さんだからね。でもね、俺、碧ちゃん捨てる気無いから。そりゃあ碧ちゃんに良い男が出来たら考えるけど、、、男、出来たの?、その男と俺、話し合って良い?」
「出来る訳ないじゃんか、、、恋愛もしてなかったんだし、一誠さんが初めてだったし、それからも他の人とは無いし、、、、」
「あ、そ~なの、、、なんか嬉しいな。最初で最後の男ってか、俺。」
「あのね、、、こんな世話の焼ける相手より、もっとちゃんとした人と一緒になってほしいのよ。私は一人でどうにかしていくから。」
「ちゃんとした人ねえ、、、、どんな人なんだろね、ちゃんとした人ってさ、、、」
「はぐらかさないでよ、私のお願い聞いてよ。」
「はぐらかしていないし、ちゃんと聞いてるし、、、でもその願いは聞けない。それだけ。」
「もぉ~、、、、どうしたら良いの?、、、私。」
私の気持ちの中では、松葉杖を使って歩けるようになったら部屋探しをしようと思っていた。携帯のサイトでいくつか見てはいるが、実際に物件を見てみないと分からない事がある。
日中は一誠さんがいつも傍に居て、私ひとりにはなれない。分かれる話をしておいて、一誠さんもその気になってくれたなら私ひとりの外出も出来ると思った。
「碧ちゃん、、、俺が碧ちゃんと一生添い遂げると決めた理由、聞いてくれる?」
「……イヤッ、聞いたらこの話続け辛くなるから、、、きっと。」
「じゃあ、独り言ね。聞かなくても良いし、忘れても良いし、、、、
あのね、初めて会ってホテル行ったとき、碧ちゃん、、、プルプル震えていたでしょ、雨の中の子犬みたいに。」
「…震えてたの?私、、、、覚えてない。」
「俺ね、27の時に振られたのね、、、6年も付き合ってた娘に。その娘が高校生でさ、職場実習に来てた時に仲良くなったんだわ。
その娘、大学行って社会人になるまで付き合ってて、そろそろ将来の事、話そうよって切り出したんだ。そしたらさ、、、
『アンタと結婚する気は無いよ。だってアンタ給料安いし、話も面白くないし、エッチもへたくそじゃん、上手な男性沢山いるし、って言うかみんなそうだよ。ムリムリ。』って、言われたのよ。
じゃあなんで付き合ってたんだって聞いたら、、、、『だってお小遣いくれるし、、、毎回一万でも助かるし、、、、でもさ、私も働き始めて使えるお金増えたし、他の男性もお金くれたりするし、もうこの辺でちょうどいいんじゃない?』、、、、、ってさ。
落ち込んじゃってさ、悔しくってさ、っで一念勃起して、いや、一念発起して女修行の荒行に挑戦したの。」
「女修行の荒行?、、、」
「手始めは風俗と出会い系サイト。ピンサロ行きながらサイトに電話して待ち合わせして、ホテルへ行ってたのよ。出会い系って殆どが業者なんだよね、デリヘルの女の子をあてがってさ。
でも、たま~に素人の高校生なんかもいたけど、例外なくヤリマンだったわ。
で、風俗もピンサロからデリヘル、エステやマッサージ、ソープとローテーションしながら、今度はマッチング、、、ヤリモクサイトでね。
そういう事を10年以上、してたんだ。碧ちゃんとめぐり合うまでは、、、」
「う、うわ~、、、そういう人だったんですか、、、、分かんなかった。真面目な人だと思ってた。」
「真面目だよ、仕事も生活も。趣味は無いし、飯も施設で食えるし、部屋も施設の寮だし、、、貯金も多少はしながら、そうい事もしてたって事。」
「……経験って何人くらい?…あっ、変な事聞いちゃった。ゴメン、忘れて。」
「風俗入れないと、、、200人超えるかな、、、風俗入れると500以上かな、、、、多分。」
「そ、そこまでして、、、どうしたかったんですか?」
「エッチ、上手になりたかったんだな、へたくそって言われたから、、、その反動かな。でもそれはきっかけだけで、あとは男の本能だったかも。」
「碧ちゃんと初めての時、プルプル震えてる女って、初めてだったんだ。それまでの女の人はすべて、、、アレだったし。」
「うん、、、、初めてだって言ったら、一誠さん優しかった。優しく撫でてくれて痛くなる事も無かったし、、、、でも最後はやっぱり痛かった。でも、全然怖くなくなって来てたし、、、」
「今までの経験をすべて総動員して、対応させて頂きましたよ。すっごい新鮮な気がしたし。そうしたら碧ちゃん、また会ってほしいって言ってくれたでしょ。それがまた嬉しくてね。
2、3か月したら碧ちゃん、色々してくれるようになったし、段々と上手になってきたし、、、それが嬉しくってさ。半年経った位から、風俗にも行かなくなって、ヤリモクサイトも抜けたし。碧ちゃんとライン交換して貰えたし、、、
ああ、この人は頑張り屋さんなんだ。上手く行かない事をコツコツ努力して自分のものにする人だって感じたんだ。
要は、、、、惚れちゃったんだ、俺が碧ちゃんに。
だから、、、、俺は、、、、碧ちゃんを失いたくない。今も、これからもず~っとね。」
その言葉を聞いて、私は涙が出た。それでも確かめておきたいと思い、尋ねた。
「頑張り屋さんって思ってくれたのは、、、エッチの事だけ?」
「そうね、、、フェラは毎回上手くなっていくし、色んな仕方してくれるようになったし、仰け反り騎乗位や顔面騎乗もしてくれるようになって、感激だったよ。」
「そうなんだ、、、エッチの事だけなんだ、、、でも私、もう上手く出来ないよ。してあげられない事、一杯あるよ。」
「ゴメン、嘘だよ。エッチの事はどうでも良いんだ。仕事も美容師で一人前になりたいって言ってたし、仕事の話をする碧ちゃんはキラキラしてたし、俺も頑張んなくっちゃって思えたし、、、、それが理学療法士に繋がったんだよ。
だから本当の事言うと、、、俺が碧ちゃんについて行きたいんだ。」
「……ヤダ、、、、」私は涙であふれている目を、強く2回瞬きをした。頬を涙が伝う。
「一誠さんが私に連いてくるんじゃなく、、、私が連いて行きます。」
「碧ちゃん、、、それが返事だと受け取るよ、良いね。」
その言葉に私は瞬きを一回、強張った左頬と少しはましになった右頬の微笑を添えて、返した。
「碧ちゃん、、、今夜から夜のリハビリ、始めようか。」
その後、私のリハビリはすこぶる順調で進み、松葉杖は使うものの一人でも安定して歩けるようになりました。
またある日、一誠さんが髪が伸びたと言って私にカットを頼んできました。
右手側の麻痺は大した事はなさそうで、思い通りの髪型にカットできたのが自信になり、一誠さんが以前勤めていた施設で、入所者の髪を切らして貰う事になりました。
もちろんボランティアとして、無料です。社会復帰のリハビリとしてこちらから払いたいくらいです。
これは、恋愛もせず必死に駆けていた未通女(処女)と、女に振られた事を口実に世の中の全男性の理想を実践した、ヤリチンのクズ男の物語でした。
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