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広島協奏曲 VOL.2 尾道・流れ星 (16)

  決意

12月24日、クリスマスイブ。雅恵の誕生日。30歳になった。
今年も村上と一緒に過ごす。時計のプレゼントを渡す。
「マーちゃん。わしからのプレゼントは、、、、、わしじゃイケんか?」
「はっ?、、、ちょ、ちょっと、何言いたいか分からん、、、どう言う事?」雅恵、言われた事が自分の気持ちと違った為か、追い付いていない。
「マーちゃんは婿取りさんじゃろ。じゃけぇ、、、わし、、、婿にどうじゃろか、、、イケんか、ダメか、」村上、かなり恥ずかしそうな顔。顔をあげたり、下げたりとせわしない。
「えっ、、、婿っ?、、、いや、ちょっと待って、、、待ってえや、、、うち、混乱しょうる、、、」
「ええ言うてくれたら、指輪買いに行こう。神戸へ、、、わしと一緒に行こう。」   
 

「…………イケん。……イケん。…イケん、イケん、イケん。」雅恵、首を忙しなく横に降りながら言う。
「なんで?、、、わしじゃ、、、ダメか?」良い返事を貰えると思ってた村上、不安になり始める。
「ううん、違うんよぉ、、、うちね、、うちね、、ゴンちゃんのね、、、お嫁さんになりたいいんよっ。嫁に貰おて欲しいんよっ。じゃけぇ、、、婿には来て欲しゅう無いんよっ。」雅恵の目に涙が浮かび始めた。
「あ、嫁に?、、、わしの嫁に?、、、婿養子じゃのおて?、、、」
「うん。村上雅恵になりたいんよ、うち。……じゃけぇ、じゃけぇ、、、うちを貰おて下さい。」涙が伝い始める。
「わ、わ、分かった。あ、そうかぁ、、、そうなんか、嫁に、、、、うん。わしの、わしの嫁に来て下さいっ!雅恵さんっ!」どうなろうとも雅恵の思う方向で、腹を括るつもりでいた武彦。
「グスっ、、、はい。よろしゅう、、ウっ、、お願いします。武彦さん。」泣き顔の雅恵。村上の胸に飛び込む。

「なんで、婿さんって思うたん?誰かに聞いたん?、、、明子じゃろ、、、いつ会うたん?」
「うん、明子さんから聞いた。5月ごろじゃったかの、、、フジグランへパンツ買いに行ったら、会うたんじゃ、ホンマ偶然に。」
ベッドの中、村上の大きな胸板の上に雅恵の頭が乗っている。その頭へ村上のゴツイ手が優しく撫でている。
「ふ~ん、、、考えてくりょっちゃんたんじゃねっ。、、フフ、嬉しい、、、あ、お父さんとかお母さんへは聞いてみたん?婿養子の事。」
「うん、聞いた。11月に帰って、ちょっと相談ちゅうて、酒飲みながら、聞いた。」
「ほしたら、ダメじゃとか?」
「いや、、、、ええよ。好きにせえ、言うてくれたった。お前が決めたんなら、それでええ、ゆうて。」
「そうなん、、、ありがとね。……今度、ご挨拶に行かにゃいけんねぇ、、、気にって貰えるかねぇ?うちの事。、、、嫁に来ます。ってゆうたら驚いてかねぇ?、、婿の話のあとで、、、」
「どっちでも喜んでくれる思うよ、、、気にって貰える思うわ、マーちゃんなら、、、美人じゃし、わしにゃ勿体無いゆうわ。きっと、、、ガハハハ。」

新年を迎え、神戸へと向かう村上と雅恵。車は行きが雅恵、帰りを村上が運転するとした。
「今、世間じゃ夫婦別姓とか、パートナー制度とか言いよるじゃろ。どう思う?」雅恵が村上に聞く。
「よう分からん、、、別々なら、結婚せんでも一緒に暮らしゃえかろう思うがのぉ~、、、何がしたいんかよう分からん。」
「ここだけの話じゃけどね、うち、あれは離婚するのを前提に話をしょうる様な気がするんよ。」
「別れる時に、都合がええようにしょう思うとるん?」
「うん、相手に財産があったら、分割出来るでしょう、、、結婚したゆうんがあったら、、、それかねぇ、って思うんよ。、、、でも、言うたら怒られるよね。これ。」
「うん、そんなつもりじゃなあ!ゆうて酷う怒られる様な気がするのぉ~、、、ここだけの話にしょうでぇ、、グハ、ハハ、ハハハ。」
「そうしょう、そうしょう、、、誰にもゆうたらイケんよ。」
「言わん、言わん。わしらも怒られそうなけぇ、、、」
「ハハ、ハハハハハ。」「ガハハハっ」
「……嫁に行くとか、、、婿に行くとか、、、覚悟ゆうか、生きる事じゃけぇねえ、、、笑おたり、怒ったり、楽しんだり、苦しんだり、全部、ひっくるめての覚悟じゃ思うんよ。うち。」
「うん、わしもじゃ、、、我慢やら、泣くことやら全部、一緒に生きる事じゃろうのぉ~、、、ええ事言うのぉ、マーちゃんは。ホンマ、賢いのぉ。」
「キャハっ。褒めて貰おたぁ、、、やった。」
「うん、バカなワシでもよろしゅう頼んますよ。」
「ううん、うちこそアホな嫁じゃけど、宜しゅうにね。旦那さん。」

生きる事と暮らす事は、重い荷物を積んだ荷車の両輪の如く、2つの輪が回らなければ上手く進めない。
力強く引く人。方向や行く先を見ながら後ろから押す人、それが夫婦と言う物ではではないだろうか。

神戸、三宮。神戸ポートライナー高架橋の下にあるビルの一階、『blackthunder volt』という、靴、雑貨、小物のお店。
「お~!、ゴンちゃんっ!いらっしゃいっ!、、、お~!、その子?、、うん、うん、別嬪さんだわっ!」
店主の「ブラックサンダー・香奈枝」が二人を出迎えてくれた。身長は雅恵と同じくらいだが、巨乳、くびれ、引きしまったお尻、長い脚。ダイナマイトボディその物である。
「姉さん。ご無沙汰しとります。すんませんのぉ~、こん たびは骨折って貰おてぇ~」
「かまへん、かまへん。ゴンちゃんの頼みなら、聞かせて貰いまんがな。」
3人でお店を出て、歩いて3分ほどの宝飾店へ向かう。予め、香奈枝さんへ予算を伝えていたので、3種類の指輪を見せてくれた。
「え~、、、どうしょう、、、どれもええし、、、どれがええ思う?ゴンちゃん、、香奈枝さん、、、あ~ん、決められん。」
「マーちゃんは美人なけぇ~、大人しい感じより綺麗目な方かのぉ~」と村上。
「うん、そのべゼルの凝ったデザインの。ええなぁ~」と香奈枝。
「そうじゃねぇ、、、うん、それにするっ!。ゴンちゃん、これにしてくださいっ!」
「よっしゃっ!、、あんちゃんっ!これにしてっ!」
「畏まりました。ありがとうございます。では、指のサイズを確認させて頂きますので、どうぞ、こちらへ。」

「ゴンちゃん、良え子捕まえたのねぇ~。美人やし、アケ抜けはっとるし、今、神戸に居んはってもおかしないで。」香奈枝、おべんちゃら。
「ほじゃろぉ~。ええ縁があった思うとるんよぉ~」村上、真に受ける。
「いや~、、、、なんか、恥ずかしいわ~、、」雅恵も真に受ける。
「自分ら、関西におったらまんま、美女と野獣やなぁ~。目だたへんな。そないなカップル、ごまんとおってんさかい。」
「尾道じゃったら、マーちゃんはそのまんま美人じゃけど、わしは珍獣扱いじゃな。美女と珍獣。ガハハハハハ。」
「うん、割とひょろっとした男の人、多いかもねぇ、、、尾道は。アハハハ。」
神戸牛のステーキハウスで会食。その後は香奈枝さんの武勇伝で盛りあがる。


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