酒と世界

※この文章は自死についての内容を含みます

 『アナザーラウンド』を見た。マッツ・ミケルセン演じるデンマークの冴えない教師とその友人の教師たちが「血中アルコール濃度が0.05%だと調子がいいかもっていう仮説を試そうぜ」と言って酒を飲みまくる映画だ。

 観て色々思い出したので文を書こうと思う。順番はぐちゃぐちゃだけど許して欲しい。

 ここから先はネタバレを含むので何も知らずに見たい人は観てから読んでほしい。(ただ、観る前に原題の『DRUG』のポスターを見てから鑑賞することをおすすめする。日本のポスターって内容を歪めていることが多いが今回もそれなので。あのポスターを見て『アナザーラウンド』を観た人は死んだんじゃないかなって思う。)

 ざっくりとあらすじを話すと、少し酒を飲んでたうちは良かったけど泥酔するようになってからは周りの人との関係が悪化。「さすがに良くないね」って言って主人公たちは少しは生活を取り戻したかに思えたが一緒に実験をしていた友人の一人、トミーが自殺する。最後はトミーの葬式後に卒業を祝う生徒たちに混ざって酒を飲み、抱き合い、踊る。


 テーマについて。
 この映画のテーマは人生は不安だし嫌なこともあるけど素晴らしいものだよね、というものなんだと思う。
 私は作品を作る人間なので作者としてテーマを決めて言葉にすることの意味はわかる。テーマは指針となる。
 でもなんか作品を見た側が逆算でテーマってこれかなって考えることって無意味な気がするんだよな。テーマは作品の骨組みとか骨組みを建てるための設計図なので、せっかく監督や美術や役者やカメラマンが付けた壁や窓や美しい装飾を壊してどこに鉄筋が入ってるか調べるみたいなのはあまり美しくない行いに感じられる。映画を作る気がない私にとっては必要のない行いでもある。

 トミーの死について。
 トミーの死はひどい虚脱感を生む。大丈夫だろうか、彼らは職を失ったりしないだろうかと思いながら見ていたところに予告なく死ぬ。
 トミーは死ぬ時に飼い犬を船に乗せていた。自分と共に犬も殺すつもりだったのかもしれない。殺すつもりじゃなかったとしても、最期に共にいたいと思ったのかもしれない。どちらにせよトミーには愛があった。生きる意味もあった。犬のために生きられればよかった。しかしそうはならなかった。

 登場人物たちに共通するのは自分の事情を話さないというところだ。最初の誕生日会のシーンでも現れている。マーティンは酒を飲み始めるまで「妻とあまり上手くいっていない」という家庭の事情を打ち明けることができない。大人だからなのだろうか。マーティンは酒を飲めば打ち明けることができた。トミーは多分何も言っていない。なので、トミーが死んだ時私は「どうして」と思ったし、マーティンもそうなのだと思う。

 アルコールは現実世界と思考の距離を遠ざけるという。
 現実逃避にはつらい現実を快楽で打ち消す覚せい剤のようなタイプとつらい現実を見つめさせないアルコールのようなタイプがあるらしい。
 マーティンたちはデンマーク人らしく酒を飲むのがとにかく好きで、酒の味も好きで、友達と飲むことも好きだった。ジュースか何かのように酒を飲んでいた。だけどアルコールの作用は存在するということなんじゃないだろうか。
 アルコールは一定値までは気を大きくし気分を良くする。それを超えると呂律が回らなくなったり、体を上手く動かせなくなったり、感情が制御できなくなる。
 トミーが死んだ時、トミーは恐らく酔っていたんだと思う。そういう演技に見える。でも彼が最後に選んだのは酒を飲むことではなく煙草を吸うことだった。
 なにを意図しているのか何もわからないけど、あそこで酒を飲むんだったら「ああ、お酒のせいで死んだんだな」と思った気がする。煙草を吸うから「ああ、人生が辛かったんだな」と感じたんだろう。

 高校時代クラスメイトが死んだことがある。私たちは死因は聞かされなかったけど自殺なんじゃないかと思っていた。なんで、と。仲良くはないけど、だからこそ相談してくれたら良かったのに、と思った。
 彼女が死んだのは高3の夏休み明けの月曜日だった。学校が嫌でふらりと死んでしまう学生が多い日だと聞いた。それもあって私は彼女が自殺したのではないかと予想を立てた。
 その日学校を休めたら彼女は死ななかったのかもしれない。「今日始業式だけだし、サボって遊びに行こうよ」と通学途中で彼女に誰かが言えたなら何かが変わっていたかも知れない。私にできた役割かもしれない。死ぬのは私だったかもしれない。そういうことが酷く辛かったのを覚えている。

 前にも書いたと思うけど私は中学から大学1年にかけて酷い抑うつ感に苛まれていて、それを乗り越えて私が生きているのは運が良かったからだ。たまたま電車通学じゃなくて、痛いのが嫌いで、理性が強いタイプだったからだ。理性が強いせいで「〜すべき」という考えから逃れられず追い詰められてたけど、そのおかげで生きている。

 トミーも多分船に行くまでの間に誰かと会ってたら死ななかったんだろうなと思う。それが酷くやるせない。

 まだ22だけど早くも同級生が2人死んでいる。今後増えるだろう。マーティンみたいに酒を飲んで踊るしかない日があるかもしれないが、私は酒を幸いにもほとんど飲めないから現実世界を見つめるしかないのだと思う。その分みんなより一足先に乗り越えられるのかもね。踊れたら踊ったほうがいいだろうな。踊りと歌は救いだから。

 あまりにまとまりがないから推敲しようと思ったけど眠いし疲れたから寝ます。おやすみなさい。

この記事が参加している募集

映画感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?