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『屋根屋』村田 喜代子/読書感想文

わが家のリビングの壁には、
日本や世界の山を描いたカレンダーを飾っている。
5月の山はタンザニアのキリマンジェロなのだけれど、
日本の寺の屋根に実によく似た形だと思う。

京都で学生時代を過ごしたため、
寺は身近なものだった。
いつも学校に通うために、寺の中を通って近道をしたし、
失恋した時は南禅寺の三門の上で泣いた。

海外の建物や、日本でも神社と比べると、
地味な色合いの日本の寺において、
大きな存在感を示すのが、屋根ではないかと思う。

五重塔も屋根が5つ存在するから、
その荘厳さ、美しさが際立っているのだと思う。


けれど、自分の家の屋根となるとどうだろう。
そこにあるのが当たり前すぎて、
無頓着だった。
下に立つと見上げても見えない。
自分の家の屋根は何色かと、とっさに問われると答えることもできない。

今月のcafe de 読書の課題図書は、
そんな屋根をめぐる男女の幻想的な恋物語だ。

男は屋根屋で、
女は、雨漏りを修理に来た先の家の主婦である。

と書くと、ドロドロした不倫もの?不倫ものはちょっと…と敬遠される方もいらっしゃるかもしれない。
たしかに、それも一側面ではあるのだけれど、
そこだけをとって読まないでいるには、
実に惜しい作品だと思う。

修理に来た屋根屋は、
妻を亡くしており、そこからくる精神的な病気の治療として、夢日記をつけることを医師に勧められる。
夢日記をつけ始めたことで、夢の中で自由に行きたい場所に行けるようになったという。
「屋根の夢が見たい」という女と屋根屋は、
夢の中で、屋根屋の語る魅力的な屋根のある建物で逢瀬を重ねる。

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