パン屋さんの嫁になりたい
昔、私が語っていた青い夢の一つです。
「だって、焼きたてのパンが毎朝食べられるから」
半分冗談で、半分本当。
パン屋の人が聞いたら、呆れ返るかもしれません。
今なら、
別に結婚するんじゃなくて、自分がパン屋になればよかったんじゃない?
と思うのですが、
大好きな人が作ってくれた
大好きなものを、
朝食に食べられたら最高、
と単純に思っていたのだと思います。
実家は米を作っている農家だったので、
朝も昼も晩も、
白米が食卓に並びました。
「お米は、栄養はあるし腹持ちもいい。健康にもダイエットにもいいぞ」
が、父の持論でした。
封じられると、憧れが募ります。
3割増で素敵に見えます。
たまに、父の目を盗んで、
母がパン屋で買ってきてくれる食パン1斤を、パン切り包丁で切って、少しずつ食べるのが楽しみでした。
まだ温かい、焼きたての食パンに刃を入れた瞬間、ふんわりと漂う甘い香りが続くうちは、この世の悪夢全てを忘れるくらいでした。
夫に出会い、まだいち友人の頃、
私はやはり、
「パン屋さんと結婚したい」
と言っていたようです。
今も、折を見て、夫はその話をします。
実家を出たばかりでほとんど料理をしなかった、会社員の夫は、苦笑いするしかなかったようです。
その頃には、私は一人暮らしを始めて、
スーパーで袋に入ったパンを買い、食べるようになりましたが、パン屋さんの焼きたてのパンには遠く及びませんでした。
ところで、私と会社員の夫との間に生まれた息子は、なんと小麦アレルギーなのです。
卵でアレルギーが出て、調べたら小麦も、
と分かりました。
食べられるけれど、たくさんはよくない。
小麦アレルギーの息子の隣で、
むしゃむしゃ、パンは食べられません。
けれど、食べたい。
なんてったって、大好物です。
また我慢の日々に戻るなんて!
そんな様子を見て、
夫はホームベーカリーを買ってきました。
そして、米粉パンを毎週日曜日の朝食に焼く様になりました。
小麦粉を入れない、米粉100%のパンは、
文明の利器、ホームベーカリーを使っても焼くのがとても難しいのです。
イースト菌の量や、
使用する水の温度を、
季節によって調整しないとうまく膨らみません。
穴だらけのパン。
ぺしゃんこのパン。
ガチガチのパン。
私なら途中で諦めそうです。
試行錯誤をして、
ふんわりもっちりのパン。
を作ってくれるようになりました。
焼き上がる時の香りは、
パン屋さんのそれ、そのもの。
味は、小麦とは少し違いますが、
米粉特有の甘さがまた美味しいのです。
そのまま食べるもよし。
薄くバターを塗るもよし。
たくさんジャムを並べて、その中から選ぶもよし。
子供たちはパンを自分で小さーく分けて、
全てに違う味をつけて楽しんでいます。
大好きな人が作ってくれた
大好きなものを、
「大好きな人と」
朝食に食べている。
こうして、私はパン屋さんの嫁にはなれませんでしたが、思い描いていた未来を少し違った形で、手に入れることができたようです。
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