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0学校教員から大学教員になった私の方法「はじめに」と「目次」

はじめに

 本書は、私の経験と、その経験を通して考えた、学校教員が教員養成課程の大学教員になる方法をまとめたものです。同じようなキャリアを目指す方の参考になるように執筆しました。隣接分野として、保育者養成課程の大学教員を目指す保育所保育士の方にも参考になるのではなると思います。もちろん、教員養成分野の大学教員になることを目指す大学院生やポストドクターの方にも一部参考になると思います。他分野の大学教員を目指す方や、学校教員から大学教員になる人もいるのだなと手に取っていただいた方にもある程度は興味深く、読んでいただけるのではないかと思います。

 大学教員になるには、大学院博士課程まで進み、博士号を取得(単位取得退学)する「王道研究者ルート」が一般的です。しかし、私は修士課程修了後、小学校教員、専門学校教員を経て大学教員になりました。教員養成系分野では、学校教員から大学教員になる「非王道ルート」も他学問分野より比較的認められており、かつてより求められています。

 近年、大学教員を目指す学校教員が増えていることを感じます。その根拠の一つは学会の変容です。学会会報における新入会員の欄には、学校教員の方が目立つようになってきました。学会発表でも学校に在職の方々の発表が存在感を増してきています。学会はもともと大学の研究者を中心とした研究交流の場ですが、教育関係の学会は、研究者だけのコミュニティであった時代は終わり、現場の実践者も含めた多様な人々が研究を交流する場になっているのです。学会で研究発表する学校教員は、自己研鑽のため、すなわち、日々の教育実践をさらに改善することを目的としている方もいるとは思いますが、多少なりとも大学教員への道を考えているのではないでしょうか。実際、大学の教員養成課程では、現場経験のある実務家教員を重視するようになってきており、学校教員から大学教員になるキャリアは、かつてより現実的なものとなってきています。

 本書は、そのような、学校教員から大学教員になることを目指している方の参考になると思います。もちろん、その前の段階にいるこれから研究をし、大学教員を目指してみたいと思っている方にも参考になると思います。逆に「私には無理そうだ」、「私がなりたい職と違うようだ」という判断にも役立ててもらえたらと思います。

 「王道研究者ルート」の場合、大学院の指導教員や院生の仲間と情報交換することができますが、学校教員の場合には、周りに相談できる人は少ないでしょう。研究業績はどのようにつくればよいか、求人情報はどのように見ればよいか、求人への応募書類はどのように作ればよいか、大学教員の仕事は、学校教員と比べてどのような特徴があるのか、などの疑問へのヒントになることと思います。

 私が、小学校教員を務めながら、やはり大学教員を目指したいと思った時、本を探して読んだり、ネット上の情報を様々検索したりしました。「王道研究者ルート」でなる方法、企業人から大学教授になる方法はいくつかありましたが、学校教員からというものはみつかりませんでした。もちろんそれでも参考にさせていただきありがたかったのですが、「学校教員から大学教授になる方法」も、誰か書いてくれればいいなと思っていました。学校教員から、教員養成系分野の大学教員になるには他の分野とは異なる事情があるからです。

 異なる最大の理由は、文科省による課程認定の存在です。教員免許を取得できる課程として認定されるには、定められた必要科目を開設せねばなりません。すなわち、大学教員採用の際、どの授業科目を担当できる教員が必要か明確に定まります。課程認定では、文科省の教職課程認定における教員審査があります。教員養成関係の教員は、担当科目の「活字業績」がなければ文科省の科目担当者としての審査に通りません。審査に通らない場合は、最悪、教員免許が取得できない大学になってしまいます。教員養成系学部の教員は、必要な担当科目に「合う」業績があるかどうかが明らかに重要です。担当科目に「合わない」業績をたくさんもっていても、質がとても高くても採用には至らないのです。すなわち「合う」業績があればコネや教員としての特別な実践がなくても、博士号やとても質の高い研究論文がなくても大学教員になれる可能性があるといえるのです。(もちろん量があった方がなりやすいですし、なった後は、質の高い研究を目指したいところです。)

 さて、「学校教員から大学教授になる方法」をだれか書いてくれればいいのになぁ、と他人頼みに思っていた私。いや、私が書いてもよいのではないかと近年思える様になった理由は、大学において大学教員の公募・選考に参加させていただく経験ができたということが大きいですが、私のアイデンティティも関係しています。私は、小学校教員として中途半端であり、大学教員としても中途半端な人です。実は、小学校教員経験は3年だけです。研究者としては博士課程に行っていませんし、博士号ももっていません。私は大学教員なのか、学校教員なのか、どちらでもないのか、不安定なアイデンティティしかもてていませんでした。

 しかし、大学教員として中堅どころに足を踏み入れ、大手学会誌に論文が掲載されたり、科研費(公的な研究助成金)をもらえたりするようになりました。自分の学校教員経験を相対化して、学生の進路相談にものることで感謝してもらえています。やっと最近、自分を「小学校教員経験のある大学教員」と思ってもよいのではないかと思えてきたのです。修士号は持っていたといえ、普通の小学校教員であった私でもなれましたから、学校教員のみなさんに可能性があります。本書を参考にして、学校教員から大学の教員になる仲間が増えたら嬉しいです。

 なお、同じようなキャリアを目指す方に参考になると思いながら書きますが、大きいのは運、タイミングです。現在、私が大学教員のポストを得られていることも、かなりの強運が役立っています。その点、注意しつつ限定的に参考にしてもらえればと思っています。

 本書の構成を説明します。第1章では、教員養成課程における実務家教員の採用について、現状を確認した上で、必要とされる背景を説明します。第2章では、私が小学校教員から大学教員になった経験を語るとともに、それを無理のない範囲で一般化し、大学教員になるヒントをお伝えしたいと思います。第3章では、学校教員から大学教員を目指す方が、JREC(ジェイレック) に掲載されている、大学教員の求人情報のどこをどう見ることが大切かを解説します。第4章では、大学教員になるために必ず必要な研究業績をどう作るかの作戦と注意点を考えます。第5章では、大学教員採用選考の書類作成や採用試験において、どのようなことに注意すべきかをお伝えします。第6章では、学校教員から大学教員になる間に職を挟むキャリアパスのメリットとリスクを検討します。終章の第7章では、学校教員と大学教員の仕事ややりがいを比較することで、大学教員を目指すかどうかを考えてもらう材料となるようにします。

 本書における「学校教員」は、主に幼稚園・小学校・中学校・高等学校の教諭を想定しています。基本的には、「学校教員」「教員養成課程」を念頭においた用語で記述しますが、保育所保育士の方、保育者養成課程の大学教員を目指す方にも参考になると思います。また、「大学教員」とは、専任の教授・准教授・講師(助教)を指しています。「客員」教授等は除外しています。また「特任」「非常勤講師」は後に言及しますが、基本的に「大学教員」の中に含めていません。場合によっては大学教員全般を指して、「大学教授」とすることがあります。

【Note用追記】

とまぁ、結構気合を入れて書き、「持ち込みOK」の某出版社に送ったのですが、お返事をいただけず……(涙)このままお蔵入りさせてしまうのももったいないので、noteに掲載してみることにしました。個人的な経験をもとにしてはいますが、できる限り参考になるように書いたつもりです。編集者の校閲など入っていませんので、文字や言葉、文章の誤りなどがあったら、すみません。

 本文は有料ですが、よろしければお読みください。どの程度読んでみたい方がいて、価値があるのかわかりませんが、とりあえず、1章につき200円とさせていただきました。


目次


学校教員から大学教員になった私の方法
はじめに

第1章 教員養成課程における実務家教員の必要性
 学校教員から大学教員になる人の数
 教員養成における「理論と実践の乖離」の克服
 実務家教員の存在意義
 実習指導の必要性
 採用試験対策の指導
 学生教育の必要性
 大学の社会貢献としての現職教育
 実務家教員の必要性
 「実務家教員」と実務経験もある大学教員


第2章 小学校教員から大学教員になった私の経験
 大学生時代
 大学院生時代
 小学校教諭時代
  校内研究とその研究「紀要」
  小学校教諭を辞める
 専門学校講師時代
  専門学校の研究紀要への論文投稿
  テキストの分担執筆
  非常勤講師
  社会貢献活動
  外部研究費への応募
  学会誌への論文投稿
  専門学校講師時代の「業績」
  公募へ応募 11敗1勝
  大学教員へ
  この時の私の年齢と研究業績
  迎えてもらえる大学に入るべき
  目標であった大学教員になれました

第3章 求人情報を得る -JRECのどこをどうみるかー
【※本章のみ2024.4.1に改訂しました。】
 JREC-INとは 
 JREC求人情報掲載項目
  概要
  業務内容
  職種
  研究分野
  給与
  勤務時間
  募集要項
 JREC気になる項目①「勤務形態」関係について
 JREC気になる項目②「待遇」関係について
 JREC気になる項目③「選考過程」について
 JREC重要項目①「求人内容」について
 JREC重要項目②「応募資格」について
 JREC重要項目②-2応募資格における、学校での実務経験
 JREC重要項目③「応募書類」について
 受かる可能性のある公募を見極める


第4章 研究業績の必要性と作り方
 教職課程認定における教員審査と「実務家教員」に求められる研究業績
 学会誌論文
 学会発表
 大学等の紀要
 本(単著)の執筆
 論文の共著、本の共著(分担執筆)
 校内研究の「紀要」
 研究業績を作りましょう!

第5章 大学教員採用選考に通るためのヒント
 履歴書の作成
 教育研究業績書の作成① 「教育上の能力に関する事項」
 教育研究業績書の作成② 「職務上の実績に関する事項」
 教育研究業績書の作成③ 「担当授業科目に関する研究業績等」
 シラバスの作成
 抱負等の書類
 面接試験
 模擬授業

第6章 大学教員へ 学校教員から直ではないキャリアパス
 研究業績を作れるポストか。大学教員に成れなかった場合どうするか。
 大学の「教職センター」における教育を本務とする教員
 保育(幼稚園教諭・保育士)関係の専門学校講師
 附属学校の教諭
 指導主事
 校長、副校長(教頭)、園長など
 キャリアパスを考える

第7章 学校教員と大学教員 仕事ややりがいの違い
 児童生徒or学生との関わりについて
 保護者との関わりについて
 同僚との関わりについて
 勤務時間について
 授業準備、授業実践について
 研究について
 事務仕事、校務分掌or学内運営業務について
 やりがいの違い、人との関わり、自律性
付録:読書案内
noteあとがき


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