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若者に選ばれるまちを目指して ―一般社団法人 F-design 理事 川上大樹

 一般社団法人 F-design(エフデザイン)は、「富士山が微笑み、みんなが関わりたくなる“まちづくり”」を基本理念に、富士市を拠点に活動する市民活動団体です。
 同団体の理事を務める川上大樹(かわかみひろき)さんは、静岡県が令和4年9月にラ・ホール富士で開催した知事広聴「平太さんと語ろう」に登壇し、自身が地域活動に参加することになったきっかけや地域におけるサードプレイスの必要性などをテーマにお話していただきました。
 今回は令和4年 12 月に F-design が富士市立高校で開催したワークショップイベントの取材内容とともに、同団体の取組について紹介します。

F-design メンバー(上段右から2人目:川上大樹さん)

F-design とは

 F-design は「富士山が微笑み、みんなが関わりたくなる“まちづくり”」を 基本理念に、“まち”への想いあふれる 10~40 代のメンバー15 名で活動を行っている市民活動団体です。
 月刊誌『致知』を題材に感想や意見を共有し自分の気づきにつなげる「富士山にこにこ木鶏会」や、富士市と協働して企画・運営を行う「富士青春市民ミーテ ィング(※)」など様々な活動を行っていますが、活動の中でキーワードとしているのが「学び」です。

富士山にこにこ木鶏会
富士青春市民ミーティング

(※)「富士青春市民プロジェクト」とは
 富士市では、平成 29 年 2 月にブランドメッセージ「いただきへの、はじまり富士市」を発表し、まちづくりに参画したい人、まちの魅力をお勧めしたい人、まちのために頑張っている人に感謝できる人を増やすことを目的とする活動「ブランドメッセージ大作戦」をスタートしました。
 「富士青春市民プロジェクト」は、その「ブランドメッセージ大作戦」の根幹プロジェクトとして、「富士市を好きになってもらう」「富士市に興味を持った人に富士市ファンになってもらう」ことを目的としたプロジェクトです。

「サードプレイス」の必要性

 F-design に所属しているメンバーは 10~40 代と比較的若い世代が多い印象ですが、学生から公務員・会社員、主婦などその立場は様々です。取材中に垣間見えたメンバー同士のアットホームな雰囲気からは、確かにメンバー一人一人にとって F-design が自分の居場所の一つになっているのだということを感じました。
 自宅(ファーストプレイス)や職場・学校(セカンドプレイス)などの普段の生活圏の中では関わることのない、世代や性別、立場を超えた仲間との交流や対話は、時に自分の視野を広げ新たな気づきを得るきっかけとなります。そんな地域の居場所である「サードプレイス」での経験が自分の人生を豊かにすることにつながり、そこで得た刺激や学びを再び地域に還元することで、まちがよりよい姿に変わっていくのではないか。F-design の1つ1つの活動からは、そのような団体としての想いが伺えます。

自分を知り、選択肢を広げる

 その中で、現在、F-design が力を入れているのが若者の活動を応援するプロジェクトです。
 F-design の理事である川上さんは、先に述べた知事広聴で、少子高齢化が進む中、「若者に選ばれるまちづくり」の必要性について言及していました。 昨今、進学や就職を機に、地元を離れる若者は珍しくありません。都会の方が選択肢が多いというイメージが持たれがちですが、地元でも自分がやりたいことができるという実感を若者たちに持ってもらうことが、地元への定住や、地元を離れてしまった後でも地元への愛着を持ってもらうことにつながるのではないか、と川上さんは考えます。
 富士市には F-design をはじめとした「サードプレイス」になりうる地域コミュニティは数多く点在するものの、そこを知らずに自宅と職場を往復するだけの若者も数多くいるといいます。
 若者の「やりたい」ことを伴走して応援する地域の「サードプレイス」をこれからも存続させ、若者をはじめとした地域住民の参画を進めていくことが重要なのではないか、という熱い想いを会の中でも語っていらっしゃいました。

 そして、F-design では若者の「やりたい」ことを後押しする取組を実践しはじめています。令和 4 年 12 月 10・13 日の2日間、富士市立高校の生徒会執行部を対象に、「“自分らしさ”を言葉にする2days イベント」を開催しました。 企画の発案者は同団体のメンバーの一人である現役大学院生の西山さんです。

自分を知り、選択肢を広げる

 みなさんは、人生の岐路に立った時、何を基準に選択をすればいいのか迷った経験はないでしょうか。私自身は多分に思い当たる節があります。
 今回の企画の発案者である西山さんもその一人。進学などの大きな決断の際に、親や生まれ育った環境、社会的価値などの外部からの影響を受けることが多かったと、今までの自分を振り返ります。
 学部生時代に就職活動に挑戦する中で「自分のやりたいことは何か」を考えた時に、自分の価値観や強みをきちんと理解することで、環境などの外的要因だけではなく、自分の内側から湧き上がる意思に基づく選択肢を持つことができるのではないか、と感じたそうです。(ご自身は最終的に進学という道を選び、現在は大学院生として学生生活を送っています。)
 そこで、「“自分らしさ”を知ることはどうして大切なのか」「“自分らしさ” とは何なのか」をテーマに、自己理解を進める活動に取り組みたいという想いを持ち始め、そんな西山さんの想いを実現させるため、F-design メンバーが伴走して運営に取り組みました。

進行役としてイベントの指揮をとる西山さん

 ワークショップでは、高校生が3~4人のグループに分かれ、グループ毎に F-design メンバーがファシリテーターとしてワークに参加しました。
 「“自分らしさ”を言葉にして持ち帰る」ことをゴールに、「人生のキーパーソンは誰か?」「過去の自分と今の自分で変わったことは?」など大人でも回答に悩んでしまいそうな問いをテーマに、グループで意見をシェアしながら学生達が自分の価値観をどんどん掘り下げていきます。

川上さんもファシリテーターとして参加

 はじめは、恥じらいや戸惑いからかなかなか意見を言えずにいる学生も見受けられましたが、ワークが進むにつれて、少しずつ自己開示をしながら自分のヒストリーを口々に語りはじめる様子が印象的でした。

 また、過去にベンチプレスの世界チャンピオン達成、女子柔道オリンピックチームのコーチという異色の経歴を持つ富士市在住のご夫妻を招いたロールモデ ル講演などのパートもあり、普段聞くことができない話に学生たちも刺激を受けていた様子でした。

 2日間のワークショップ終了後、生徒からは、「“自分らしさ”について考える機会はあまりないので新鮮だった」「希望の職に就くことがゴールではなく、ゴールをもっと先に設定することが必要だと感じた」「仕事をしながらも自分のやりたいことをやる選択肢もあるかもしれない」との感想が聞こえ、西山さんの想いを確かに学生たちが持ち帰っている様子が伺えました。
 企画の発案者である西山さん自身もそんな学生たちの様子をみて安堵した様子でした。「反省点も多かったので、今後はこの経験を糧に自分のキャリア形成にも活かしていきたい」と意気込む横顔は、達成感にあふれて見え、この経験がまた一つ自分の自信になったのだということを感じさせられました。

参加者は記念写真の裏に“自分らしさ”を表す言葉を書き記し2日間のお土産として持ち帰りました

「学び」が、地域の力をつくる

 「やりたいことはあるけれどどう実現したらいいのか分からない」「何かやりたいけれど何がしたいのか分からない」という想いを抱える若者は少なくないのではないでしょうか。
 F-design のように、やりたいことを一緒に考え、応援してくれる場所があり、 そこで得た成功体験や小さな自信の積み重ねは自分の可能性を広げてくれます。また、自分のやりたいことを応援してくれる人や環境がある場所を居場所だと実感できた時、私たちはその地域への愛着を抱きはじめるのかもしれません。
 そして、多様な経験を積んだ豊かな人材が地域に増え、その一人一人が抱く地域への想いの集積は、地域の力を引き上げるための一歩につながるのではないかと思います。

ワークショップに参加した富士市立高校生徒会役員2年生の皆さん
  • 一般社団法人 F-design ホームページ

※掲載している情報は取材時のものです。

(担当:小玉)