見出し画像

自作HDRI 〜第5世代〜 10万円で作る全天球カメラ

THETA Z1で感じた弱点

THETA Z1を使用してみて露出ブラケットや画像のRAWデータ記録、画像解像度などスペック的にはHDRI作成に十分な性能があると思いました。同時に少し物足りない点もありました。まず処理性能の低さです。一枚あたりのメモリー保存に3〜5秒かかることがわかりました。7段階露出ブラケット撮影の場合トータルで30秒程度かかってしまうということです。スマホアプリによる操作も本体との接続が不安定で再接続する手間がありました。失敗できない撮影の場合やはり物理ボタンや有線接続など確実性の高い操作ができるほうが安心です。またアプリの操作画面は設定を変えるたびに設定専用の画面に切り替える必要があり素早く設定を変えることが難しかったです。第5世代機材はTHETA Z1の利点を参考にしつつ弱点を補うようなものを作るというアイデアで構成していきます。

画像1

THETAの1ショット全天球の仕組みを参考にする

THETAの全天球画像を1ショットで作成する仕組みは210度の画角がある魚眼レンズを表と裏の二方向に配置し、二つのイメージセンサーに記録したデータを1つの画像に統合することで実現しています。つまり画角210度の魚眼レンズとカメラ二台を組み合わせてシャッターを同期させればよいと考えました。画角210度かそれ以上の魚眼レンズを探すとVR用の撮影機材を製作しているインタニヤHAL220というレンズを見つけました。残念ながら価格は百万を超えるものでとても個人では手が出ませんでした。しばらくして中国メーカーのLAOWAから4mm F2.8 Fisheyeというレンズが発売されました。このレンズは約210度の画角があり、価格は二〜三万円と非常にリーズナブル。自作全天球カメラへの道が見えてきました。

画像2

確実な操作と迅速に作動することを条件とする

レンズはLAOWA 4mm F2.8 Fisheyeに決定、これをベースにこのレンズが使用可能なカメラの選定に移ります。カメラの選定にはレンズに対応していること操作の確実性、シンプル、作動の速さなどを考慮しました。また機材のトータルの価格がTHETA Z1よりも安くなるようにしたいと思いました。
LAOWA 4mm F2.8 Fisheyeが二個で約五万円のためカメラは二台で四万円以内、つまり一台で二万円前後に抑える必要があります。条件を満たしつつ予算内で購入するとなると中古の機種しか選択肢がありません。処理速度が遅くては本末転倒なので極力新しい機種であることも重要視しました。いろいろと探し選定したのはOLYMPUS OM-D E-M1(初代)となりました。購入した個体の価格は一台あたり二万円程度で外観はかなり使用感があるものの作動も良好でした。LAOWA 4mm F2.8 Fisheyeのマイクロフォーサーズマウンド版が使用でき、オートブラケットは七段階、最高シャッタースピード8000/1、レリーズが使用可能で条件を満たしています。

画像3


3Dプリントの雲台とシャッター同期システム

画像のズレを少なくするため二台のカメラをなるべく近い位置で反対方向に固定する必要がありました。そこで適切な位置でカメラを固定できる雲台を3Dプリンターで作成します。素材は4世代目の自作機材でも使用したカーボンファイバー配合のPLAで出力。カメラにトラブルが起きた場合にもすぐに取り外せるようクイックシュー仕様にしました。3Dプリントパーツとクイックシューは鉄粉入りエポキシ樹脂で接着し強度を確保しています。すぐに外せる、すぐに付けられるは臨機応変な対応が求められる撮影現場では結構重要と考えています。

画像5

シャッターの同期はレリーズケーブルを二股に分岐させることで実現しています。非純正品の低価格なレリーズを二つ購入しケーブルを切断。内部の配線を分岐させ半田付けした単純な改造です。

画像8

各機材をセットアップして緊張のテスト撮影です。カメラ二台を雲台に装着して改造二股レリーズを接続します。二台のカメラの露出ブラケットを同じ設定にしていざ撮影開始。シャッター同期、露出ブラケットも問題なく作動、成功です。210度の画角は斜め後ろまで写っておりステッチング時のノリしろになりそうです。

画像9

撮影画像をPTGuiに取り込みステッチングします。コントロールポイントもオート検出で問題なくステッチングできました。魚眼レンズのディストーション、ビネットが強く二方向という撮影方向の少なさから画像の合わせ目が少し怪しい部分もありますが、個人的には満足のいく結果です。

スクリーンショット 2021-08-08 11.04.04

シャッタースピードよりますが一回の撮影時間は1秒以下で完了でき、同等の設定をしたTHETA Z1と比較するとかなり高速に撮影ができます。また操作性も有線のレリーズでシンプルかつ確実です。CGのレンダリング検証ではBlenderを使用しました。撮影画像をEnviromentLightに設定し参考のチャート、グレー、銀玉をレンダリングします。露出とホワイトバランスを合わせ、実写とCGの合成結果でも色やトーンに大きくズレはなくおおむね良い結果になっていると思います。簡易的な実写合成の場合にも力を発揮できそうです。

画像8

機材のトータルのコストもなんとか十万円以内に抑えることができました。最も高コストになりそうなカメラを中古で安く手に入れられたことは幸運ですね。以下機材と費用の内訳です。

LAOWA 4mm F2.8 Fisheye:¥25,000 x 2

OLYMPUS OM-D E-M1(中古):¥20,000 x 2

OLYMPUS 用レリーズ(非純正):¥500 x 2

Velbon クイックシュー QB-3(中古):¥1,200 x 3

3dプリンターのフィラメント:¥500〜1,000程度

計:¥95,600

まとめ

画像9

課題としては8000/1でf16まで絞っても太陽付近の高輝度域を捉えきれないい部分です。NDフィルターなどで改良の余地がありそうですね。高輝度域が捉えきれない問題やビネットの矯正などの課題はあるもののこれまでの機材のなかでは一番良い結果を出すことができました。また今回作成した機材の一番の成果は撮影時間の短縮です。複数方向、複数の画像を合成して一枚にするという撮影手法から時間がかかるほど動いているものにズレが生じて合成後の結果にエラーが増えます。カメラの回転などの動作を挟ままない、複数枚同時撮影による撮影時間短縮のため晴天下では1秒以下で記録することができます。雲などの動くものをより正確に記録することが一つの成果と考えます。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?