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【短編小説】海蝕洞の幻宝(3/5)

それまで穏やかだった波が、急に大きくなってきた。

すでに浜からは船が見えない。何かのトラブルがあっても誰も助けに来ない。たけしとトシに恐怖心が襲ってきた。

「砂浜から離れて、崖に近づくと、波が大きくなるのは予定通りだ」
シンジは動じない。冷静だった。

たけしの船の操作は小学生にしてはうまい。シンジの指示を信じて、たけしは巧みに船を操った。
トシは船のへりにしがみついていた。

「おれを信じろっ、絶対にたどり着く!」
シンジが叫んだ。

「見ろ、洞窟だぁ!」
たけしは魯を持ったまま大声をあげた。
遠くに崖にぽっかり開いた洞窟が見え始めた。
三人もその洞窟を見るのは初めてだった。

それは、岩石が切り立った崖の水面近くで、部分的に波で侵蝕されてできた、いわゆる海蝕洞だ。

「たけしっ、崖に向かって真っ直ぐ進めっ、船を波に対して横向けにするなっ。岩にぶつかったら船が粉々になるぞ!」
「わかった」
たけしは言われた通りに船を操った。

小舟は波に大きく揺られながら、洞窟に近づいていく。
「トシ、船が岩にぶつかりそうになったら、もう一本の魯で岩を突けっ」
トシが魯を持って待ち構える。

「トシっ、船が右に流されていくぞ。その岩を突けっ!」
「やぁっっっー」
シンジの指示にトシは必死で岩を魯で突いた。

船は洞窟の方向へと軌道を戻した。洞窟の入り口が目の前に迫っていた。


<続く…>

<前回のお話はこちら>


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