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明治維新という変革期の政治家を支えたバックボーン

『武士道』 新渡戸稲造 著  訳・解説 奈良本辰也

新渡戸稲造の名前を聞いて明確に説明できる現代人はどれほどいるだろうか。

恥ずかしながら私は「一葉の前の五千円札の人」程度の認識だった。

本書を読んだきっかけもタイトルが目に入ってきたからで、あの眼鏡をかけた人が書いたものだとは微塵も知らなかった。

本書の中では、

論語を基軸として、神道、仏教を取り入れながら日本国内で発生した土着の思想体系としての武士道の歴史から、

それを生活規範にまで落とし込んで、まさに生まれてから死ぬまで貫き通した「侍」という階級の人々について、適切なバランス感覚をもって実にロジカルに描かれている。

奈良本氏の解説から抜粋させて頂くと

「新渡戸氏は、文久二年(1862)南部藩士新渡戸十次郎の三男として生まれた。まさに歴とした武士の家に生まれ、武士としての生き方で幼年から少年の時代を送られた人物である。(中略)私の心がふくらんでいったのは、何としてもその叙述である。それは、かたくなな武士道論ではなくて、広い視野と柔軟な理性で論じられたものだった。」

と述べている。

ゴリゴリの武士道を幼少期から骨身に叩き込まれているはずなのに、それを変に持ち上げたりせず、知見を根拠にして実にフラットな立場から武士道というものを分解していることが本書を読むとわかる。そりゃ紙幣にもなるわ。

本書を読み終わって、ひとつの疑問が持ち上がった。

なぜ、三十代の自分はこの本を知らなかったのだろう?というものだ。

もちろん、私の読書量の問題だということは重々承知している。

それにしても本来義務教育で取り上げられるべき本ではないのかと強く思った。

もしかしたら今現在では取り上げられているのかもしれないが、私が義務教育で本書に触れたという記憶はない。

「武士道」という語感から、右傾教育になるからとか、GHQがこの思想を根絶やしにするための戦後の指導要領を作ったからとか、そんな理由なんだろうと勝手に想像した。あくまでも私個人の想像なので学術的根拠は何もない。

新渡戸稲造が解きほぐした武士道というものは、大戦中の軍が利用したそれとは大きく異なっていることは本書を読めばすぐわかる。

武士道の根幹を支える「名誉」と「勇気」と「慈愛」こそ何も知らない子供に真っ先に授けるべきもので、

今まさに混乱の中にある現代に、最も足りていないものだというのが私の感想である。

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