水風船

ナースのための“教える技術” 研修の設計に役立つ理論(2)

前回のトピックでは,ロバート・ガニエの「9教授事象」についてご紹介しました。これは9つのステップで研修を組み立てるというものです。

研修を組み立てる9つのステップ

①研修生の注意を引く
 「みなさん,ちょっとこれに注目してください」

②研修の目標を知らせる
 「これができるようになることが今日の目標です」

③すでに学んだことを思い出させる
 「前回の研修でこれについて学びましたね」

④新しい学習内容を提示する
 「今日の新しい内容はこれです」

⑤研修の進め方を説明する
 「この方法で研修を行います」

⑥演習をする
 「では,実際にやってみましょう」

⑦フィードバックする
 「うまくできましたか?どこが難しかったですか?」

⑧研修の効果を評価する
 「研修で学んだことを確認してみましょう」

⑨学習したことを実践場面でも活かせるように促す
 「今回の研修で学んだことは,どのような場面で活かせますか?」

前回は,最初のステップ①と②について「研修生の注意を引く導入例」を併せてご紹介しました。
引き続き,③〜⑨のステップについてお伝えします。

次のステップ③と④では,今回の研修の前提となることを思い出させてから,新しい学習内容を提示します。過去に学んだ内容は忘れ去られていることが多く,それを思い出すことで,新しく学習する内容を受け入れやすくなります。

その次のステップ⑤と⑥と⑦では,今回の新しい学習内容について,どのように学べばよいのかということを説明した後,演習を行い,その演習内容についてフィードバックします。うまくいっている場合には,個別にアドバイスをして,つまずきを最小限にします。グループワークでは,講師以外に,グループごとにファシリテーターを置くのも一つの手かと思います。

最後のステップ⑧と⑨では,研修の終わりに簡単なテストを行い,研修生が確実に理解したかどうか評価します。これは,研修生ができるようになったことを自分で確認して,自信を持つようにすることが目的です。もし不完全な理解をしていれば,このテストによってカバーすることもできます。最後に,今回学んだことを実践場面でどのように活かすのかについて,課題を提示するなどして終わります。こうすることで,単に知識を身につけるだけではなく,この知識を実践場面で応用しようという動機づけにもつながります。

風船やビニール袋を使用した聴診の演習例

講義で聞いた内容を実践と結びつけるために,演習する機会をつくります。
例えば,聴診の演習では,正常な肺に見立てて「空気だけの風船」と,胸水・肺水腫など肺に水が溜まった状態の肺に見立てた「水を入れた風船」を用意します。そして,風船を指でトントンと突っついた時の音の響き方の違いを聴取します。
空気だけのものに比べて,水を入れた風船の方は音の響きが大きいことがわかります。このように,導入として「音の違い」を知ってもらい,次に,肺の解剖について演習を行います。
肺の解剖は簡単です。上半身にビニール袋を被せて,その上から肺・気管支・胸骨・肋骨を描きます。こうすることで,肺と気管支,骨との位置関係がわかったり,下葉の音は背部から聴診しなければならないことが理解できたりします。さらに,細かい音の違いについては,シミュレーター,なければDVDなどを活用するとよいでしょう。

日清“どん兵衛”を使用したフィジカルアセスメントの演習

知らない人はいないとは思いますが,“どん兵衛”は日清食品グループで製造,販売されている即席カップ麺です。
そして,“どん兵衛”には,関東風と関西風があることをご存知でしょうか?
サイズが同じだとパッケージは全く同じなので見分けがつきません。

そこで,研修生たちに東と西のどん兵衛を渡し「この2つのどん兵衛を患者さんに見立ててフィジカルアセスメントしてください」と提示します。
東と西のどん兵衛があることを知らない研修生は,どこを見ればよいのかわからず,まず戸惑うでしょう。
そのうち,研修生は触ったり持ち上げたりして外表面の観察を始めます。
そのとき,研修生に「触診と視診が始まりましたね!」と伝えます。すると,研修生は手の感触,見た目の違いを探すための観察を続けます。
そして,「製造年月日が違う」「製造場所が違う」「カロリーや塩分が違う」「ダシが違う」など異なる点を次々に当てていきます。
講師やファシリテーターは,患者さんでいうと「製造年月日は生年月日かな?」「製造場所は住所でしょうか?」「カロリーや塩分は血液データに当たるかもしれませんね」などと伝え,フィジカルアセスメントと関連づけます。

演習をひと工夫することによって,研修に対する興味・関心が高くなり,動機づけにつながります。よろしければお試しください。


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