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ザ・加藤伸吉・アンソロジー(1)漫画家デビューの巻

漫画家・加藤伸吉、1990年のデビューから今年でちょうど30年!
それを記念して…というわけではなく、なんとなくやってみたくなったから、という純粋無垢な理由により、加藤伸吉のキャリアを振り返る連続インタビュー企画を始めることになりました。

天才、奇才と呼ばれることも多い加藤伸吉。その創作のヒミツに迫り、名作の裏側を知る貴重なインタビュー。それは同時に、1970年代から現在に至るサブカルチャーの流れを振り返り、現在に再着地させるという、実り多いものになることでしょう(予定)。

聞き手は、加藤伸吉30年来の友人である、同学年の2人。
ビジネスマンとして働きつつ音楽ライター、アマチュアミュージシャンとしても活動する大須賀芳宏と、生粋の「ミュージックマン」トキタ トキオ。
同じような子ども時代・青年時代を送ってきた3人が、時に熱く、おおむねユルく、語り合います。

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*偶然と必然の、大賞デビュー*

大須賀:ではさっそく、漫画に興味を持った子ども時代から…と思ったんだけど、いや、最初はデビューの話から始めた方が面白いかなと。ちばてつや賞大賞に輝いた『嗚呼!うげげ人生』。1990年、講談社「コミックモーニング」ですね。これはどういう経緯で?

加藤:じつは、この1年前にもちばてつや賞に挑戦してるんだけど、それはダメだったんだよね。それで、再挑戦だったの。

ちばてつや賞:『週刊ヤングマガジン』『モーニング』で行われる、1980年に創設された歴史ある漫画新人賞。実力派作家を輩出。加藤伸吉『嗚呼!うげげ人生』は1990年の第18回に一般部門の大賞を受賞。(Wikipediaのリストは当該年前後の記載に抜け漏れがあるので要注意)

加藤:『嗚呼!うげげ人生』に関しては、じつはネームを切った時点では自分でも良いのか悪いのかわからなかったので、そのまましばらく放っておいたんですよ。それで何か月かして読み返してみたら、あ、これは結構面白いな、イケるなと思って。それで描き始めたんだよね。

ネームを切る:ストーリー、コマ割りなどの大まかな構成の下書きを書くこと

加藤:で、僕はそのころとにかく「ヤングマガジン」に載りたかったんです。大友克洋さんの『AKIRA』と一緒の誌面に載りたかった。

トキタ:あー、そうか。その時代だよね。

加藤:そう。それで、ヤンマガの編集部に原稿を送ったんですね。そしたら、編集部に呼ばれたの。行ってみたら、編集者さんが「これは『モーニング』の方が合ってるから、推薦してあげるよ」と言ってくれて。

大須賀:へぇー!それすごいことですよね?だって自分の雑誌に合わなかったらボツでもいいわけでしょ。その編集の方が個人としてそれだけ評価してくれたっていうことですよね。

加藤:そうなのかな。なんか「モーニングの方が良いから」って言ってくれて…いずれにせよ、それが結局ちばてつや賞の大賞をとっちゃったんだよね。

*遅れてきた天才*

トキタ:こういう現実世界の、現代日本の普通の家庭が舞台になってる作品って、加藤くんの作品としては珍しいよね。

加藤:うん、そうそう。いま考えると、『うげげ』は、完全にちばさんにウケるような内容にしてるんだよね。小さな世界で、狭い家庭の中で家族がごちゃごちゃやってる…という。だから、うん、ちばてつや賞、狙ったんだよなぁ。

大須賀:ちなみに、その前の年に残念ながら落ちてしまった作品は、未発表?

加藤:うん。原稿ももうどっかにいっちゃった(笑)

大須賀:いやー、、、それ読んでみたいなぁ。

加藤:うーん、でも、それは自分でもダメだったと思う。当時追いかけていたフランスの漫画、メビウスとかの…なんていうか、雰囲気だけマネした、まぁあんまり大衆受けはしないだろうなっていう、詩みたいな漫画だったから。

メビウス:宮崎駿、大友克洋などにも強い影響を与えたフランスの漫画家、ジャン・アンリ・ガストン・ジローのペンネームの1つ。芸術的な美しい絵、シュールで抽象的な表現で、熱心なファンが世界中に存在する。代表作は西部劇の世界を描いた『ブルーベリーズ』シリーズ。

大須賀:でもそれって逆に言えば、自分が描きたいものを描いたっていうこと?

加藤:うん、そう、そうですね。

そのころは大友克洋さんとかも、フランスの漫画に寄せていったようなアートっぽいのを描いていたんですよ。当時、マンガの世界にも「ニューウェイブ」っていうのがあって。地味な雑誌って言ったら失礼だけど、サブカルっぽい雑誌で藤原カムイさんとか高野文子さんとか書いていた。音楽で言えば矢野顕子さんとか坂本龍一さんとかが出てきたみたいな、そっくりな状況があったんですよ。

でも、おれ、そこには遅れちゃったんだよね、たぶん。ニューウェイブに乗れなかったの、時期的に。

漫画のニューウェイヴ:1970年代末から1980年代初頭にかけて日本の青年漫画界に現れた、少年漫画と少女漫画、劇画の枠組みを乗り越えるような動向、あるいは新しい表現方法。1970年代末に創刊された、『JUNE』『Peke』(のち『コミックアゲイン』)『少年少女SFマンガ競作大全集』『別冊奇想天外SFマンガ大全集』(のち『マンガ奇想天外』)『漫金超』などの強い個性を持つマイナー誌を舞台とした。代表格が大友克洋。ほかに、いしいひさいち、ひさうちみちお、柴門ふみ、高野文子、いしかわじゅんなど(Wikipediaより抜粋編集)

ただ、そのころはもうこの世界に足ツッコもうっていう決心はつけていたから。デビューしたかったから。それで、前の年に落ちたあと『うげげ』の時には、そういうアートっぽいものは置いておこうと決めたんだよね。
だから・・・初めからあきらめてるんですよ、おれのやりたいこと、本当に描きたいものは。
割り切って、賞を狙ったの。

でも、そこまで狙ってきちっと作ったから、『うげげ』は自信作ですよ。描けちゃったから応募しようっていうんじゃなくて、プロとして計算して作った作品。

『嗚呼!うげげ人生』は初期短編集『OBRIGADO!』に収録。

*キャラは自分。とことんぶつかりあう。*

大須賀:でも、そんなふうに寄せていった、当てにいった作品でも、十分独特な、加藤伸吉にしかない世界ですけどね。

加藤:そうなんだ(笑)。たしかに、銃撃戦は出したいなとか、やたら乱暴で、最後主人公が不幸だったりっていうのは、もうやってるね。

トキタ:そういう意味では、これ、デビュー作なのに暗いって言えば暗いよね。さんざんひどい目にあってきた主人公が最後まで救われない。

加藤:暗いですよーー(笑)。最後すごい階段から落ちてるんだもんね。主人公を重傷にして終わらせちゃってるという(笑)。なんかおれ、キャラに対してサディストなのかね。

キャラをいじめて、キャラと本気で肌と肌がぶつかるような関係にならないと、自分の中でリアルさがないんだよね。子どものころは人をぱんぱん叩くような乱暴な子だったから(笑)それに近い感じがあるのかな、キャラに対して。それはその後の作品、今でもずっと続いている。主人公をいじめていじめて関係を成立させるような感じ。

『バカとゴッホ』の正二にもおれはすごく冷たいんだよね。あんな大怪我させたりさ。ラストの扱いも無視してるし(笑)。たぶん、正二はオレなんだよね。自分に一番きついビンタ食らわせないと作品にタッチしたことにならないっていう、そういう感覚があるんですよね。

*『うげげ』には続編があった!*

大須賀:デビュー作が載った後はどうだったの?

加藤:『うげげ』って実は3本くらいあるんですよ。あの続きがあるの。主人公が階段に落ちたあと、彼のお姉ちゃんに惚れてる男っていうのが出てきて、彼女が連れてきた黒人とケンカするっていう話。

トキタ・大須賀:笑笑笑

加藤:もはや主人公は吹っとんでる(笑)。おれの漫画には主人公はいないっていうね、それはもう、そこから決まってるんだよね。おれの漫画ってずーっと、主人公が誰か分からないんだよね。

大須賀:物語ではなく、世界があるんだよね。

加藤:そう、そう。どっちかというとそっちを描きたいんですよね。

トキタ:で、その続編は「モーニング」に載ったの?

加藤:モーニングの「パーティー増刊」っていうのがあって、それに載った。たぶん2本だったと思う。単行本にはなってないんだよね。原稿も、あるかなぁ…

大須賀:それ読みたいなぁぁぁ。続編は、編集部からのオファーで?

加藤:そうです。それで続けさせていくつもりだったと思うんだ。ただ、そのタイミングで担当さんが変わって。それで少しブランク期があって、『国民クイズ』に繋がっていくんだね。

大須賀:よく聞くけど、担当って、大きいんだねー。

加藤:うん、大きい、大きい。

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▲幻の『嗚呼!うげげ人生』単行本未収録回の扉 原画

*そして次回予告*

大須賀:ところで、いつごろからプロの漫画家になりたいって思ったの?

加藤:小学生。卒業文集にもそう書いていますし。

大須賀:早い!小学生のころから漫画家になると決めて、そのための階段を上って行った感じですか?

加藤:そう、結局、やってたね。子どものころ大友克洋さんとか宮崎駿さんとかを真似していて…いまでもおれの先生だと思っているけど、でもかなり早い段階から、ただ真似しててもおれじゃなくなっちゃうからって思って、自分の絵を探すっていうのを始めてたんですよ。

大須賀:それは中学生?

加藤:小学生。

大須賀:なにそれ、すごいね…。じゃあ次回、そのあたりの、漫画家を目指し始めた子ども時代の話をしましょう。ウルトラマンと仮面ライダー、どっち派だった?とかも(笑)

<つづく>

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