「透明」とたたかう君
人はいつ、「透明」だけどそこにあるものを認識できるようになるのだろう。
10ヶ月頃から、息子と「透明」の出会いがはじまった。
最初はたぶん、ベランダ。
ある日、洗濯物を干している私を見て、彼は発見した。
この先にお外がある!と。
もしかして、お外とつながってる? と。
それ以来時々、レースカーテンをくぐり抜けて、窓越しに外を眺めるようになった。
でも、外へ出ることはできない。
窓ガラスに遮られるからだ。
最初は時々窓ガラスに衝突していた。
出れないとわかってくると、不思議そうに窓ガラスに手を置いて、外を見上げるようになった。
その姿は、どこか哲学的で、とおい何かを見ているようで、妙に絵になる。
ぽっちゃりとしたお尻の、なんともいえないカーブが哲学している。
まるでちいさなかぐや姫。
まだ家の中と外が繋がっていること、ベランダというものの存在、透明な大きな窓について、彼の中でははっきりしていないようだ。
ただなんとなくぼんやりと認識して、少し気になっているようなのが、面白い。
そのうち急に何かが繋がるのだろう。
それから面白かったのが、ジップロック。
日々塗る息子の塗り薬(保湿剤)を、我が家ではジップロックに入れて保管している。
赤ちゃんというのは何故か袋のカシャカシャ、ガサガサする音が好きで、息子も袋で遊ぶ一環として、塗り薬の入った袋を触っていた。
しかし、保育園で「おかたづけ」を覚えて洗濯カゴにぬいぐるみを入れたりするようになった頃、ジップロックへのアプローチが変わった。
使った後の塗り薬を手に取って、ジップロックに重ねる。一緒にする。
でも、「一体」にはならない。
同じところに置いたのに、また動かすとバラバラになってしまう。
当然だ。ジップロックは袋だから、中に入れないと一体にはならない。
ついでに口をきちんと閉じないと、振り回しているうちにまた中身が飛び出てきてしまう。
それがまだわからないようだ。
試しに、ジップロックの口を広げて中を見せてみたり、塗り薬をジップロックに入れる様子を見せてみたけれど、いまいち「袋」という概念がわからないらしい。
「カゴ」や「箱」はわかるけれど、透明な「袋」はまだわからない。
ちょっと面白いなと思った。
それが形が変わるからか、一見して立体的ではないからか、透明だからなのかはわからない。
透明じゃない袋にものを入れることができるか試してみたくなってきた。
その後も、この前自分は再現できなかったのに、袋に入っている状態で振り回してもバラバラにはならないのが不思議なようだ。
ジップロックをぶんぶん振り回してはちゃんと塗り薬が入ってることを確かめ、振っては確かめ、ということをしていたので、そのうち仕組みに気づくのだろう。
彼は毎日不思議と出会っている。
そして11ヶ月を越えた最近、夫から聞いて面白かったのが、ミネラルウォーターのペットボトル。
空のペットボトルを持ってぶんぶん振ったり、ガンガン壁を叩いたり。
その延長で、未開封のペットボトルを持とうとしたらぼとん、と落ちて持ち上げられない。
空のペットボトルとは重さが違うのだから当然だ。
でもそれが不思議らしく、「およ?」「およよ?」という感じで、水の満ちたペットボトルを持ち上げようと苦戦していたらしい。
まったく息子はかわいい。
子育てをしていると、分別がつくというのはすごいことだなと思う。
紙は食べ物じゃないし、コードをかじるのはよろしくない。
食べ物はなるべく粗末にして欲しくないし、勢いの良すぎるスキンシップは時に痛い。
そういうことを早くわかるようになって欲しいなと思う一方、今の息子の反応ひとつひとつが新鮮で、興味深くて、一緒に過ごしていて楽しい。
もう窓ガラスにぶつかったりしないし、ジップロックの仕組みもわかるし、空のペットボトルと水の入ったペットボトルの区別もつく私だけど、こういう時期があったんだろうなぁと思いをはせながら、ひとつひとつ伝えていく役割を気長にこなしていきたいと思う。
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