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七五三前日の夜、母の涙

息子が眠りについたのを確認して、ふぅ、と息をつく。暗闇の中もう一度天気予報アプリを開いて、明日の1時間ごとの天気をチェック。

お、雨マークが午後からになってる。
いいぞ、その調子だ。

明日は、七五三のお参り。

5歳になった息子と、夫と3人で神社にお参りする。せっかくなので、カメラマンさんに写真撮影もお願いした。撮影許可もとった。

11月は雨が少ないというのに、この日に限って冷たい雨の予報で、もう何日も前からずっと天気予報と睨めっこして過ごしている。

お宮参りやお食い初め、初節句などの人生儀礼はスルーしてしまったけれど、七五三はなんとなくやろうと思った。

いざやると決めると、何をどこまでやるか、衣装は、予算は、日取りは、お参り先は、ご祈祷もお願いするか等々考えることが沢山あり、これはこれでなかなか大変であった。

しかし、七五三をやろうと決めて、よかったことがある。

立ち止まる機会を得られたことだ。

息子が5歳まで、無事に育って、なんとありがたいことだろう。

あんなに小さかったのに、言葉を話すようになり、自由自在に走りまわり、自分の意思で物事を決め、よく考えているなぁと感じることも増えてきた。

もはや自分のお腹から出てきたのが嘘みたい。

そんなことを、準備の途中で何度も思った。思ったのだが、前日の夜になってど派手に感情が決壊した。

息子の寝息を聞きながら思い出すのは、彼が生まれた日のこと。1歳の誕生日、2歳の誕生日……寝返りが打てた、立ったと、小さな成長を喜んだあの日々。

そもそも婦人科系の病気が見つかって、「不妊につながるかもしれないから大きな病院に行ってください」と紹介状を書かれたことから始まった妊娠にまつわるあれこれ。色々あって、なんか運良く宿ってくれた息子。

「この子は生命力が強いかもしれないねぇ」と言った母の言葉を思い出す。

今日に至るまで、夫にもどれだけ助けられたか。

なんだか感極まってしまって、静寂の中で涙がドバドバ流れ出す。ちょうど夫は趣味のラジコンで出かけていたので、それはもう何憚ることなくぼろっぼろと涙の溢れること溢れること。

あかん、これでは明日写真も撮るのに目が腫れぼったくなってしまう……!!

と必死に止めようとしたけれど、まぁダバダバと流れ続けた。
隣ですやすや寝息を立てるまあるい額と、なだらかな稜線を描くほっぺの愛おしさよ。

このふくふくに触れられるしあわせといったら。

人生儀礼はふるめかしいしきたり、という気もしていたけれど、とんでもないスピードで物事が移り変わる現代において、仕事や家事や育児で1日を乗り切るのに精一杯でバタバタと日々を駆け抜けている私にとって、ちょっと立ち止まって、来し方に思いを馳せ、「いま」に感謝し、「これから」の平穏を希うとても良い機会であった。

大変なことも多いけれど、こんな気持ちで涙を流せるならば子育てって最高だ。

翌日、ご祈祷で神主さんが「すくすく育ったこの子のこれからの健やかな成長を、かしこみかしこみ申し上げます」と奏上してくださるのを聞いても泣きそうだった。

朝には再び雨予報に変わった天気は、外にいる間じゅう、なんとか持ったのであった。

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