憧れの大地

生きているうちに、一度は行きたい場所がある。

ブラジルのサンパウロだ。

なぜならそこは、私の出生地。
今いるここの、地球の反対側で私は産まれたのだ。

人にそう伝えると色々質問されるのだが、2歳で帰国してしまったので、実はブラジルの記憶は何もない。

父の仕事の関係で、一家でブラジルに移り住み2年目に産まれたのが私だ。両親は日本人なので、ブラジルの血は全く流れていない。
日本は、両親のどちらかが日本人であれば国籍を与え、ブラジルはブラジル国内で産まれた子どもには国籍を与える。
そんなわけで私は途中まで二重国籍であった。戸籍関係の書類を見ると、出生地はブラジルサンパウロ、◯◯年日本国籍を選択、と記載されている。

そんな私だけれど、日本に帰国してからはブラジルに一度も戻っていない。
それどころか、実は日本から一歩も外に出ていない。

いつか行きたいなぁとぼんやり思いながらも、今日まで行かずに過ごしてきてしまったのだ。

でも最近、行きたい気持ちがまたふつふつと湧いてきた。

それは、子どもが生まれたことが大きい。
いつか子どもに、お母さんはブラジルで産まれたんだよ、と話すときに、私には何の手がかりもない。それがなんだかくやしく思えてきたのだ。

自分が産まれた時のことは誰だって覚えていないだろうし、私以外にも、産まれた場所に物心がついてから行ったことがない人は沢山いるだろう。

でもせっかくちょっと変わった場所で産まれたのだから、ちゃんと語れたらいいなと思う。

そこはどんな所なのか、どんな空で、どんな匂いがして、どんな音が聞こえて、どんな太陽があって、どんな人々がいて、どんな言葉が飛び交っているのか。植物や、建物や、食べ物は。
そこに行くと、どんな気持ちになるんだろう。

そういったことは、行って肌で感じてみないとわからない。

できれば自分の目で見て体で感じたことを、語れたらいいなと思う。

子どもを産んでしまったので、しばらくは行けないかもしれないし、初海外がブラジルというのもなんとなくハードルが高い。
うじうじしているとまた行かないまま数十年が経ってしまうかもしれないけれど、いつか行ってみたい。
縁があれば、すっと行くことになるんだろうな。きっと縁はあると思う。

子どもという可能性そのものみたいな存在に触れていると、未来のことをたくさん考える。それと同時に自分や家族の過去についても思いを馳せることが増えてきた。
こういうのが命を繋ぐとか生き物の歴史とかいうものなのかもしれない。

それにしても、辞令を報告したら「私、一度ブラジルに行ってみたかったの!」と大喜びした母も(『失われた世界』の舞台として憧れがあったそうだ)、ブラジルでの生活が楽しすぎて子どももう1人居てもいいかも、と私をつくっちゃった両親もなかなかすごいと思う。日本語が話せる日系人のお医者さんがいたとはいえ、そのままブラジルで産んだというのもすごい。

両親がブラジルに行かなかったら私は存在しなかったのかと思うと、尚更行かなければ!と思う。

寒いところよりあったかいところが好きなのも、真面目に生きているつもりでどこか調子のいいところがあるのも、香りのつよい果物が好きなのも、ブラジルの影響があるのかしら。

ちなみにブラジルの女性は意思表示をはっきりして、強くて激しいらしい。
そんなエッセンスが私の中にもあったりして。ないかなぁ、どうかな。

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