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2歳児はじめての採血でおぼえた、一抹のこわさ

幼児の採血があんなに大変だとは知らなかった。

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先日、息子のアレルギー検査に挑んだ。

以前、卵にアレルギー反応を起こし、かかりつけ医から「除去を行なって、2歳を超えたら血液検査をしてみよう」と言われていたのだ。

気がつけば2歳半。なかなか体調が整わず、ここまでずるずる来てしまった。けれど、4月からの転園も決まり、もう待ったなし。年が明けてからは珍しく風邪を引かずにいたので、ようやく病院へ。

ところで元気な幼児を病院に連れて行くことほど、しんどいことはない。

ひやひやしながら向かったけれど、コロナが流行り始めた頃で、普段に比べ週末でも格段に空いていた。

するっと採血室へ通され、息子を寝かせ、腕を差し出す。意外と大人しくごろんと寝てくれるなぁ。普段のおむつ交換とは大違いだなぁ。ありがたくも驚いていると、隣から予想外の声が。

「う〜〜〜ん、見えない……」

息子の腕をとってじっと眺めた若い看護師さんが、さくっとギブアップし、ベテランらしき年配の看護師さんを連れてくる。

最初から2人体制で行うことが決まっていたようだ。

「う〜〜〜〜〜ん、見えないわね……」

ゴムで上の方をぎゅっとしばり、だらんと投げ出された腕をぺちぺち、ぺちぺち、と叩いては目を凝らす。

「反対側も見てみようか」

と、右腕も服をめくって眺めてみるが、「う〜〜〜ん」と重低音。

「もしかして、難しいですか……?」

予防接種のノリで耐えれば良いもんだと考えていたのだが……。

「小さい子は、どうしても血管が細いからねぇ。親指もぎゅっと握れないし、動いたり暴れたりもしちゃうしね」

な、なるほど……!!

大人でも採血が難しい人がいるのだ。まして子どもじゃミニサイズ、あーんど、動く。そこまで厳密に考えていなかったので、こんなにも大変なことだったのかとようやく気づいた。

もしかしたら、今日は血を抜けない可能性もあるな……。
と、密かに覚悟を決める。
もうリスケジュールも慣れっこ。つい心の予防線を張ってしまう。

「でも今のところ大人しく横になっててくれて、すごいねぇ」

そうなのだ。なんか急に寝かせられて、腕を縛られ好き放題ぺちぺち触られても、騒ぎも泣きもせず、ただ静かに事の次第を見守っている息子に私も驚いている。

しばらくぺちぺち叩いたり、血管を探ったりして、「よし、やってみようか」となった。

若い看護師さんが肩を、私が足元を押さえ、ベテラン看護師さんが採血する。

針が入った瞬間、息子が一瞬みじろいだ。
でも泣かない。

そして血が、出て、こない。

「だめだ……ごめんなさいね、反対側でやってみよう」

くるり、と寝そべっていたタオルごと回転させ右腕を出す。今度は私が頭側だ。

あっという間に針が入る。びくり、と息子の身体が動く。ごめんね、ちょっと我慢してね、とみんなで声をかけながら、祈るように管を見ると、

血が出てきた!

わーーー!やった!出てきた!よしよし!

今思うと大人3人に囲まれながら血を抜かれるなんてカオスだ。しかも一様に興奮している。

しかし今回は、血を結構抜かねばならぬらしい。
「もうちょっと!もうちょっとだからね〜出るかな〜」
と、息子の腕をもみさすりながら看護師さんが頑張って血を抜く。

まさに血を絞り出している感じ。

「アレルギー検査なら少なくても大丈夫だけど、今回は血液型も調べるから、もうちょっとないと……」

そうなのだ。アレルギー検査ついでに、自費で血液型も調べてもらうことにしたのだが、まさかそのせいで多めに血を抜く羽目になるとは。

ご、ごめんね……

と心の中で思うも、我々が必死で血を抜いている間、息子は身動ぎもせず、じっと赤い血液が自分の体から管を通って行く様を眺めていた。

腕を揉み、血を絞り出しながら看護師さんが言う。
「暴れないし、泣かないし、すごいお利口さんですね!普段から大人しいほうですか?」

いえ、やんちゃですし、イヤイヤ期まっさかりなので私も驚いています……。

私は案外気が弱く、採血からは目を背けてしまうので、ガン見しているのもすごい。

なんとか血が必要量に足るまで格闘している間、看護師さんも、私も、べらぼうに息子を褒めた。

ハイテンションな大人に褒め称えられながら血を抜かれる、カオス。

後処理をしながら「すごい、お利口さんだったね!なかなかこんな子はいないですよ。いっぱい褒めてあげてくださいね!日頃の教育もいいのかな。ちゃんと今日は採血だって伝えてきたんでしょう?」と私まで褒められて、こそばゆくなってしまった。

実は抵抗されたらどうしようと、「血を抜く」とは伝えていなかった。「病院いこうね」「検査だよ」とだけ。
ヘタレ母なのだ。
息子も本当は不安だったかもしれない。ごめん。

体調は悪くないのになぜ病院?と息子も訝しがっていたけれど、過去の経験から予防接種的なものと予想していたのかもしれない。
とにかく息子がすごいのだ。日々やんちゃだけど、肝心なところはしっかり押さえている感がある。

でも、労力の割に褒められない日々を数年続けていたので私もつい嬉しくなってしまったのも事実。
すごいのは息子であって、私じゃないぞ、と心の中で何度も頬をしばいた。

こういう心の隙をつかれると、団体に取り込まれたり、偏った思想に染まったりしてしまうんだろうなと痛いほどわかった。

誰か気軽に褒めてお願い。

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ところで、今回の採血で意外だったのは、息子の血が抜かれるのを見て「惜しい」と感じた事だ。

「痛そう」でも「可哀想」でもない。

「あっ、あっ、出てしまう……息子の一部が、出て行ってしまう」
「惜しい、体の中に戻したい……!」

自ら採血を依頼したのに、むくむくと、そんな感情が湧き起こってきた。

意外だった。

私は割と他人に興味がない方で、興味がないから悪い点もあまり気にならず、誰にでもフラットに接せられるタイプだ。

自分では冷たい人間だと思っていた。

もちろん、自分の血が抜かれても「早く終われ〜」としか思わない。結婚する程度には愛してる夫の血でも、採血くらいなら別にどうでもいいだろう。

でも、息子の血に対しては、抜かれるのが惜しい、なんて妙な気持ちになってしまった。

やっぱり、子どもというのは特別なのだろう。

特別って、むずかしい。

身近に過干渉な親に苦しんだ人がいたので、私はそうはならないぞ、我が子といえど、別の人格を持った別の個体。保護育成しつつも、本人の意思を尊重し、自立することを目指すのだ。手放すために育てるのだ、と思ってきた。

けれど、やはり他とは違う、並々ならぬ思いを抱いているらしい。

そりゃそうだ、毎日宇宙一かわいいもの、とも思うけれど、それが少し怖くもある。うーん、真面目が過ぎるかなぁ。

「母親は、胎内で子を育て、体を痛めて産むから子に特別な感情を抱く」というのは本当なのだろう。
子の年齢的にも、まだまだ甘えたい盛りでくっついてくるし、まだ母子一体的な時期なのかもしれない。

愛情があるのは良いことだ。けれど、その愛情がかえって悪い方にはたらくこともある。
その表裏一体が、少し、こわい。

怖いけど、この大変で慌ただしくてバッタバタな日々を選んだのも私。イライラすることもあるけれど、愛おしく、希望に満ちた、奇跡みたいな存在と一緒にいられることを、これからも楽しんでいきたい。

ただ、今回気づいた自分が特別な感情を抱いていることと、一抹のこわさも心片隅に置いておこうと思う。

ちなみに息子はO型でした。
誰にでも輸血できるね!尊い!!

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